全身に原因不明の激しい痛みが続く『線維筋痛症』

全身に原因不明の激しい痛みが続く『線維筋痛症』

 体のあちこちに激しい痛みが続くのに、一般的な検査をしても異常が見つからない線維筋痛症。主症状は関節や筋肉の痛みですが、頭痛、腹痛、疲労感、不安やうつなど多彩な症状を併発し、生活の質(QOL)を低下させます。早く治療を始めれば回復する可能性は高まりますが、推定患者数200万人以上に対し、適切な治療を受けている人は数万人といわれます。早期発見のポイントや治療法、日常生活での注意点などを紹介します。

監修

順天堂大学医学部 精神医学講座 先任准教授、順天堂練馬病院メンタルクリニック

臼井 千恵 先生 (うすい・ちえ)

2000 年、順天堂大学医学部卒業。2007 年、同大学院修了。同年、順天堂大学医学部精神医学講座助教、2009 年、准教授、2021 年より現職。日本線維筋痛症学会副理事長、「線維筋痛症診療ガイドライン」作成委員長。日本精神神経学会専門医・指導医。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。一般財団法人難病治療研究振興財団理事。記事で紹介した無料アプリ「いたみノート」を開発。

痛いけれど 原因がわからない

 線維筋痛症は、全身の広い範囲で痛みが3か月以上続いたり、再発を繰り返したりする慢性の病気です。痛みの程度は人によって違いますが、「ナイフで切られるよう」など、強い表現で激痛を訴える人が少なくありません。痛みは季節、天候、時間帯などによって変化し、ストレスなど心の状態にも影響を与えます。
 痛みを訴える患者さんに対しては一般的に、血液・尿検査、レントゲンやCTなどの画像検査などを行って原因を調べます。これらは、体の組織や、痛みにかかわる神経に損傷がないかを調べる検査です。しかし、これらの検査を行っても異常が見つからず、医療機関を転々とし、その間に心身の状態が悪くなっていくケースが多々みられます。
 検査で異常が見つからないのは、この痛みが体の組織や神経の損傷によるものではなく、痛覚変調性疼痛という痛みだからです。
 また、痛みに加えて、全身に及ぶさまざまな症状を併発するのも線維筋痛症の特徴です。

 

推定患者200万人以上 女性は男性の約5倍

 線維筋痛症について、厚生労働省研究班が2003年から調査をした結果 によると、全国の平均有病率は1.7%。大都市では2.2%、地方では1.2%で、地域差があることがわかりました。性差も顕著で、男性1に対し女性は4.8でした。欧米では女性が7~8と、より差が大きくなっています。有病者の平均年齢は51.5歳で、発症時の平均年齢は43.8歳と推定されています。
 また、2011年には日本線維筋痛症学会のグループがインターネット調査を実施しており、有病率は2.1%でした。線維筋痛症は、骨や関節が痛む病気の総称であるリウマチ性疾患の1つに分類されていますが、その代表的な疾患である関節リウマチより高い割合で、推定患者数は212万人にのぼります。
 コロナ禍などで社会のストレスが増大している現在、患者数は調査時より増えていると考えられています。

信頼できる医療機関へ 早期治療が重要

 線維筋痛症は、早く治療を始めるほど回復する可能性が高くなります。痛みを自覚してから5年以内に治療を始めた人は、痛みが最大時の半分以下に減り、治療不要になったとの報告もあります。線維筋痛症かもしれないと思ったら、できるだけ早く、この病気に詳しい医療機関を受診しましょう。
 その際、どんな医療機関を選ぶかは非常に重要です。この病気は医師の間でも周知されているとは言い難く、正しく診断されないケースも少なくありません。ある報告によると、線維筋痛症とわかるまでに、6~7割の患者さんはほかのリウマチ性疾患と間違われ、そのうちの約4割は関節リウマチと診断されていたそうです。信頼できる医療機関の情報は、日本線維筋痛症学会のホームページで得られます(診療ネットワーク参加医療機関マップ)。http://jcfi.jp/network/network_map/index.html
 また、厚生労働省研究班と日本いたみ財団が運営する「慢性の痛み情報センター」というサイトに、「病院のご紹介」というページがあります。https://itami-net.or.jp/hospital
 これらに掲載された医療機関が遠い人は、近くの総合診療科、リウマチ科、ペインクリニック、精神科、整形外科などに相談するとよいでしょう。

薬で痛みを抑え、運動や瞑想でストレスを軽減

 線維筋痛症が起こるメカニズムはまだ解明されていません。原因不明ですから根本的な治療法はないということを受け入れ、病気を正しく理解することが重要です。そのうえで、日常生活に支障がない程度に症状をコントロールすることを治療の目標とします。
 原因不明といっても、痛みの原因が関節や筋肉などの末梢組織ではなく、脳や脊髄などの中枢神経系にあるということは明らかになっています。治療はそこをターゲットに、薬物療法と非薬物療法の両面から働きかけます。
 薬物療法では、痛みを伝えるグルタミン酸などの神経伝達物質の過剰放出を抑えるプレガバリンと、痛みを抑えるセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を増やすデュロキセチンが用いられます。そのほか、症状に応じて抗うつ薬、抗痙攣薬、消炎鎮痛薬なども併用されます。
 非薬物療法では、運動療法が主体になります。ウオーキングなどの有酸素運動、筋トレなどのレジスタンス運動、瞑想を取り入れたヨガや太極拳などのうち、自分に合ったものを選ぶといいでしょう。ウオーキングの場合、1日8000歩以上歩くと痛みが軽減するという報告があります。
 痛みはストレスと深くかかわっています。過度のストレスは痛みを引き起こしやすく、ストレスが減ると痛みもやわらぐので、日常生活ではストレスを減らすことを心がけましょう。瞑想によって意識を“今”に集中させるマインドフルネスは、ストレス軽減の効果があります。
 この病気の患者さんには、調子がいいと目いっぱい活動し、その結果、症状を悪化させる傾向がみられます。頑張りすぎは禁物です。自分がどういうときに痛いのかを知り、自分に合ったペースを維持できるよう自己管理しましょう。
 スマートフォン用無料アプリ「いたみノート」は、毎日の気象情報と自身の痛みのレベルを記録できます。歩数などを記録するヘルスケアアプリとも連動しており、身体活動量との関係がつかめます。こうしたツールを活用するのもよいでしょう。

ライター 竹本 和代

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする