胸やけ、呑酸、睡眠障害、成人の20%が『胃食道逆流症』

胸やけ、呑酸、睡眠障害、成人の20%が『胃食道逆流症』

「食事のあと決まって胸やけがする」「酸っぱい液体がこみあげる感じがした」。胃酸などが逆流して起こる胃食道逆流症。患者数は成人の10〜20%とされるほど多く、「新たな国民病」とも呼ばれています。重症化すると「仕事に集中できない」「よく眠れない」など生活の質も下がります。「持病だから」と放置するのは禁物。正しい診断と内服薬などによる治療、そして食事や生活習慣を見直すことで改善が期待できます。

監修

川西市立総合医療センター 総長

三輪 洋人 先生 (みわ・ひろと)

1982 年、鹿児島大学医学部卒業。米ミシガン大学内科リサーチフェロー、順天堂大学消化器内科講師、兵庫医科大学内科学消化管科主任教授、同大学理事、副学長などを経て、2022 年9月から現職。日本消化器病学会副理事長、日本神経消化器病学会理事長などを歴任。専門は内科学、消化器内科学、神経消化器病学。2022 年9月からYouTube「Dr. 三輪洋人の健康チャンネル」開設。

胃酸が上がって食道刺激 実は炎症のないタイプも

 胃酸は胃液の主成分の1つで、消化を助けたり、細菌を殺したりする役割を担っています。この胃酸などが、胃と食道のつなぎ目(噴門)から逆流することにより、食道炎(粘膜のただれ)や不快な症状を引き起こす病気が胃食道逆流症です。

 その主な症状は胸やけ呑酸です。胸やけは、胸の中央(みぞおちの上あたり)がジリジリ焼ける、あるいは沁みるような感覚で、よく混同される胃もたれ(おなかの膨満感、重苦しさ)とは明確に違います。呑酸とは、酸っぱい液体がのどや口の中にまで上がってくるような不快感があることです。症状は食後2〜3時間のうちに現れることが多く、胸やけや呑酸のほかに、狭心症に似た胸の痛み、慢性的な咳や声がれ、のどの違和感、耳の痛みなどを訴える人もいます。就寝中にも起こりやすく、最近では睡眠障害(夜中に何度も目覚めるなど)の原因として注目されています。

 胃食道逆流症には①食道炎があり自覚症状もある、②食道炎があるが、自覚症状はない、③食道炎はないが、自覚症状はある、という3つのタイプがあり、①と②を逆流性食道炎、③を非びらん性逆流症と呼びます。② は健康診断や人間ドックで内視鏡検査を受けるとわかります。③の非びらん性逆流症は、食道が知覚過敏になり、わずかな量の胃酸や低酸性度の胃液にも反応して起こるもので、実は胃食道逆流症の患者さんの半数以上を占めています。女性や痩せ型の人に多い傾向があります。

括約筋と胃の連携に乱れ おなかの圧力上昇も関与

 胃と食道のつなぎ目には下部食道括約筋という筋肉があり、食べ物を通過させるとき以外はしっかりと締まって、胃の内容物の逆流を防いでいます。ところが胃食道逆流症の患者さんの場合、飲み込み(嚥下)とは無関係なタイミングで下部食道括約筋が緩んでしまうために、胃酸の逆流が生じます。これを一過性LES弛緩といい、食べ過ぎや早食い、脂肪分の多い食事(脂肪は下部食道括約筋を緩めるホルモンの分泌を促す)、加齢などが引き金となります。

 逆流を誘発するもう1つの大きな要因は、腹圧(おなかの内部にかかる圧力)の上昇により胃が圧迫されることで、その最大の原因は肥満です。特におなかのまわりに脂肪がたっぷりついた内臓脂肪型肥満の人は、リスクが高まります。同じ理屈から、妊娠、骨粗しょう症などに伴う円背(背中が丸まった状態、猫背)、前屈みの姿勢を長時間強いられる作業なども、胃食道逆流症を引き起こしやすくなります。

 さらには、胃酸そのものの過剰な分泌という問題があります。もともと日本人には少なかった胃食道逆流症は1990年代後半から急激に増えています。その背景として、① ピロリ菌の感染率が低下して胃酸の分泌量が多い健康な胃を持つ人が増えた、② 食生活の欧米化(高たんぱく・高脂肪の食事で消化に多くの胃酸が必要)、③ 日本人の体格の向上に比例して胃酸の分泌能力が高まった、などが挙げられます。

 さらに、胃と食道のつなぎ目が横隔膜の上に飛び出す食道裂孔へルニアや食道の蠕動運動障害なども、胃酸が食道にとどまる原因となっています。

胃酸を抑える薬が基本 オンデマンド療法も

 胃食道逆流症の診断は、問診(専用の記入式問診票が使われることもある)と、内視鏡検査によって行われます。内視鏡検査は必須ではありませんが、胃食道逆流症の治療は長引くことが多く、安心して治療を続けるためにも、ほかの病気、特に食道がんや胃がんではないことを確認しておくことが重要です。長い間内視鏡検査を受けていない人は、この機会に受けておきましょう。

 胃食道逆流症に対する治療は、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)か、胃酸抑制効果や即効性がPPIよりも高いカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P - CAB)の内服が基本となります。炎症の範囲が広い重症の逆流性食道炎ではP - CABを、軽症の場合はPPIを4〜8週間服用します。多くの患者さんは、こうした治療によって食道炎が治まり、症状も緩和されます。PPIなどで十分な効果が得られないときは、消化管運動機能改善薬六君子湯などの漢方薬が併用されます。あるいは、症状が現れたときに、補助的に食道の粘膜を保護して胃酸の刺激を弱めるアルギン酸塩や胃酸を中和する働きのある制酸薬が用いられることもあります。

 軽症の患者さんは、薬物治療によって症状が治まったあと、生活改善などを実践することで支障なく日常生活を送れるならば、薬をやめても構わないでしょう。症状が出たときや出そうになったときにだけ薬をのみ、よくなったらやめるオンデマンド療法も選択できます。炎症が強かった患者さんは、食道が狭まったり、バレット食道(下コラム)からがんを発症したり、出血したりする恐かないときは、胃酸の逆流がない機能性胸やけや食物アレルギーなどに伴う好酸球性食道炎など、別の病気が考えられ、その場合は治療法が異なります。れがあるため、症状が改善したあとも薬をのみ続ける維持療法が推奨されています。服薬してもまったく効

重症には手術の選択肢も 腹八分目でゆっくり食事

 薬物療法のほかに、手術が選択されることがあります。薬物療法では十分な効果が得られない場合や、重症の食道裂孔へルニアを伴っている場合、若くして発症し薬物治療が長期にわたりそうな場合などに考慮されます。

 食道裂孔へルニアを伴う場合は、まず横隔膜の上に飛び出した胃を腹腔内に戻し、広がった裂孔を縫い縮めます。そのうえで、締まりが悪くなった下部食道括約筋の働きを補うため、胃の上部を食道に巻き付ける噴門形成術を施します(下図)。現在、ほとんどの医療機関で、患者さんの体への負担が少ない腹腔鏡手術によって行われています。この手術は、逆流を防ぎつつ食べ物をスムーズに通過させるという高い技術が求められるので、手術件数の多い施設で熟練した外科医に依頼しましょう。また、一部の医療機関では、内視鏡による治療も行われています。 胃食道逆流症は非常に再発しやすい病気で、予防のためには日常生活の見直しと改善が不可欠です。食事面では、食べ過ぎを避け「腹八分目」を守ることが第一です。満腹になると胃が張り、食道とのつなぎ目の噴門も開きやすくなるからです。ゆっくりと、よく噛んで食べることも大事です。食欲を抑える満腹中枢は食べ始めから15〜20分で働き始めるので、時間をかければ食べ過ぎを抑えられます。咀嚼によって消化が助けられ、食べ物が胃に滞留しにくくなるため、胃酸の分泌も減らせます。

 避けたほうがよい飲食物としては、脂っこい料理、お菓子やチョコレートなどの甘いもの、アルコール、コーヒー、柑橘類、炭酸飲料などが挙げられます。

夕食は就寝前早い時間に 横になる姿勢にも工夫を

 生活面では、腹圧を上げない工夫が大切です。肥満の解消(減量)は内臓脂肪を減らし腹圧を下げ、胃食道逆流症の改善効果が高いことがわかっています。食生活の見直しとともに、ウオーキングなどの有酸素運動によって脂肪を燃やし、適度な体重を維持しましょう。

 おなかを締め付けるような服装(ベルトの締め過ぎも)や、重い物を持ち上げることも腹圧を上昇させるので、なるべく避けます。仕事や家事で前屈みの姿勢をとることが多い人は、体幹をまっすぐに保つように意識します。喫煙は下部食道括約筋を弛緩させ、逆流を誘発します。禁煙が鉄則です。

 重症の患者さんは夜間に症状が現れるケースが多いことから、就寝前後の対策は重要です。夕食については、就寝前3時間以内と4時間以上前の場合を比較すると、3時間以内のほうが胃食道逆流症のリスクが高いという報告があります。夕食は少なくとも就寝の3時間前までに済ませましょう。

 寝るときに頭の側を25㎝ ほど上げ、上半身をやや傾けた姿勢にすると、就寝中の胃酸逆流が抑えられることがわかっています。また、右を下にして寝ると、胃の位置が食道より高くなって逆流が起こりやすいので、横向きに寝るなら左を下にするのがよいでしょう。

 無理なくできることから取り組み、不快な症状の改善を目指しましょう。

2026年3月現在

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