脂肪の吸収を助ける胆汁の通り道に石ができる『胆石症』
「石がありますね」。人間ドックで指摘され、驚いたことのある人も多いのでは。胆石症は、消化器官の胆のうや、胆管に「石」ができる病気です。無症状の人がいる一方で、石が悪さをして、みぞおち周辺に耐え難い痛みが生じることも少なくありません。適切な治療を受けないと症状が全身に広がり、命にかかわることもあります。胆石症が疑われたら、すみやかに受診して検査を受け、状況に応じた治療を行うことが肝心です。

富山大学学術研究部医学系 内科学第三講座 教授
安田 一朗 先生 (やすだ・いちろう)
1990 年、岐阜大学医学部卒業。藤田保健衛生大学第二教育病院( 現・藤田医科大学ばんたね病院)、岐阜市民病院消化器内科、岐阜大学医学部附属病院第一内科、ハンブルク大学エッペンドルフ病院総合内視鏡部などを経て2014 年、帝京大学医学部附属溝口病院消化器内科教授。2018 年から現職。また2023 年から富山大学附属病院副病院長。日本胆道学会理事長・認定指導医、日本消化器内視鏡学会理事・専門医・指導医、日本消化器病学会監事・専門医・指導医。『胆石症診療ガイドライン2021(改訂第3版)』(日本消化器病学会編集)の作成委員会副委員長を務めた。
みぞおちに突然の激痛 腹膜炎や敗血症の危険も
胆汁は、肝臓でつくられる黄色の透明な液体です。肝臓から十二指腸へと胆汁を運ぶ管が胆管で、その途中にあって胆汁を濃縮して蓄えているのが胆のうです。食べ物が十二指腸に到達すると、胆のうがポンプのように収縮して胆汁を分泌し、脂肪の消化吸収を助けます。胆汁の通り道である胆のう、胆管、そして、出口にあたる十二指腸乳頭部を総称して胆道といいます。胆汁に含まれている成分が何らかの原因で結晶化し、胆のうや胆管の中に数㎜〜数10㎜の石(結石)ができる病気が胆石症です。患者さんの8割が胆のう結石で、2割が胆管結石、肝臓内の胆管に石ができる肝内結石も約2%あります。胆管結石には、胆管に生じた石(原発性)と胆のうから落ちてきた石(二次性)があり、両方に石があることも珍しくありません(下図)。胆のう結石で胆のうの出口に石が詰まると、胆汁を押し出そうと胆のうが強い収縮を繰り返すため、右の肋骨の下やみぞおち、背中に激しい痛みの発作が起こります。吐き気や嘔吐を伴うこともあります。発作は食後数時間内に起こりやすく、運よく結石が外れれば15〜30分ほどで治まりますが、患者さんの半数は1年以内に再発します。胆石が詰まったままの状態が続くと、胆のう内に細菌が増殖して急性胆のう炎を引き起こします。最悪の場合、腹膜炎(おなか全体の炎症)に進行して、高熱が出たり七転八倒するほどの激痛に襲われます。胆管結石では、出口である十二指腸乳頭部に石が詰まりやすいため、腹痛のほか、胆汁の流れが妨げられて黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)が現れます。また、腸内細菌などが胆管に逆流することで急性胆管炎を引き起こします。十二指腸乳頭部は膵臓の膵管の出口も兼ねるため、膵液が滞って膵炎を招くこともあります。さらに胆管で増殖した細菌が血液中に入り込み全身に回ると、敗血症という重篤な状態に陥り、意識障害や血圧低下などのショック症状をきたします。特に高齢者や基礎疾患のある人は、発症からわずか半日〜1日で命の危機が生じます。ただし、実際には無症状の人が多く、胆のう結石で8割、胆管結石で2〜3割の人には自覚症状がありません。人間ドックや健康診断で見つかるケースが大半です。
動物性脂肪過多や肥満 極端な体重減少にリスク
胆石は、その成分によってコレステロール石と色素石(主にビリルビンカルシウム石)に大別されます。前者は胆汁中のコレステロール濃度が高まり、溶けきれないで結晶化したものです。動物性脂肪の多い食事やカロリーが高い食事、脂質異常症、極端な体重減少、ダイエット、長時間の絶食、肥満、妊娠などがリスク要因として挙げられます。過激なダイエットや絶食をすると、胆のうが収縮する機会が減り、淀んだ胆汁が胆のうに溜って結石ができやすくなります。メタボリックシンドロームや脂肪肝が影響を及ぼすとの報告もあります。一方、ビリルビンカルシウム石は胆汁が腸内細菌などに感染することが原因と言われています。便秘で腸の中の圧が高くなったり腸に炎症が起こると腸の壁から腸内細菌が血管の中に入り、さらに肝臓で菌が血管から胆汁に入り込みます。胆のう結石ではコレステロール石が、胆管結石ではビリルビンカルシウム石が多くなっています。胆石症は珍しくなく、日本人の2〜10%に胆石があるとされています。高齢になると胆のうの収縮機能が低下するだけでなく、免疫力が低下して細菌感染しやすくなるため、年齢が上がるほど胆石の保有率は高くなります。高齢化と肥満人口の増加により胆石症の人はさらに増える傾向にあります。胆石症が疑われる場合、まず石がどこにあるのか、その数や大きさ、そして炎症の有無が診断のポイントになります。問診や触診とともに、血液検査で炎症反応や臓器障害の程度を調べます。特に重要なのが画像検査で、腹部超音波(エコー)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査の1つであるMRCP(磁気共鳴胆管膵管画像)検査、EUS(超音波内視鏡)検査(下図)、検査と同時に治療も行えるERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管撮影)検査などがあります。腹部超音波検査は、おなかに超音波を発信する装置(プローブ)を当てるだけの安全で負担の少ない検査法で、高い確率で胆のう結石や肝内結石を診断できます。ただし、胆管結石は見えにくいので、CTやMRCPのほうが適しています。
胆 管結石は治療が原則 内視鏡を使って除去
重症化しやすい胆管結石、石のある場所によって違う治療法
胆管結石の場合は、重症化のリスクが大きく進行も早いことから、症状の有無にかかわらず治療をします。腹痛、黄疸、発熱があるときは、より緊急性が高いので、絶食、点滴、抗生物質の投与とともに、できるだけ早くドレナージ治療を行います。石の除去は、内視鏡を使った治療が主流です。内視鏡を十二指腸乳頭部まで進め、胆管の出口を電気メスで切開したり、バルーン(風船)カテーテルを膨らませたりして出口を広げたうえで、ワイヤー製のバスケット(かご)鉗子で石をつかんで取り除きます(下図)。胆のう摘出術には胆汁漏れや出血の、胆管結石の内視鏡治療には急性膵炎や消化管穿孔などの合併症リスクがあります。医師の説明を十分に理解してから治療を受けるべきですが、いずれも発生率は数%以下と報告されています。胆のう結石は胆のうを摘出すれば完治しますが、胆管結石は数%〜20%の確率で再発することがあります。治療後も腹痛や発熱など気になる症状があれば、早めに受診しましょう。肝内結石は、胆のう結石や胆管結石よりもがん(肝内胆管がん)を合併するリスクがやや高いため、がんの診断が最優先です。がんがなく、何らかの症状があれば外科手術か内視鏡治療で石を除去しますが、無症状ならば経過観察も可能です。その後も定期的にエコー検査や血液検査を受けましょう。
予防は日常生活改善から 1日3食で便秘を避ける
胆石症を予防するには日常生活の見直しが欠かせません。肥満、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は胆石症と密接な関係があることがわかっています。運動不足の解消とバランスのとれた食事で、これらの病気をコントロールすることが大切です。特に、血液中のコレステロール値に影響を及ぼす動物性脂肪の取り過ぎには気をつけましょう。また、胆のうに負担をかけないよう朝昼晩、規則正しい食事を心がけましょう。便秘を避けることも大事です。便秘になると腹圧が高まり、腸内細菌が胆管に逆流して感染を起こし、ビリルビンカルシウム石ができやすくなります。「石をつくらない生活」は健康長寿への近道なのです。