痛風だけでない、全身にかかわる 『高尿酸血症』

痛風だけでない、全身にかかわる 『高尿酸血症』

食生活の欧米化に伴い、高尿酸血症の患者数が右肩上がりに増えています。日本人の男性の20%前後、女性の5%が、高尿酸血症と推計されます。血液中の尿酸値が高くなると痛風になりやすいことはよく知られていますが、腎臓病、高血圧、動脈硬化など全身の病気にもかかわることが最新の研究でわかってきました。高尿酸血症は、生活習慣を見直すだけでも改善が可能です。「尿酸値が高い」と言われたら放置せず、痛風発作や臓器障害を防ぎましょう。

監修

鳥取大学医学部 ゲノム再生医療学講座 再生医療学分野 教授

久留 一郎 先生 (ひさとめ・いちろう)

1981 年、鳥取大学医学部卒業。
米国ノースウェスタン大学医学校内科循環器科研究員、ペンシルバニア大学分子内科研究員、鳥取大学医学部第一内科助教授、2003 年、鳥取大学大学院医学系研究科再生医療学分野教授(組織改革のため、2020 年4 月より現在の組織名に変更)。
専門は再生医療、循環器専門医、高血圧専門医、痛風専門医。『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』改訂委員長。
日本痛風・尿酸核酸学会副理事長・評議員。

尿酸値7・0㎎/ dL 超なら 放置は禁物

健康診断や人間ドックで「高尿酸血症」との指摘を受けたのに、「痛風発作を起こしたことはないから大丈夫」と放置していないでしょうか。高尿酸血症と診断されるのは、血液中の尿酸値が7・0㎎/dLを超えたときです。
高尿酸血症は、30代から50代の現役世代の男性が発症しやすい病気です。明治時代の日本には皆無だった痛風患者は、食生活の欧米化によって増え続け、国民生活基礎調査(2019年)によれば現在125万人に上ります。その原因である高尿酸血症の患者は全国で1000万人以上と推計されます。子どもでも肥満になると尿酸値が高くなり、高尿酸血症の若年化が問題になっています。
なお、女性に高尿酸血症が少ないのは、女性ホルモンのエストロゲンに、腎臓からの尿酸の排出を促す働きがあるからです。女性も閉経後は、女性ホルモンの分泌量が急激に減るため、高尿酸血症を発症しやすくなります。
そもそも尿酸は、細胞が生まれ変わる過程でできるプリン体から産生される無味無臭の物質です。人間は体内で尿酸を産出し、不要な分を腎臓や消化管から排泄してバランスを保っています(下図)。
何らかの要因で、尿酸の産生と排泄のバランスが取れなくなると、血液中の尿酸値が通常よりも高い状態が続く高尿酸血症となります。
高尿酸血症が長期化すると、「風が吹いても痛い」といわれる痛風発作(痛風関節炎)の発症リスクが高まります。尿酸が過剰になると体内で尿酸塩の結晶がつくられ、血液中に増え過ぎた結晶が手や足の関節、また腎臓などの組織にたまっていきます。
その尿酸塩の結晶が何かのきっかけで関節液の中にはがれ落ちると、足の親指のつけ根などに激痛が走る痛風発作が発生します。痛風発作で強い痛みを感じるのは、関節液の中にはがれ落ちた尿酸塩の結晶を、免疫細胞が異物と認識して攻撃し、白血球から生理活性物質が放出されて強い炎症が起こるからです。慢性化すると、足の親指のつけ根や足の甲、かかと、ひざ、手の指や甲などに痛風結節と呼ばれるこぶができることがあります。

腎障害、高血圧、 動脈硬化が進む危険も

ただし、この痛風発作や痛風結節は、高尿酸血症の人全員に起こるわけではありません。尿酸値が7・0㎎/dLを超えても痛風発作が起こらない状態を、無症候性高尿酸血症と呼びます。
無症候性高尿酸血症になっても、痛風発作を起こさない限り、特に自覚症状はありません。しかし、尿酸値が高い状態を放置すると、知らず知らずのうちに尿酸が腎臓に蓄積して腎機能が低下し、慢性腎臓病(CKD)を発症するリスクが高まります。重症化すると腎不全となって、人工透析が必要になることもあります。
近年の研究で、尿酸値を下げると腎障害も改善するという科学的な証拠が集まったことから、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版(2019年改訂)』(日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会編)では、腎臓を守るためにも尿酸値を下げる治療を推奨しています。
また、尿酸値が高い状態が続くと、腎臓から尿道までの尿路に尿路結石を発症しやすくなります。無症候性高尿酸血症は高血圧、糖尿病、メタボリック症候群などの生活習慣病を併発しやすく、心筋梗塞や心不全、心房細動という不整脈などを起こすリスクも高まります。高尿酸血症は、単に痛風発作を起こしやすいだけではなく、過剰な尿酸が臓器の細胞に入り込んで臓器障害を引き起こす全身病なのです。

飲酒量と水分量を見直し 肥満とストレスの解消を

無症候性高尿酸血症を改善するには、まずは、食事や運動などの生活習慣を見直すことが大切です。
第一に実践したいのは、飲酒量の見直しです。特に、年末年始は飲酒の機会が多いので要注意です。1日のアルコール摂取量は、日本酒なら1合、ビールなら350~500mL、ウイスキーなら60mL以内にしましょう。
尿酸値が高い人の中には、プリン体が多いビールを避ければ、アルコールをたくさん飲んでも大丈夫だと勘違いしている人がいます。たしかに、ビールを飲むならプリン体カットビールのほうが尿酸値は上がりにくいのですが、焼酎やワインでも適量を超えれば尿酸値が上がります。
もう1つ実践してほしいのが、肥満の解消です。BMI〔体重(㎏)/身長(m)×身長(m)〕が25以上の人は、腹八分目を心がけ、2~3か月かけて体重を3%減らしましょう。たとえば、体重80㎏の人なら、その3%の2・4㎏減らすだけでも尿酸値が下がります。ただし、急激に減量するとかえって尿酸値が上がりやすくなるため、過度のダイエットは禁物です。
高尿酸血症というとプリン体の多い食品が悪者のように思われますが、プリン体の多い食品を食べてはいけないというわけではありません。プリン体の多い食品に偏らず、食べ過ぎを避ければ何を食べても大丈夫です。
痛風や高尿酸血症は、ぜいたく病だと勘違いされていますが、尿酸値を高める大きな要因は精神的ストレスです。高尿酸血症の改善のためには、ストレスをコントロールすることも大切です。ウオーキング、ジョギング、自転車こぎ、水泳などの有酸素運動でストレスを解消しましょう。同じ運動でも無酸素運動である筋力トレーニング、サッカーやボクシングなどの激しいスポーツは、尿酸の元になるプリン体を筋肉の中でたくさん産出して尿酸値を急上昇させる原因になります。高尿酸血症の人は、無酸素運動や激しい運動をできるだけ控えましょう。
さらに心がけたいのが、水、お茶などカロリーのない水分を1日1・5~2Lは摂取することです。水分を多めにとることで、腎臓から尿酸が排泄されやすくなります。腎臓病や心臓病の人は水分のとり過ぎは禁物ですが、腎臓や心臓に問題がない人は、1日2L程度の水分摂取を心がけましょう。

尿酸値8・0㎎/ dL 以上、 合併症ありで薬物療法も

薬物療法の開始を検討するのは、痛風発作や痛風結節が出たとき、尿酸値が8・0㎎/dL以上になり腎障害、尿路結石、高血圧、虚血性心疾患、糖尿病などの合併症があるとき、合併症はないけれども尿酸値が9・0㎎/dL以上になったときです。
尿酸値を下げる薬には、尿酸の産生を抑える尿酸生成抑制薬、腎臓からの尿酸を出しやすくする尿酸排泄促進薬、選択的尿酸再吸収阻害薬、尿酸分解酵素薬などがあります。どの薬を選択するかは、尿酸の代謝を評価する尿酸クリアランス検査の結果などから判断されます。
高尿酸血症には、尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型、腎外排泄低下型の3つのタイプがあり(下図)、タイプに合わせた薬を服用することが重要です。尿酸の産生が過剰になっているうえに排出が低下している混合型もあります。高血圧や糖尿病を併発している人には、尿酸値を下げるタイプの降圧薬や糖尿病治療薬も使われます。
生活習慣の見直しや薬物療法による治療目標は、尿酸値を6・0㎎/dL以下に維持することです。コントロール目標は6・0㎎/dL以下、高尿酸血症の診断基準は7・0㎎/dL超、薬物療法検討の目安は8・0㎎/dL以上ということで、診断と治療の目安は6・7・8のルールと呼ばれます。
一方、健康診断などの際に、尿酸値が男性で6・0~7・0㎎/dL、女性で5・5~7・0㎎/dLの高尿酸血症予備群とされた場合には、高血圧、糖尿病、腎臓病など、ほかの生活習慣病を発症している恐れがあります。かかりつけ医に相談し、ほかに病気がないか調べてもらいましょう。生活習慣病がなかったとしても、尿酸値がそれ以上に上がらないように、生活習慣を見直すことが大切です。
ただし、尿酸値が2・0㎎/dL以下になると、尿路結石になったり、運動後に腎臓病を発症しやすくなるので尿酸値の下げ過ぎも問題です。尿酸値を健康のバロメーターの1つと考え、暴飲暴食を控え、ストレスをためないように注意してください。

ライター 福島 安紀

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