食事や体の動かし方で改善!『便失禁』

食事や体の動かし方で改善!『便失禁』

 口に出せないだけで、意外に多くの人が悩んでいる便失禁。「便がもれるかも」という不安から、会食や旅行などの楽しみをあきらめている人も少なくありません。しかし便失禁は、便をもれにくくする食事法と体の動かし方を実践することで、確実に症状を改善できます。そのポイントを身につけて、以前のように不安なく外出できる活動的な日々を取り戻しましょう。

監修

亀田総合病院 消化器外科 部長、亀田京橋クリニック 直腸肛門外来

高橋 知子 先生 (たかはし・ともこ)

1994 年、東京女子医科大学卒業。社会保険中央総合病院、社会保険山梨病院などで大腸肛門疾患の治療に従事した後、2013 年、亀田総合病院に勤務。同年より、亀田京橋クリニックで「女性のためのこう門おつうじ外来」を担当。専門分野は肛門疾患、排便機能障害、分娩後骨盤底障害。日本大腸肛門病学会専門医・指導医・評議員。

肛門の筋肉を損傷すると 若くても便がもれる

 便失禁とは、自分の意思に反して便がもれることです。その症状から、便意がなく気づかないうちにもれる漏出性便失禁、便意はあるもののトイレに行くまで我慢できずにもれてしまう切迫性便失禁、両者が混在する混合性便失禁の3つに分類されます。
 便失禁があると、日常生活はいろいろ制限されます。「出先でもれたら」という不安から、家に閉じこもりがちになり、外出しても、常にトイレの場所を確認するようになります。また、春夏でも淡い色の服を避けることも。仕事などで外出せざるを得ない場合に備え、食事を抜き、健康障害を起こす人もいます。
 このように、生活全般にマイナスの影響を及ぼす便失禁。困っている人は日本で500万人以上いるといわれています。そのほとんどは高齢者だと思われがちですが、実際はそうでもありません。高齢者に多いのは事実ですが、20代にもみられますし、30代になるとさらに増えてきます(下表)。便失禁の原因は複数あり、加齢はその1つにすぎないからです。主な3つの原因は次の通りです。
●肛門括約筋の老化
 最も多い原因です。肛門の筋力は加齢に伴って低下するため、肛門を締める力が弱くなり、気づかないうちに便がもれやすくなります。
●肛門括約筋の損傷
 出産、直腸や肛門の手術などによって肛門括約筋が切れたり傷ついたりすると、便がもれやすくなります。若い世代に多い原因です。
●便通異常
 便がゆるいと、肛門が正常でももれやすくなります。便をゆるくする食品やアルコールなどの摂取量が多い人、過敏性腸症候群の下痢型の人は便失禁のリスクがあります。

まず通所施設の看護師や かかりつけ医に相談を

 便失禁がある人の8割以上は受診していないといわれており、だれにも相談できずに悩んでいる人が多数いると思われます。恥ずかしさがあるうえ命にかかわらないこと、また、受診しようにも、どこに行けばいいのかわからないことも理由でしょう。
 高齢者の排泄ケアは、もともと看護師が担当しています。デイサービスやデイケアを利用している人は、まず、その施設の看護師に相談することをお勧めします。
 また、日本大腸肛門病学会は、専門医でなくても適切な治療ができるように、『便失禁診療ガイドライン2017年版』を発表しています。専門医を探す前に、内科のかかりつけ医に話してみるといいでしょう。
 便失禁の治療は第一に食事療法です。さらに、体の使い方のコツを体得するのも効果があるようです。
 このような生活習慣の改善だけで、多くの場合、日常生活に支障がない程度まで症状が改善します。
 生活習慣改善の効果が不十分なときは、薬物療法を併用します。使用するのは、便失禁の原因になっている下痢を改善する飲み薬です。ここまでの治療で、大多数の人は「よくなった」と実感できるようになります。
 それでも満足が得られなければ、次のような専門的な治療へと進みます。
●バイオフィードバック療法
 肛門の筋肉の動きを波形にして目で確認しながら、肛門の締め方や力の入れ方を訓練します。
●仙骨神経刺激療法
 骨盤にある仙骨の穴に小型の電極を埋め込み、仙骨神経に刺激を与えて活性化させます。便失禁の回数が半減するなど、8割の人に効果があります。
●括約筋形成術
 出産で損傷した肛門括約筋(肛門を締める筋肉)を縫合する外科手術です。

便をゆるくする食品を 避けるだけで劇的に改善

 治療で指導される生活習慣の内容を紹介しましょう。やろうと思えば自分でできることばかりです。
 食事療法ポイントは次の2点です。
●白米ご飯を1日2膳以上とる
 1日3食のうち、少なくとも2食の主食を白米のご飯にし、1食につき1膳食べます。白米のでんぷんには便をまとめる働きがあります。小麦には逆に便をゆるくする作用があるので、パンや麺類は多くても1日1食に。
●便をゆるくする食品を避ける
 FODMAP(フォドマップ)という言葉を聞いたことがありますか。発酵性の糖質(F)、オリゴ糖(O)、二糖類(D)、単糖類(M)、And(A)、糖アルコール(P)の英語の頭文字をとっ たものです。これらが多く含まれている食品を食べると便がゆるくなるため、できるだけ避けましょう。
 代表的な高FODMAP食品は下のイラストの通りです。高FODMAP食品には一般に「健康によい」とされるものが多数含まれているので、注意しましょう。
 以上の2点を確実に実行するだけで、6~7割の人はもれにくくなります。効果は数日で現れ、1か月続けると劇的に改善します。
 その時点で、やめていた高FODMAP食品の中から食べたいものを1つ選び、食事に取り入れます。便がゆるくならなければ、以後はその食品をとっても問題ありません。その後、別の食べたい食品を同じ方法で試します。同じ食品でも人によって反応が違うので、自分とその食品の相性を1つ1つ確かめます。
 また高齢者では、残っている歯が少ない、入れ歯が合わないなどの理由でうまくかめず、消化不良を起こして軟便になることがあります。その場合は、食材の繊維を細かく断ち切る、肉は固まりでなくひき肉にするなど、調理の工夫で便の性状を改善できます。

「ハー」と息を吐きながら 腹圧をかけない動作を

 体の動かし方について説明します。
 無意識に便がもれるのは、多くの場合、体を動かしているときです。たとえば、腰かける、椅子から立ち上がる、物を持ち上げる……。こんな動作をするとき、無意識のうちにおなかに力が入り、腹圧がかかります。マヨネーズの容器のキャップをゆるく締めてギュッと握れば、中身は飛び出してし まいます。動いた拍子に腹圧がかかって便がもれるのは、これと同じ状態です。
 そこで、体を動かすときは意識しておなかに力を入れないようにします。そのためのコツは3つあります。
A. 頭から尾骨までまっすぐ伸ばした状態を保つ
B. 「ハー」と息を吐きながら動く
C. 勢いをつけず、ゆっくり動く
 注意が必要なのはBです。息を吐くときの声は必ず「ハー」にします。「フー」はいけません。「ハー」なら、力が抜けておなかが引っ込みますが、「フー」だと力が入っておなかが膨らみやすいからです。仰向けに寝た状態で違いを確かめるとよいでしょう。
 日常生活のあらゆる場面で、おなかに力が入りそうなときは、A、B、Cの3つを意識して体を動かします。腰かける場合なら、まず、スクワットをするときのようにお尻を突き出し、A、B、Cを守って腰を下ろします。低い所にある物を持ち上げる場合は、まず片足を1歩前に出し、A、B、Cを守って持ち上げます(下イラスト)。

実践したい、もれない工夫 あきらめないことが大切

●おなかに力が入る運動をしない
 腹筋運動がその代表です。ジョギングや縄跳びも、着地のとき体重の数倍の重力が足にかかって腹圧を上げるので避けましょう。お勧めは水泳です。
●ガードルは着用しない
 お腹を締め付けることによって、腹圧が高くなり便がもれやすくなります。また体を支える筋肉が退化します。
●便失禁用パッドを使う
 ときどき少量もれるという程度の人は、紙おむつよりパッドがよいでしょう。尿失禁用を使っている人が多いのですが、固形物が入った便のもれを防ぎきるのは困難です。便失禁用パッドは通販サイトで入手できます。
 便失禁は、生活習慣を変えるだけで改善し、飲み薬などを併用することで治せたり、少なくとも症状を軽くしたりできます。
 あきらめずにセルフケアや治療に取り組みましょう。

ライター 竹本 和代

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