Dr.中原の健康こぼれ話67
西武学園医学技術専門学校 東京校 校長/医学博士
中原 英臣 先生
撲滅されるがん
現在、日本人の死因のトップはがんですが、その中に撲滅できるがんがあります。「成人T細胞白血病(ATL)」と呼ばれる血液のがんです。ATLウイルスを発見した日沼頼夫氏が中心となって、1987年からATLウイルスを撲滅しつつあります。
ATLウイルスは免疫細胞である「T細胞」と呼ばれるリンパ球に感染して白血病を引き起こします。しかし、ATLウイルスに感染しても病気にならない「キャリア」と呼ばれる人がいます。
ATLウイルスの感染経路は主にキャリアの母から子への母子感染です。このキャリアの母親が赤ちゃんへ母乳を与えるという感染ルートを断つことができれば、ATLウイルスを撲滅することができます。
そのため、妊婦を対象にATLウイルスのキャリアであるかどうか調べる血液検査を行います。その結果、キャリアとわかった妊婦には、主治医から母乳でなく人工栄養を与えたほうがいいと指導されます。
1998年にまとめられた報告書をみると、ATLウイルスの撲滅運動がスタートしてから10年で約5,000人のキャリアの妊婦に赤ちゃんに母乳を与えないで人工栄養を与えるように指導した結果、ATLウイルスの感染率はわずか2.7%に減りました。
このままいくと二世代で0.07%、三世代目では0.002%まで減るでしょう。このようにATLウイルスのキャリアは、世代を重ねることによって確実に減っていき、最終的にATLウイルスを撲滅することができるのです。
長いこと人類の夢だったがんの撲滅というドラマが成功しつつあるのです。




