症状が出やすい夏こそ放置は禁物『爪水虫』

症状が出やすい夏こそ放置は禁物『爪水虫』

夏は、水虫の原因である白癬菌が最も活動的 になり、感染が広がりやすい季節です。日本に おける大規模疫学調査によると、日本人の5人 に1人が水虫、 10 人に1人が爪水虫(爪白癬) に感染していると推定されますが、放置してい る人も少なくありません。爪水虫は、適切な治 療を受ければ治る病気です。家族や周囲の人に 広げないためにも、爪水虫の最新治療と予防法 について、知っておきましょう。

監修

埼玉医科大学総合医療センター 皮膚科 教授

福田 知雄 先生 (ふくだ・ともお)

1987 年慶應義塾大学医学部卒業。
杏林大学医学部皮膚科講師、東京医療センター皮膚科医長などを経て、2016 年より現職。
日本皮膚科学会認定専門医・指導医。専門は皮膚真菌症、皮膚腫瘍。
「日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019」作成委員。
著書に『エキスパートが語る 医療従事者・ネイリストが知っておくべき爪のケア・治療』(学研メディカル秀潤社)などがある。

全国で1200万人が 爪水虫に感染

爪水虫は、カビの一種である白癬菌が爪に入り込んで起こる感染症です。多くの場合、足に感染した白癬菌が爪の先や縁から侵入して爪の下で増殖します。白癬菌が感染すると、爪が白色や黄白色に濁って厚くなります(肥厚)。進行すると、爪がもろくなってポロポロと崩れるなどの症状が出ます(下図)。
足や手、腹部、陰部などに白癬菌が感染したときとは異なり、爪水虫にはかゆみなどの自覚症状がほとんどないのが特徴です。白癬菌は体のさまざまな部位に感染しますが、最も多いのが足水虫、その次が爪水虫です。手の爪が水虫になることもありますが、爪水虫の多くは足の爪への感染です。
日本皮膚科学会の研究グループが1999〜2000年に実施した調査によると、足水虫の感染者は全国で約2100万人、爪水虫は約1200万人と推計されます。つまり、日本人の5人に1人が足水虫、10人に1人が爪水虫に感染しています。
水虫は男性の病気だと思っている人もいるかもしれませんが、女性にも多く、男性と女性の比率は6対4です。男女とも、年齢とともに感染率が上がり、爪水虫の感染者は高齢者に多い傾向があります。高齢者に多いのは、長年患っている足の水虫に爪が感染するためと考えられます。
一度白癬菌が爪に入り込むと、適切な治療をしない限り、爪水虫は治りません。進行すると爪が変色し、厚くなって変形し、靴に当たって痛みが生じることがあります。爪が変色して厚くなったりボロボロになったりしているのを他人に見られたくないという理由で、温泉やプール、スポーツジムへ行くのを避けるなど、行動が制限される人もいます。高齢者の場合は、爪の変形や肥厚によって足元が不安定になり、転倒のリスクが上がります。「たかが水虫」と侮れないのです。

爪水虫に似た病気との 鑑別診断が重要

爪水虫は、白癬菌を貯蔵する蔵のようなものです。足水虫を併発している人も多いのですが、爪水虫を治さないと、足水虫が悪化したり再発したりしやすくなります。
また、家族にうつさないためにも、水虫かもしれないと思ったら放置せず、皮膚科専門医のいる医療機関を受診しましょう。日本皮膚科学会認定の専門医がいる医療機関は、同学会の※ホームページで閲覧できます。
水虫かどうかは、感染した部位にかかわらず、病変部から角質を採取してプレパラートにのせ、顕微鏡で白癬菌の有無を確認することで診断します(下図)。爪の変色や肥厚などが起こる病気には、ほかに、爪乾癬(つめかんせん)、厚硬爪甲(こうこうそうこう)、爪甲鉤彎症(そうこうこうわんしょう)などがあります。皮膚科専門医であっても、見た目だけで爪水虫かどうかを診断することはできません。顕微鏡で角質を調べてもらい、白癬菌がいるかどうかの鑑別診断を受けることが大切です。

※日本皮膚科学会の皮膚科専門医MAP(https://www.dermatol.or.jp/modules/spMap/

抗真菌薬の服用で 完治を目指す

爪水虫と診断された場合には、白癬菌を殺し増殖を抑える抗真菌薬で治療します。足水虫の治療は塗り薬(外用薬)の抗真菌薬が中心で、市販の塗り薬でも完治します。しかし市販の塗り薬は、爪水虫に対する効果は認められていません。
爪水虫は、医師の処方による内服薬か塗り薬で治療します。基本的には内服薬が中心ですが、爪の表面に病変があって内服薬が効きにくい場合、患者さんの肝機能が低下していて内服薬を使わないほうがよい場合などには、塗り薬の抗真菌薬で治療します。
爪水虫の内服薬は、有効成分が血液によって皮膚と爪の内側に運ばれ、効果を発揮します。内服薬には、①3か月間1日1回服用、②6か月間1日1回服用、③1日2回、1週間服用したあと3週間休薬を3回繰り返す(パルス療法)という、3種類があります。塗り薬は、爪全体と皮膚との境界部に1日1回塗布することで効果を発揮する薬です。どの薬を選ぶかは、病変の広がり方、患者さんの生活スタイルや希望、合併疾患の有無などによって決定します。
薬の使用を途中で中断してしまうと、爪水虫が治らず爪の健康が損なわれ、足水虫になったり家族に感染を広げたりすることになります。爪水虫の薬は、決められた量と回数を守って使用を続けましょう。なお、爪水虫の内服薬では、肝機能障害の副作用が起こることがあります。そのため、服用中は定期的に血液検査で肝機能をチェックします。爪水虫の薬で肝機能障害になったとしても、服用を中止すれば肝臓の状態は改善します。
かつて水虫は完治しにくい病気で、「特効薬を発明したらノーベル賞もの」と言われていました。しかし、1992年以降、効果の高い抗真菌薬が開発されたことで完治できる病気になっています。約20年前には、爪水虫の内服薬は1日3〜4回1年以上服用する必要があり、途中で中断してしまう患者さんも少なくありませんでした。現在では、薬の服用回数と期間が減ったことで治療を続けやすくなり、完治する人が増えています。
薬の有効成分が爪に届くと、白癬菌に感染した爪が先端へと押し出され、徐々に健康な状態の爪に生え変わります。足の爪は手の爪よりも成長が遅く、完全に生え変わって健康な状態に戻るまでには、約1〜2年かかります。見た目がきれいになっても白癬菌が残っている場合がありますので、完全に健康な爪になるまで、皮膚科医に診てもらうようにしましょう。

足と爪、靴のケアで 再発と感染予防を

爪水虫を完治させ、再発を防ぐためには、足の水虫も一緒に治療することが大切です。足だけに水虫がある人は、塗り薬で水虫をしっかり治すことが、爪への感染を防ぎます。
足は毎日、爪の周囲と指の間を、せっけんを泡立ててやさしくていねいに洗い、清潔を保ちましょう。軟らかめの毛の歯ブラシを使うと、爪の溝や変形した爪の内側の角質が取り除きやすくなります。洗い流したあとは、水滴が残らないように、足の指の間まで清潔なタオルで拭き取ります。足を洗ったら、ハンドクリームなどを塗って保湿し、爪の乾燥を防ぎましょう。
家族に爪や足に水虫がある人がいる場合には、バスマットやスリッパの共用は避けてください。また、温泉や公衆浴場、スポーツジムなど、不特定多数の人が利用するバスマットには白癬菌がついている場合があります。共用のバスマットを使ったあとは24時間以内に足を洗う習慣をつけましょう。
皮膚に白癬菌がついたとしても、感染するまでには24〜48時間かかります。皮膚に傷があると12時間以内に感染してしまうこともありますが、24時間以内によく洗えば、皮膚の角質に入り込んだ白癬菌も除去できます。
白癬菌は、皮膚や爪の一部と一緒に脱落すると、数か月から1年以上生き続けることがあります。爪や足に水虫がある人がいる場合には、玄関マットやバスマットをこまめに洗濯するか天日干しし、部屋の隅やカーペット、家具の下などもしっかり掃除しましょう。
感染と再発の予防のためには靴の管理も重要です。靴は履き始めて1〜2時間で湿度100%になり、白癬菌が繁殖しやすい状態になります。最低でも3足は用意し、毎日履き替えてください。1日履いたら2日休ませて靴を乾燥させます。靴の中も掃除機をかければ、白癬菌がついたとしても除去できます。
足の形やサイズが合わない靴を履いていると、爪が圧迫されて傷ついたり変形したりして、白癬菌などに感染しやすくなります。足の長さと幅を測り、足に合った靴を履くことも大切になります(下図)。
足の爪には、指先を保護してけがを防ぎ、体重を支えて歩行時のバランスを取りやすくする役割があります。爪水虫になったら、適切な治療を受けるとともに爪の手入れ法も覚えて、再発や家族への感染を防ぎましょう。

ライター 福島 安紀

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