若者の心身に悪影響、病気としての理解を『ゲーム障害』

若者の心身に悪影響、病気としての理解を『ゲーム障害』

「ゲーム障害」という病気をご存じでしょう か。スマートフォン(スマホ)やパソコンで 提供されるゲームに熱中して、勉強や仕事が 手につかず、健康まで損なってしまう依存症 です。患者の多くは未成年で、心身の成熟期 であり進路を決める時期なので、将来への影 響は計り知れません。コロナ禍でプレーの長 時間化も懸念されています。その実態や治療 法、家庭でできる予防策などを紹介します。

監修

国立病院機構 久里浜医療センター 院長

樋口 進 先生 (ひぐち・すすむ)

1979 年、東北大学医学部卒業。
米国立保健研究所へ留学後、精神疾患を広く診療している国立療養所久里浜病院(現・国立病院機構久里浜医療センター)で臨床研究部長などを経て現職。
2011年、同センターに国内初のインターネット依存専門外来を開設した。専門はギャンブル、アルコールなどの依存症の予防・治療・研究。
WHOアルコール関連問題研究・研修協力センター長も務める。
『Q&Aでわかる 子どものネット依存とゲーム障害』(少年写真新聞社)など著書多数。

自己コントロール難しく WHOも疾病として認定

スマホやパソコンを使ってプレーするオンラインゲームは、現実世界で友人や家族と楽しむボードゲームやトランプ遊びとはまったく別物です。広大なネット空間で自らがキャラクターとなり、敵を倒したり架空の国を冒険したりします。課金制のアイテム(武器など)を駆使して難関を突破すれば達成感が得られる一方、ゲームは定期的に更新されるので終わりがありません。ネットを介して多人数が同時参加するゲームでは、自分が抜けるとほかのメンバーに迷惑をかけるという感情も働きます。
オンラインゲームにのめりこむあまり、勉強や仕事をおろそかにしてひきこもる、親に注意されると暴言・暴力を振るう、お金をつぎ込み過ぎて金銭トラブルを招く……そんな若者が世界的に急増しているのです。
2019年5月、世界保健機関(WHO)は「ゲーム障害」を新たな疾病として認定しました。その定義は①ゲームをする時間や環境をコントロー ルできない、②ほかの生活上の関心事や日常の活動よりゲームを優先する、③健康を損なうなど問題が起きているのにゲームをやめない、またはエスカレートさせる――との3条件を満たしたうえで、学業、仕事、家庭・社会生活に著しい障害がある状態が1年以上続くというものです。重症ならば1年以内でも該当します。

成績低下や昼夜逆転攻撃的態度も危険サイン

厚生労働省の調査では国内の成人約421万人(2013年調査)、中高生約93万人(2017年調査)に、ゲーム利用を含む「インターネット依存」の恐れがあると推計されています。国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)のインターネット依存専門外来を訪れる患者の9割がゲーム障害で、さらにその7割が未成年です。小学校低学年の児童もいます。圧倒的に男性が多く、男性が好む戦闘系ゲームの依存性の高さを示しているとみられます。
下のテストは、国際的に最もよく使われているスクリーニングテストの1つです。ゲームをする時間の長さそのものより、ゲームに熱中したために実生活に支障やトラブルが生じていることが重視されます。
たとえば、登校をしぶる、成績低下、昼夜逆転生活、家族や友人との会話が極端に減り暴力的・攻撃的になった、身なりを気にしない――などです。
このような態度や行動がみられたら、医療機関への受診を検討してみましょう。

デジタルデトックスで 「気づき」を促す

ゲーム障害で受診した場合、医療機関では、まず基本的な健康診断や体力測定、脳のMRI検査などを行い、心身にどんな影響が出ているかを確認したうえで、治療方針を決めていきます。「ゲーム断ち」をするために入院するのがベストですが、本人の理解を得るのが難しいことも多く、その場合は外来での治療となります。
具体的なプログラムとしては、カウンセリング、運動療法、認知行動療法、グループ・ミーティング、キャンプなどがあります。最大の目的はデジタルデトックス、つまりゲームから離れた環境に身を置くとともに、理想の自分や将来の夢に向けて、今やるべきことへの理解や意欲を高めることです。上から押さえつけるのではなく、本人の「気づき」を促し、生活改善への取り組みを支援していきます。
グループ・ミーティングでは、たとえば「ゲームをしたい」という衝動をどう抑えるかなどを話し合います。患者の中には、他者とのコミュニケーションが苦手な人も少なくありません。ミーティングやキャンプで現実世界の仲間と楽しく過ごすうちに、自分の居場所や健全な人間関係を持てたことで自信がつき、ゲームへの執着が薄れていく効果も期待できます。
とはいえ、年齢制限のあるアルコールやギャンブルなどの依存症と違い、患者の多くは未成年で脳がまだ発達段階にあり、衝動のコントロールが難しいのが実態です。治療に数年かかることも珍しくありません。
また、ゲーム障害は発達障害のADHD(注意欠如・多動性障害)やうつ病など、ほかの精神疾患を併発することが多く、それらの治療も同時に進める必要があります。ゲーム障害の治療薬はまだありませんが、ADHDやうつ病と同じ薬物治療を行うこともあります。親や家族は大変心配でしょうが、スマホを取り上げるなど本人を刺激するような対応は控え、ゲームの時間を少しでも減らせたら褒めましょう。※久里浜医療センターのホームページには、全国の治療施設リストが掲載されています。各都道府県や政令指定都市にある精神保健福祉センターでも相談することができます。

ルールは話し合って決め現実生活を充実させる

ゲーム障害を予防するには、どうしたらいいのでしょうか。
先に述べたように未成年の脳は未熟で依存に陥りやすいので、ゲームを始める年齢が遅ければ遅いほどリスクを減らせます。ゲームをする時間や場所をルール化するのはもちろんですが、上コラムの「予防策」にあるように、初めてスマホを買い与えるときに家族で話し合い、本人の同意を得て決めておくのがポイントです。あとからルールを押し付けると反発を招きがちです。
もう1つ重要なのは、親自身の姿勢です。スマホやパソコンとの健全な付き合い方を率先して示せなければ、子どもが言うことを聞くはずがありません。また、ゲーム以外の家庭生活を充実させるのも親の役割です。釣り、山登り、ハイキング、スポーツ……何でもよいので子どもと一緒に取り組み、人生にはゲーム以外の楽しみがあることを体験的に理解させれば、ゲームへの依存度は下がります。
成人の場合は自由に使えるお金があるため、ゲームでの浪費が深刻な問題になります。クレジットカード払いの上限額を決めるといった対策が考えられますが、重症化するとそれも難しいので、早めの受診が第一です。
ゲーム障害に即効薬はなく、焦らず治療することが求められます。

ライター 平野 幸治

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