特徴を知って 上手に取り入れよう『オンライン診療』
新型コロナウイルスの収束が見えないなか、 感染を恐れての受診控えや、それによる重症化 が懸念されています。特に基礎疾患を持つ人に とっては深刻な問題です。非対面で受診できる オンライン診療の規制が緩和され注目を集めて いますが、利用の仕方がわからず、ためらって いる人が多いのではないでしょうか。オンライ ン診療とはどのようなものなのか、制度や特徴、 活用のコツなどを紹介します。

外房こどもクリニック 理事長 日本遠隔医療学会オンライン診療分科会会長
黒木 春郎 先生 (くろき・はるお)
1984 年、千葉大学医学部卒業。
同附属病院小児科医局入局、同大学文部教官を経て、2005 年、千葉県いすみ市に外房こどもクリニックを開業。
日本遠隔医療学会オンライン診療分科会会長、
厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」構成員、
日本医師会「オンライン診療研修に関わる委員会」委員。
非対面で利便性が向上 質の異なる診療
オンライン診療とは、直接対面しない「情報通信機器を使用したリアルタイムの診療」、つまり、パソコンやスマートフォンなどの画面上で、医師と患者さんが対面して行う診療です。
オンライン診療の大きな利点は、①病院に出かける必要がなく自宅などでも受診できる、②医療施設内で感染したり、感染させたりする心配がない、③病院に通うための時間や病院での待ち時間がなくなる、などです。
これまで医療というと、病院に行って医師と対面して受けるのが当たり前でした。しかし、感染が怖い、病院が遠い、外出が困難、仕事が忙しい、病院に行くのにためらいがあるなど、さまざまな理由から医療へのアクセスをあきらめてしまう場合があります。患者さんの利便性、通院支援、治療継続という点において、オンライン診療には大きな利点があるといえるでしょう。
また、オンライン診療では、患者さんのふだんの様子や生活環境などを医師が知ることができる、患者さんが周りを気にせずに症状について相談できるなど、対面診療とは質の異なる診療が提供できるという利点もあります。
患者側の準備も必要 向く症状と向かない症状
一方で、オンライン診療には、できないことや限界もあります。対面診療では医療機関がすべてを準備しますが、オンライン診療では、患者さん側でも受診環境を整えるなど準備が必要です。また、患者さんに直接触れる触診や聴診、検査ができないために、オンライン診療には、向いている症状と向いていない症状があることを認識しておきましょう(下表)。
オンライン診療に向いているのは、高血圧、糖尿病、ぜんそく、花粉症などの経過観察中の慢性疾患で症状が安定している場合や、軽い風邪のような症状です。向かないのは、重い病気が疑われるケース、急な腹痛や呼吸苦などの急性の症状、外傷や出血などの緊急の処置や検査が必要な場合です。慢性疾患が増悪したときも重大な病気につながる可能性があるので、直接受診することをおすすめします。
時限的に大幅な規制緩和 初診から全疾病が対象に
2020年4月、厚生労働省は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、時限的・特例的措置としてオンライン診療への規制を大幅に緩和しました。これまでとの大きな違いは、電話診療も含めたオンライン診療について、①初診から認めたこと、②疾病制限を撤廃し、すべての疾病を対象としたことです。しかし本来、オンライン診療と電話診療とはまったく異なるものです。電話診療は音声からしか情報が得られないため、医師と患者さんがこれまで培ってきた関係性のうえにこそ成り立つ診療であり、やむを得ず利用する暫定的なものといえるでしょう。
すべての疾病が対象になったことで、オンライン診療を導入する医療機関は増え、2020年10 月のオンライン・電話診療の届出医療機関(厚生労働省ホームページ)は1万6,000軒を超えましたが、90%は電話診療で、オンライン診療はわずか10%です。しかし、オンライン診療の利用者数は急増しています。外房こどもクリニックでは、新型コロナウイルス拡大前は月20件だったのが、2020年12月には月150件と、約7.5倍に増えています。
厚生労働省のデータ(2020年10~12月・下グラフ)によると、オンライン診療の受診者は、発熱、上気道炎、気管支炎、咽頭炎など、慢性疾患よりも日常的な疾患が多く、小児と若年層が多いことが報告されています。
また、初診でもオンライン診療が可能になりましたが、オンライン診療には適さない急性期の患者さんが受診するなど、不十分な制度理解や混乱も生じています。初診の場合、まったく初めての医療機関をオンラインで受診することは、医療関係者の間でも懸念の声が上がっています。
患者の症状に応じて 対面診療と組み合わせる
それでは、オンライン診療を上手に、安全に活用するにはどうしたらいいのでしょうか。ポイントと注意点を紹介します。
●医療機関の選定に注意
オンライン診療は、医師と患者間で信頼関係が形成されていることが前提です。まずはかかりつけ医がオンライン診療を行っているか確認しましょう。行っていない場合は、オンライン診療を行っている病院を紹介してもらうのがよいでしょう。
オンライン診療専用アプリケーション(アプリ)の医療機関リストから選ぶ場合は、対面診療に移行することも想定して通院可能な病院を選ぶ、あるいは通院できる病院をあらかじめ確保しておくことが必要です。
●対面診療と組み合わせる
オンライン診療は対面診療に比べて劣るという人もいますが、そもそも対面診療と対比するものではありません。患者さんの症状や事情に合わせ、医師が対面診療と組み合わせながら行う「質の異なる診療」と考えましょう。
●患者側の環境を整える
オンライン診療のトラブルで最も多いのが接続トラブルです。医療機関の通信環境が整っていても、患者側が不安定な通信状況だと診療がうまくいきません。事前の接続テストは必ずやっておきましょう。
操作に不安がある場合は、家族などに手伝ってもらうか、医療機関に早めに相談しましょう。医療機関では担当者がていねいに説明してくれますし、慣れてしまうと簡単です。一度でも利用経験のある人は、ほとんどが継続して利用しています。
●モラルを守る
オンライン診療によって、患者さんの利便性が高まり、医療を受けるハードルが低くなるのはよいことですが、患者さんのモラルも大切になります。「受診できない場合は早めにキャンセルする」「特に必要のない薬を漫然ともらうためなど、安易な利用はしない」など、医療を受ける姿勢を守りましょう。
オンライン診療は、入院、外来、在宅と並ぶ「第4の診療」として期待されています。かつて在宅診療が導入されたときもすぐに受け入れられたわけではなく、浸透するには時間や経験、検証が必要でした。この新しい技術を地域医療にどう生かしていけるのか、患者さんも医療者側と一緒に考え、ともに育てていくことが大切です。
ライター 高須 生惠