原因に応じて適切なケアを『口臭』

原因に応じて適切なケアを『口臭』

口臭は人間関係に影響を及ぼすデリケート な問題ですが、自分では気づきにくいもので す。ところが、新型コロナウイルスの感染拡 大に伴って日常的にマスクを着けるように なった結果、自分の口臭に気づく人、気にな り始める人が増えています。口臭は原因に応 じた対策を講じることで、他人に不快感を与 えないレベルまで軽減することができます。 口臭が生じる仕組みを知り、適切なケアで予 防しましょう。

監修

東京医科歯科大学歯学部附属病院 息さわやか外来 外来医長

財津 崇 先生 (ざいつ・たかし)

2006 年、東京医科歯科大学歯学部卒業。
2011 年、同大大学院医歯学総合研究科博士課程修了。
2014 年より東京医科歯科大学大学院健康推進歯学分野助教。
また、2014 年より、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙飛行士健康管理グループの客員研究員、国立極地研究所南極観測隊健康判定委員会の委員も務めている。
日本口腔衛生学会代議員、国際交流員委員会委員。

口臭は口の悩みの第3位 8割が気にした経験あり

口臭は、呼吸や会話のときに口から出る息のにおいで、他人が不快と感じるものをいいます。日本歯科医師会の「歯科医療に関する意識調査」(2016年)によると、口臭は「歯や口の悩み」の第3位で、口臭が気になった経験が「ある」人は、年齢や性別に関係なく8割にのぼります。
においは、鼻にある嗅細胞がキャッチしたにおい物質の情報が、脳に伝わることで感じられます。しかし、同じにおいを長時間かいでいると、それに慣れてしまう順応反応が起こります。そのため、自分の口臭にはなかなか気づけないのが悩ましいところです。
そこで、口臭のセルフチェックに役立つ12項目を挙げました(下コラム)。また、紙コップなどに息を吹き込み、その直後ににおいをかぐのも、口臭の有無を知る手がかりになります。

口臭の発生源は舌苔 舌清掃が予防のポイント

口臭の正体は、揮発性硫黄化合物(VSC)と総称されるガスです。なかでも、卵が腐ったようなにおいがする硫化水素、魚や野菜が腐ったようなにおいがするメチルメルカプタン、生ごみのようなにおいがするジメチルサルファイドが三大原因物質とされています。口臭はこれらがさまざまに入り混じったもので、一定以上のレベルになると不快なにおいとして感じられるのです。
VSCは、口の中の細菌が、新陳代謝などによってはがれた口腔粘膜上皮や死んだ細菌などのたんぱく質成分を分解することで発生します。このたんぱく質成分の多くは舌に付着しています。鏡で舌を見ると、白色や薄黄色の苔のようなものがついていますが、これを舌ぜったい苔といいます。舌苔はVSCの主な発生源であるため、口臭対策では、舌清掃が非常に重要になってきます(下コラム)。
また、唾液には口の中のたんぱく質成分を洗い流す作用をはじめ、抗菌作用や粘膜保護作用などがあります。そのため、唾液の分泌が少ないと口臭が強くなりやすいのです。よくかんで食べる、人と話す機会をつくるなど、口を動かす生活習慣で唾液の分泌を増やすことも口臭予防に効果的です。

生理的口臭は起床後が最も強い

口臭は、大きく生理的口臭と病的口臭に分けられます。
生理的口臭はだれにでもあるもので、その強さは1日のうちで変動します。最も強いのは、「モーニングブレス」と呼ばれる朝起きた直後の息。就寝中は唾液の分泌が減り細菌が増殖するため、VSCがたくさんつくられるからです。しかし、歯みがきや食事をすると口の中の細菌が減り唾液の分泌も増えるので、口臭は弱くなります。ただし、ゼロになることはありません。
また、ストレスや緊張があるときや空腹時は、一般に口臭が強くなりがちです。女性の場合、ホルモンバランスとの関連で、主に月経前や月経中、排卵期に口臭が強くなる人がいます。
このように、だれでも一時的に口臭が強くなることはあるので、気にしすぎないことも大切です。
一方、注意が必要なのは病的口臭です。原因はさまざまですが、その9割 以上は口の中の病気や汚れにあります。病気では歯周病や進行したむし歯がその代表で、まずはその治療をすることが肝心です。汚れで多いのは、みがき残しや多量の舌苔付着、入れ歯の清掃不良など。つまり、口の中を清潔にすれば口臭を減らすことができるのです。
口の病気以外では、鼻やのどの病気、呼吸器の病気、糖尿病などが原因になることがあります。よく「胃が痛いと口臭が強くなる」と言われますが、胃の病気が原因になることはほとんどありません。
このほか、飲食物・嗜好品による口臭があります。ネギやニラ、ニンニク などを食べた後や飲酒後に吐く息はくさくなりますが、一時的なものです。タバコを吸う人の息からはタールやニコチンのにおいがしますが、これも喫煙から時間が経つと薄れていきます。また、飲み薬の影響で口臭がすることもあります。

呼気の成分分析で口臭の有無がわかる

口臭は自分で気づきにくいだけに、実際は普通レベルなのに口臭が強いと思い込んでいる人もいます。不安なときは、歯科で専門的な検査を受けるといいでしょう。検査法はいくつかありますが、口臭外来などでは、呼気の成分を器械で分析して数値で示すことが多いようです。客観的なデータなので、納得しやすいでしょう。検査の結果、実際に口臭があれば、原因に応じた治療が行われます。原因疾患がある場合はその治療と口腔ケア、原因疾患がない場合は口腔ケアが中心です。
口腔ケアには、自分で行うセルフケアと、歯科医師や歯科衛生士によるプロフェッショナルケア(プロケア)があります。プロケアの内容は、口腔内の状態に合った清掃指導、PMTC(Professional Mechanical ToothCleaning)と呼ばれる専門的な歯面清掃、歯石除去などです。定期的な歯科健診でプロケアを受けましょう。
セルフケアは、ていねいな歯みがきが基本です。歯間清掃用具なども利用して、すみずみまでみがきましょう。さらに舌清掃を行います。舌苔を除去する舌清掃は、口臭の改善とともに誤嚥性肺炎の予防にも有効なので、高齢者には一石二鳥です。汚れた入れ歯も悪臭の発生源になるので、こまめに清掃しましょう。
セルフケアのもう1つのポイントは、唾液をしっかり出すことです。舌体操や唾液腺マッサージ(下コラム)を覚えて実行しましょう。十分な睡眠やバランスのよい食事も重要です。できるだけストレスをためないようにして規則正しい生活を送ることは健康の基本ですが、これは口臭の予防にもつながります。

ライター 竹本 和代

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