命を奪うこともあるが予防が肝心!
命を奪うこともあるが予防が肝心!
『マダニ媒介感染症と百日咳』
行楽シーズンになりました。アウトドアや畑仕事などの際に気をつけたいのが、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)や日本紅斑熱などのマダニ媒介感染症です。体調不良の猫など、ペットを介した感染も報告されているので注意が必要です。また、2025年に流行した百日咳の動向も気になります。マダニや蚊が媒介する感染症と百日咳など、注目されている感染症とその対策についてまとめました。
国立国際医療センター 国際感染症センター トラベルクリニック医長
氏家 無限 先生 (うじいえ・むげん)
昭和大学医学部卒業。長崎大学熱帯医学修士課程修了。国立国際医療研究センター国際感染症センター勤務、厚生労働省健康局結核感染症課課長補佐/ 国際感染症情報専門官、厚生労働省大臣官房厚生科学課課長補佐、スイス・GAVI ワクチンアライアンスのシニアプログラムマネジャーなどを経て、2018 年9 月より現職。予防接種支援センター長兼任。専門は、熱帯・渡航医学、感染症予防。
病原体をもつマダニから マダニ媒介感染症に
マダニは、動物や人間の血を吸うダニの一種で、野山や草むらだけでなく、市街地の公園や畑、河川敷などに生息しています。春から秋(3〜11月)を中心に活動が活発になります。成虫の体長は3〜8㎜で、アレルギーの原因となるチリダニや寝具などにつくツメダニ(0・3㎜ 程度)とは異なり、肉眼で確認できます。
マダニに注意が必要なのは、病原体をもっているマダニにかまれたあと、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ダニ媒介脳炎、日本紅斑熱、ライム病などのマダニ媒介感染症を発症することがあるからです(下表)。
特に注目されているのがSFTSです。SFTSウイルスに感染すると、6〜14日の潜伏期間を経て、発熱、倦怠感、頭痛、リンパ節の腫れ、食欲低下、吐き気・おう吐、下痢、ショック、意識障害などの症状が生じます。国内でのSFTS感染者は増加傾向にあり、その致命率は約10〜30%です。
SFTSウイルスをもっているマダニは当初は西日本に多かったのですが、関東地方や北海道でも感染症例が確認され、感染地域は拡大しています。
マダニは高さ1mくらいの植物の葉陰に潜んでいて、動物や人間の体に付着して皮膚にかみつき、吸血します。ほかのマダニ媒介感染症も含めて、病原体をもっているマダニかどうかは見分けがつきません。
屋外活動をするときは マダニ対策が必須
SFTSなどのマダニ媒介感染症を防ぐためには、野山や河川敷、植物の多い公園、畑などで屋外活動をするときに、長そで・長ズボンを着用し、肌の露出を防ぐことが大事です。暗い色の服より明るい色の服のほうが、マダニが付着しているか確認しやすくなります。
肌の露出部分には、マダニに効果があるディートやイカリジンが入った虫よけ剤を使いましょう(下表)。
屋外活動後は玄関の前で上着を脱ぎ、家の中にマダニを持ち込まないようにします。服にマダニが付着していたらガムテープなどで取り除き、すぐにシャワーや入浴をしましょう。衣類や体にマダニが付着していないかを確認してください。
マダニにかまれたときは、できるだけ早く皮膚科などの医療機関を受診し、取り除いてもらいましょう。無理に取り除くと虫の一部が残ってしまったり、虫の体がつぶれ体液に触れたりすることで、皮膚トラブルなどが起こることがあります。
かまれた後、数週間は体調の変化に注意し、発熱、吐き気・おう吐、下痢などの症状がみられたら医療機関を受診しましょう。その際、マダニにかまれたことを医師に伝えることが大切です。SFTSの予防ワクチンはありませんが、抗ウイルス薬のファビピラビルが2024年にSFTS治療薬として、承認され保険適用になりました。
ペットを介しSFTSに 感染する症例も
猫や犬などのペットを介してマダニ媒介感染症にかかる症例もあります。2025年には、SFTSを発症した猫を診療した三重県の獣医師が感染して亡くなった事例が報告されました。ペットに発熱などの体調不良があるとき、またはマダニが付着している可能性があるときは、キスをしたり口移しでエサを与えたり、一緒に寝たりするなど、ペットとの濃厚な接触を控えることが重要です。また、動物に触ったときには石けんで手を洗いましょう。
ペットの体調が悪いときには、マスクや手袋などをし、なめられたりかまれたりしないように注意して、動物病院を受診することが大事です。マダニにかまれたことがわかっている場合は、そのことを必ず獣医師に伝えましょう。
海外渡航前にはトラベル クリニックの受診を
マダニだけでなく、日本脳炎、デング熱、ジカ熱、チクングニア熱、マラリアなど、蚊が媒介する感染症にも注意が必要です。2014年には、東京都渋谷区の公園などからデング熱の国内感染が広がりました。2016年には、海外でデング出血熱に罹患した30代の女性が、帰国後に死亡する事例も発生しています。
ただ、今のところ、定期予防接種の対象である日本脳炎以外の蚊媒介感染症は、海外からの渡航者や帰国者が持ち込む輸入感染症がほとんどなので、国内ではそれほど警戒する必要はありません。蚊媒介感染症の流行地域を旅行する際には、マダニ媒介感染症対策と同じように、肌の露出を避け、ディートやイカリジンの入った虫よけ剤を使うなどして、蚊に刺されないようにしましょう。
温暖化の影響で、マダニや蚊が媒介する感染症は今後も世界的に増える可能性があります。
デング熱とチクングニア熱に関しては、日本では未承認の予防ワクチンが承認されている国もあります。流行地域に長期滞在する場合には、滞在先でのワクチン接種を検討するとよいでしょう。マラリアには予防内服薬があり、トラベルクリニックなどで国内でも処方が受けられます。
蚊媒介感染症以外にも、海外ではA型肝炎や狂犬病など、日本であまり発生していない感染症が流行している地域があります。特に東南アジア、アフリカ、中南米などへの旅行、その他の地域も含めて留学、海外赴任をする人
は、必要な準備を完了できるように出発の1か月以上前にトラベルクリニックを受診し、予防ワクチンの接種や予防薬の服用を相談しましょう。
2025年に続き、 今年も百日咳が流行か
2025年には百日咳が、全数把握対象疾患となった2018年以降、過去最高を記録しました。2025年第52週(12月28日)までの年間累計患者数は8万9387人と、過去最高だった2019年の年間患者数1万6850人を大きく上回っています。
百日咳は、百日咳菌による急性気道感染症で、主な感染経路は飛沫および接触です。症状は、通常2〜3か月程度かけて回復するとされ、疾患名の由来となっています。最初は咳、鼻水など風邪のような症状ですが、1〜2週間すると激しく咳き込む発作性の咳が続き、息を吸うときにヒューッという音がしたり、咳き込んだあとにおう吐したりします。
百日咳やインフルエンザなどの呼吸器感染症の患者数は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、感染症対策が強化された時期に大幅に減少しました。感染症対策が緩和されて以降は、その反動もあり世界的にも百日咳の感染者が増えています。2 0 26年の春以降も百日咳の流行は続く可能性があります。
感染を防ぐために有効な手段は、百日咳予防ワクチンを含む混合ワクチンの接種です。現在は、生後2か月以降の乳幼児期に4回、百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオ(急性灰白髄炎)、Hib(ヒブ)感染症(細菌性髄膜炎、喉頭蓋炎など)を予防する5種混合ワクチンを公費で定期接種できます。
ただし、百日咳のワクチンは接種完了後から4〜6年で有効性が低下してしまうため、予防接種を受けていても学童期にはかかりやすくなります。
そのため、日本小児科学会は、小学校入学前と11〜12歳に1回ずつ、百日咳、ジフテリア、破傷風の3種混合ワクチンを任意接種することを推奨しています。特に、ワクチン接種が完了していない1歳未満の赤ちゃんが感染すると重症化しやす、無呼吸発作や重症肺炎、脳症などで生命にかかわる重篤な病態となることもあります。出産予定のある家庭は、出産前に家族で3種混合ワクチンの接種を検討するとよいでしょう(下表)。
海外では、妊婦への百日咳含有ワクチン接種が、出生後早期の乳児を守る対策として推奨されています。日本では利用できるワクチンや適応が限られるため、接種を希望する場合は産科の医師などに相談をしましょう。
2026年4月からは、乳児がかかると肺炎になることもあるRSウイルス感染症の予防ワクチンを妊婦が公費(無料または一部自己負担)で定期接種できるようになります。このワクチンは、妊婦が接種すると胎児に抗体が移行する母子免疫ワクチンです。
また近年、海外での流行に伴い、渡航者からはしか(麻しん)の感染が国内で広がる事例が増えています。はしかは、感染力が強く、重症化すると脳炎や肺炎などにつながる恐れがあります。母子手帳や接種記録を確認し、麻し・風しん混合ワクチン(MRワクチン)の接種を2回受けていない人は、海外渡航などの機会に、ぜひ接種を検討してください。
ワクチン接種を含めて、適切な感染予防策を講じることが、自分と周囲の人の健康を守ることにつながります。
2026年3月現在




