くすりとサイエンス『そもそも、くすりって何だろう?』
くすりはいろいろな工程をたどってつくられています。
今回は、安全で効果のあるくすりが出来上がるまでのエピソードをご紹介しましょう。
サイエンスライター
山口 悟 先生 (やまぐち・さとる)
はじめまして。私は薬剤師の資格を取得後、製薬会社や薬学部でくすりの研究に携わってきました。今は研究の場から離れて、薬学や化学の分野を中心に、みなさまに科学を伝えるサイエンスライターとして活動しています。これから毎号くすりについてお話していきます。
北里大学薬学部卒業、薬剤師の資格取得。東京工業大学大学院博士課程単位取得退学後、博士(理学)の学位を取得。専門は有機化学。製薬会社研究員、東京薬科大学教員を経て、サイエンスライターとして活躍。著書に『「なぜ薬が効くのか?」を超わかりやすく説明してみた』(ダイヤモンド社)ほか。
タンパク質と結合して 体に影響を与える
まずはくすりとはどのようなものなのか、少し詳しく見ていきましょう。くすりを専門的に語るうえで「タンパク質」の存在は欠かせません。タンパク質は、人の体を構成する主要な成分の1つですよね。人の体内にはさまざまな働きをもつタンパク質が10万種類もあると言われているんです。
一般的にくすりは、体内にある特定のタンパク質に結合します。そして、そのタンパク質の働きを促したり抑えたりして、体に影響を与えるのです。
錠剤やカプセルの中に含まれる有効成分の1つひとつはとても小さな物質で、化学式で表されます。直接目で見ることができないほど小さく、たとえば上の図に示すような化学的な構造をもっています。人類は長い歴史の中で研究を重ね、これらの物質を見つけ出し、くすりとして利用してきたわけです。
製薬会社や大学での くすりの研究とは?
私は、製薬会社と大学で微力ながらくすりの研究にかかわってきました。ここからは自己紹介も兼ねて、過去に行っていた研究の話をしていきますね。
私が製薬会社で携わっていたのは、化学反応によって医薬品の有効成分を工場で製造するための研究です。数gであればフラスコの中で比較的簡単につくれますが、工場で一度に数十〜数百kgもつくるとなると、人が入れるくらい大きなステンレス製の釜を使うのが一般的です。その中に固体や液体の薬品を入れて化学反応を起こすわけですが、成功させるのは決して簡単なことではありません。
焼きそばでたとえると、家で1人前をつくるのと、お祭りなどで十数人分を一度につくるのとでは、難易度がかなり違いますよね?「熱が満遍なく麺に伝わってない」「ソースが均一に混ざってない」など、いろいろな問題が起こるはずです(私も学園祭でつくって苦労した記憶があります)。
釜の中で化学反応を起こさせる際も同様に、「熱がしっかり伝わっているのか」「固体の薬品はちゃんと溶けているのか」などの問題をクリアしなくてはなりません。また、実際に医薬品として患者さんの体の中に入るものなので、「不純物はできていないか」というチェックもしっかりと行う必要があります。
製薬会社の研究というと、新しいくすりの開発を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、このような研究も行っています。
大学では薬学部で「有機化学」という分野の研究を行っていました。具体的には、キノコや植物に含まれる物質を、化学反応によって人工的につくる研究です。その過程で生み出された化学反応は、新しいくすりを開発する際の鍵になるかもしれません。大学では、くすりの開発に直接役立つわけではないけれど、やがて新薬の誕生に結びつくような、基礎的な研究を行っていたわけです。
このような研究の積み重ねもまた、人々の健康を支える製品を生み出すために欠かせないものなのです。




