自分のタイプを知って早めに対処『中高年の尿トラブル』

自分のタイプを知って早めに対処『中高年の尿トラブル』

40 歳以上の日本人の3人に1人は尿トラブル に悩んだ経験があるといわれています。頻繁に トイレに行きたくなる頻尿、ふとしたことで漏 れてしまう尿漏れなど、年のせいだからとあき らめたり、恥ずかしいとためらったりしていま せんか。頻尿や尿漏れにはさまざまなタイプが あり、正しく対処すれば改善できる病気です。 この病気についてよく知り、今日からできる対 策や症状に合った治療を始めていきましょう。

監修

日本大学医学部泌尿器科学系 主任教授

高橋 悟 先生 (たかはし・さとる)

1985年、群馬大学医学部卒業、1993年、メイヨークリニック・フェロー、 2003年、東京大学医学部泌尿器科助教授、2005年より現職。
2020年、日本大学医学部附属板橋病院副病院長も務める。
日本泌尿器科学会常任理事、日本排尿機能学会事務局長、日本女性骨盤底医学会副理事長、日本老年泌尿器科学会副理事長ほか、女性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員長、夜間頻尿診療ガイドライン作成副委員長、 男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン作成委員を務める。

脳と泌尿器が連携して排尿をコントロール

日本排尿機能学会の調査(2002年)によると、夜間頻尿は4500 万人、昼間頻尿は3300 万人、尿漏れは1000 万人いると報告されています。また、急な尿意をがまんできない、1日8回以上トイレに行く、突然の尿意に襲われ尿漏れしてしまうなど、複数の症状が起こる過活動膀胱の患者さんは、日本に800万人以上いるといわれますが、受診しているのはわずか約20%、女性では約10%しかいないのが現状です。
尿を生成し排泄しているのは、腎臓、尿管、膀胱、尿道などの泌尿器です。人間は適切な時と場所で排尿するために自分の意志で排尿を調整できますが、これは膀胱の「ちぢむ」「ゆるむ」と尿道の「締まる」「ゆるむ」の働きが、絶妙にコントロールされているからです。
膀胱に尿がある程度たまると膀胱から脳に信号が送られて尿意が起こります。しかし、脳が「まだがまんして」という指令を膀胱へ送ると膀胱がゆるみ、膀胱や尿道を支える骨盤底筋や尿道括約筋が連携して尿道を締め、尿を漏らさないようにするのです。トイレに行き準備が整うと、今度は脳から「出してもいいよ」という信号が送られ、膀胱が収縮して尿道の筋肉がゆるみ、尿を出します(下図)。
成人の場合、膀胱にためられる尿は200~400mLで、正常な排尿では30秒以内に膀胱が空になります。

加齢で尿トラブルに排尿構造の違いで男女差

男女ともに年齢とともに尿トラブルが起こりやすくなりますが、男性が気にするのは排尿時間が長い、尿の切れが悪いなどの排尿の症状です。一方、女性は漏れやすいというのが最大の悩みです。これは、男性と女性の膀胱と 尿道の構造が大きく違うためです。男性の尿道の長さは約20cmで、前立腺という臓器に囲まれL字型に曲がっています。一方、女性の尿道はわずか4cmほどと短く、尿道口までまっすぐ伸びています(下図)。
男性の尿トラブルの最大の原因は前立腺肥大症です。前立腺は男性にしかない臓器で、50代で約30%、80代になると約90%に何らかの肥大が起こっているといわれています。
前立腺は膀胱の下にあり、その中を尿道が通っているため、前立腺が肥大すると尿道が圧迫されて狭くなり、尿が出にくくなるのです。残尿が増えるので頻尿や排尿困難にもつながります。また、前立腺肥大症があると膀胱が刺激されて過活動膀胱も発症しやすくなります。

女性に多い腹圧性尿失禁 男性は排尿後尿滴下

多くの女性が悩んでいるのが尿漏れです。なかでも多いのが腹圧性尿失禁です。せきやくしゃみ、トイレでいきむ、大笑いする、重いものを持ち上げるなど、下腹部に力を入れたときに起こる尿漏れです。腹圧性尿失禁は、40歳以上で肥満気味、2回以上の経膣分娩の経験がある場合によくみられます。主な原因は、妊娠、出産によって骨盤底筋がゆるむこと、加齢により尿道括約筋の機能が低下することです。シニアになるとこの2つが重なるために症状が出やすくなります。
過活動膀胱では、急に強い尿意が襲ってきてトイレに駆け込むような尿意切迫感とそれが間に合わず漏らしてしまう切迫性尿失禁が典型的な症状です。切迫性尿失禁があるということは、ある程度病気が進んでいると考えられます。尿が大量に漏れることがあるため、悩みはより深刻です。過活動膀胱は男女ともに多く、何らかの原因で膀胱と尿道の連携がうまくいかなくなるために起こります。
また、男性の尿漏れで多いのは、排尿したあとにじわっと少量の尿が漏れ出てくる排尿後尿滴下です。尿道の一部に尿が残っていて、それがあとから漏れ出てくるのです。原因は、尿道を締める筋肉の衰えと、排尿時の勢いの低下や切れの悪さです。前立腺肥大症で尿の勢いが弱まると尿が残りやすくなります。

頻尿・夜間頻尿原因ごとに症状に相違

尿のトラブルで一番多い症状が頻尿です。頻尿とは、日中8回以上、夜間1回以上排尿がある状態です。しかし、本人が困っていなければ問題はありません。頻尿にはさまざまな原因がありますが、症状のパターンでおおよそ推測することができます。
1つ目は夜も昼も頻尿で、そのほかに尿の出にくさや尿意切迫感、切迫性尿失禁などの症状がある場合です。過活動膀胱か前立腺肥大症が原因で膀胱が小さくなっていることが考えられます。残尿が多いと膀胱が膨らんだままになり、蓄尿量も減ります。通常は300mLためられる膀胱でも残尿が200mLあると、100mLたまるたびにトイレに行かなければなりません。
2つ目は昼夜頻尿であっても、ほかに症状がない場合です。たとえば昼12回、夜3回排尿がある場合は昼夜頻尿ですが、膀胱に尿が十分にためられ排尿時間に問題がなく、ほかの症状がなければ水分の過剰摂取が考えられます。
3つ目は夜間頻尿です。寝ている間にトイレに1回以上行くのが夜間頻尿ですが、QOL(生活の質)に影響するのは2回以上といわれています。高齢になるほど起きる回数が多くなり、慢性的な睡眠不足や転倒のリスクが高くなるなど、日常生活に影響が及びます。
原因は主に、加齢に伴う抗利尿ホルモンの分泌低下や水分の摂り過ぎによる夜間の尿量の増加(夜間多尿)、膀胱にためられる尿量の少なさ、眠りが浅く(睡眠障害)、尿意で目覚めたと錯覚してしまうことなどです。
夜間尿量が1日の尿量の3分の1以上ある場合は、夜間多尿が考えられます。また、肥満、高血圧、糖尿病があると夜間頻尿のリスクが高まるといわれています。

行動療法や減量で頻尿・尿漏れ改善

尿トラブルに悩んでいる人は、排尿状態を確認するために、1~3日間、排尿した時間や排尿量などを記録してみましょう(排尿日誌)。特に夜間頻尿の人は試してみてください。排尿日誌の書き方、用紙は※日本排尿機能学会ホームページに掲載されています。
排尿状態が確認できたら、まずは生活習慣の改善と行動療法を行いましょう。生活習慣では、1日の食事以外の水分摂取量は、1000~1500mLを目安にしてください。減らし過ぎに十分注意して、体重(kg)×20~25mLの範囲に調整します。減塩すると夜間多尿や夜間頻尿が改善するという報告もあります。
減量は特に女性に効果があります。BMI[体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)]が25以上の場合は、体重の5~8%以上減量すると、頻尿や尿漏れが改善することがわかっています。減量で骨盤底筋への負担が減り膀胱にかかる腹圧が減るためです。
夕食・入浴は寝る3時間前までに済ませましょう。
尿は食事をしてから2〜3時間後に排出されます。湯船につかって血行をよくし、しっかり排尿してから布団に入ります。
夕方に30分以上のウオーキング、便秘の改善、脚を高くしての昼寝なども尿トラブルに効果があります。
行動療法には骨盤底筋訓練や膀胱の柔軟性を回復させて、膀胱にためられる量を増やしていく膀胱訓練があります(下コラム)。
生活習慣の改善と行動療法を1〜3か月続けても効果が感じられない場合や生活に支障をきたしている場合、いつもと違う症状(痛み、血尿、発熱) や不快感などがある場合は、かかりつけ医や泌尿器科を受診しましょう。症状や原因、健康状態に合わせた薬物療法や場合によっては手術が検討されます。
尿のトラブルはだれにでも起こりうることです。少し勇気を出して受診してみれば、今よりよくなる治療法が必ずあります。尿の悩みから解放され て、毎日を快適に過ごしましょう。

ライター 高須 生惠

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