更年期や妊娠出産期の女性に多い『手指の痛み』

更年期や妊娠出産期の女性に多い『手指の痛み』

 物をつかむ、握る、つまむ、支えるなど、人は四六時中、手指を使っています。手指が痛ければ、仕事や家事が思うようにできなくなります。手指が痛くなる病気はたくさんありますが、女性に多いという特徴があります。女性は家事や育児を担う割合が高いだけに、やっかいな問題です。ここでは代表的な5つの病気を取り上げ、それぞれの症状の特徴、原因、治療法、日常生活での注意点などを紹介します。

監修

柏Hand クリニック 院長

田中 利和 先生 (たなか・としかず)

1985 年、旭川医科大学医学部卒業。亀田総合病院整形外科などに勤務したあと、1998 年、筑波大学大学院医学研究科博士課程入学、2007 年、博士号取得。その後、筑波記念病院整形外科部長、米国メイヨークリニック留学、キッコーマン総合病院整形外科部長、同副院長を経て、2020 年より現職。日本整形外科学会専門医、日本手の外科学会専門医。著書に『イラストでわかる 骨・筋肉・神経のしくみ事典』(ナツメ社)がある。

患者の7、8割は女性 まず薬と装具で症状改善

 主な症状が手指の痛みで、かつ女性に多い病気としては、関節リウマチがよく知られていますが、この病気は全身病です。ここでは、症状が手指に限定される病気のなかから、ばね指、変形性指関節症(へバーデン結節、母指CM関節症)、手根管症候群を、また関連する病気で手首が痛むドケルバン病を紹介します。それぞれの特徴を簡単に下表にまとめました。
 これらの病気の特徴や治療には、いくつかの共通点があります。
 第一は、患者さんの7、8割が女性ということです。特に更年期や妊娠出産期に多く、女性ホルモンとの関係が指摘されています。また、男女を問わず手をよく使う人にも多くみられます。パソコン作業、スマートフォンの操作、ピアノなど指の動きが重要な楽器の演奏、手芸や編み物などに多くの時間を使っている人、美容師など職業として手を使う人などです。こうしたことから複数の要因が発症にかかわっていると考えられています。治療法も共通していて(下図)、薬や装具を用いる保存療法と手術に大別できます。
 保存療法のうち、薬物療法では消炎鎮痛薬の外用や内服と、ステロイド薬の患部への注射が主となります。装具療法では、患者さんの状態に合わせた道具を使って患部を固定し、安静を保ちます。手をできるだけ使わないようにといった生活指導も行われます。大豆に含まれる、女性ホルモンに似た成分のイソフラボンが症状の改善に役立ち、男性にも有効だとして、サプリメ ントをすすめられる場合もあります。
 治療は保存療法から始め、再発を繰り返すなど効果が十分でない場合に手術が検討されます。保存療法を長く続け過ぎると、手術をしてもよくならないことがあるので、実施に踏み切るタイミングが重要です。

指を伸ばそうとすると カクンと跳ねる「ばね指」

 ばね指は腱鞘炎が進行した状態なので、まず腱鞘炎について解説します。
 指の曲げ伸ばしができるのは、筋肉と骨を結びつける腱が、骨に筋肉の力を伝えるからです。腱は、ところどころにある腱鞘によって、浮き上がらないよう押さえられています。腱がベルト、腱鞘がベルト通しのような関係です。曲げ伸ばしをするときは、腱が腱鞘の中を往復するように移動します。
 この腱鞘が、何らかの原因で厚く、硬くなり、腱と腱鞘がこすれ合って炎症が起こった状態が腱鞘炎です。指のつけ根付近の手のひら側に痛みや腫れ、熱感が生じます。親指と中指に多いのですが、どの指にも起こります。症状は朝方に強く、日中は軽くなります。進行すると、腱の腫れた部分が腱鞘に引っかかり、指の曲げ伸ばしがスムーズにできなくなります。
 さらに進行すると、曲げた指を伸ばそうとしたとき、ばねのようにカクンと跳ねるばね現象が起こります。これがばね指です。患者さんは50代から増えてきます。
 治療のうち薬物療法では、ステロイド薬を腱鞘内に注射します。効果は3~6か月続き、再発したら再度の注射も可能ですが、副作用への懸念から回数には限度があります。再発を繰り返す場合や指が曲がったまま伸びない場合は、局所麻酔をして厚くなった腱鞘を切開する手術が行われます。手術しても手の機能に問題はありません。

つまみ動作で悪化する 「変形性指関節症」

 指の関節に腫れや痛み、変形が起こる病気を変形性指関節症と総称します。関節リウマチでも同じ症状がありますが、発症メカニズムが違います。
 変形性指関節症は、何らかの原因で指の関節の軟骨がすり減るために起こります。健康な関節には、骨と骨の間にクッションの役割をする軟骨があり、骨どうしがぶつからない仕組みになっています。しかし、軟骨がすり減ると骨が不安定になり、関節に負担がかかります。その結果、炎症が起こり、腫れや痛みが生じます。
 軟骨がさらにすり減ると、骨と骨が直接ぶつかるため、骨にトゲができます。この段階では痛みが激しくなり、指の可動範囲が狭くなります。さらに放置すると、次第に指が変形し、骨どうしがくっつきます。すると、炎症は治まって腫れや痛みは消えますが、指は変形したままになってしまうので、痛みがある段階での受診が大切です。
 原因は不明ですが、患者さんのほとんどが女性で、40代後半から増加します。なお、突き指などけがの後遺症として起こることもあります。
 変形性指関節症では、つまみ動作が指に負担をかけ、症状を悪化させます。日常生活では道具を利用して、つまみ動作を避けましょう。袋を開けるときはハサミ、容器のふたを開けるときはオープナー、靴を履くときは靴べら、草取りには除草グッズを使うといった工夫が大切です(下イラスト)。

腫れや痛みが出るのは 第一関節と親指のつけ根

 変形性指関節症のうち、特に患者さんが多い2つの病気を紹介します。
●へバーデン結節
 指の第一関節に腫れや痛みが生じ、動きが悪くなります。複数の指に起きることも、1本だけのこともあります。痛みは次第に治まりますが、進行して関節が変形すると指が横を向いてしまいます。そのほか、第一関節の近くに水ぶくれができることがあります。
 治療のうち薬物療法では、ステロイド薬を関節内に注射します。固定の方法としては、装具のほかにテーピングも用いられます。保存療法を行っても痛みが強かったり変形がひどくなったりした場合は、骨の一部を削るなどの手術が行われます。
●母指CM関節症
 親指のつけ根にあるCM関節に腫れや痛みが生じます。CM関節は親指の指先から数えて3番目の関節で、親指とほかの指でつまみ動作をするときに働く部位です。進行すると、親指のつけ根が外に向かって飛び出します。治療法はへバーデン結節と同じです。

OKサインがつくれない 「手根管症候群」

 手根管とは、手首の部分にある骨と靭帯に囲まれたトンネル状の空間で、その中を9本の腱と1本の正中神経が通っています。トンネルの内壁は滑膜で覆われていて、その滑膜が炎症を起こして腫れると、トンネル内が何らかの原因で窮屈になって神経が圧迫されてしまいます。その結果、親指、人差し指、中指、薬指に、しびれと痛みを生じる状態が手根管症候群です。
 症状は夜から朝にかけて強く、手を振ったり指を動かしたりすると、一時的に和らぎます。進行すると親指のつけ根の筋力が低下して丘の部分がやせ、親指と人差し指で輪をつくる「OKサイン」ができなくなります。気になる人は体の正面で手の甲を合わせるファーレンテストでチェックしましょう(下図)。
 治療は先述の方法に加え、末梢神経を保護、再生するビタミンB12の内服薬が用いられます。また、ステロイド薬に局所麻酔薬を加えて手根管内の腱鞘に注射します。
 このような保存療法で改善しない場合や、親指のつけ根の丘がやせてきた場合は、手根管の屋根に当たる手のひら側の靭帯を切開し、神経の圧迫を取り除きます。
 ここで紹介した病気はどれも、進行すると日常生活への支障が大きく、手術を検討する必要が出てきます。痛みがある場合は早めに整形外科、できれば手外科を受診しましょう。

ライター 竹本 和代

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする