コロナ禍による屋外活動減少で増える可能性も『強度近視』

コロナ禍による屋外活動減少で増える可能性も『強度近視』

近視が進行し「強度近視」になると、失明 したり視覚障害が生じたりする緑内障や網膜 剥離などに罹るリスクが高くなることをご存 じでしょうか。近年、世界中で近視の激増に 対する懸念が広がっており、中国やシンガ ポールなどでは政府が近視削減対策に力を入 れ始めています。近視は、単にメガネやコン タクトレンズで矯正すればいいわけではない のです。強度近視にならないようにするには どうしたらよいのか、その予防法と近視の治 療法について知っておきましょう。

監修

慶應義塾大学医学部眼科学教室 専任講師

鳥居 秀成 先生 (とりい・ひでまさ)

2004年、慶應義塾大学医学部卒業。
けいゆう病院眼科勤務、慶應義塾大学医学部眼科学教室助教などを経て、2020年4月より現職。日本眼科学会専門医・指導医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会認定健康スポーツ医。
専門は屈折矯正・白内障。近視の進行を抑える治療・研究に力を入れ、2018年ASCRS(米国白内障屈折矯正手術学会)最優秀賞(Grand Prize)受賞。
慶應義塾大学病院眼科で近視外来、鴨下眼科・セントラル眼科等で外来を担当する。

近視の一部は成人後も進行し失明のリスクに

子どもの視力の低下が問題になっています。2019年度「学校保健統計調査」(文部科学省)では、裸眼視力1・0未満の割合が小学生34・57%、中学生57・47%、高校生67・64%と、過去最高を記録しました。
それでも多くの人は、「近視はメガネやコンタクトレンズで矯正すれば生活できるから問題ない」と考えているのではないでしょうか。
医療界でも長年、近視はメガネなどで矯正すればいいとの考え方が主流でした。しかし、一般的に10代後半にはゆるやかになる近視の進行が成人になっても続き、失明や視覚障害になる人がいることが明らかになってきました。その結果、世界的にも近視の予防や治療の研究に目が向けられるようになってきています。

2時間以上の屋外活動が近視を抑制

国内外で近視研究が進む中で、科学的根拠の高い事実としてわかってきたのは、1日2時間以上屋外で遊んだりスポーツをしたりしている子どもたちには近視が少ないことです。近視の原因には遺伝因子と環境因子がありますが、両親が近視でも、1日2時間以上屋外活動をしている子どもは、近視の発症率が低くなります。また、勉強や読書、デジタル機器の使用など近くを見る作業(近業作業)の時間が長いと近視になりやすいものの、屋外で2時間以上遊んだりスポーツをしたりすれば近視のリスクを下げられるのです(下図表、上・中)。
では、屋外活動の何が近視を抑えることにつながっているのでしょうか。研究を進めるうちにわかってきたのは、 太陽光に含まれる可視光線のうち波長360~400nm(ナノメートル)の紫の光「バイオレットライト」が近視抑制に関与している可能性です(下表)。つまり、最も簡単にできる近視予防法は、乳幼児期から小中学生のときに屋外で2時間以上遊んだりスポーツをしたりすることなのです。
現代の子どもは塾や習い事が忙しく、屋外遊びの時間が減っています。新型コロナウイルス感染予防のために屋外活動の機会が減った半面、近くを見続ける電子ゲームやデジタル機器の利用時間が増えており、近視人口の増加がさらに加速することが懸念されます。
それなら、日当たりのよい屋内の窓際で日の光を浴びればよいのではないかと考える人もいるかもしれません。しかし、学校や家、車などの窓ガラスのほとんどはUVカット加工されていて、紫外線と波長が近いバイオレットライトも遮断されてしまうことがわかっています。

近視の主な原因は眼軸長が伸びること

幼稚園や小中高校では、ランドルト環と呼ばれる「C」に似た輪のどこに切れ目があるかをみる視力検査を行い、裸眼視力が1・0未満だと眼科の受診が勧められます。しかし、実は、近視かどうかは視力検査では判断できません。裸眼視力1・0でも軽い近視が始まっていることもあれば、1・0未満でも近視ではなく乱視や遠視という場合もあるからです。
人間は、角膜と水晶体で光を屈折させて網膜に映した像を視神経から脳に伝達することで、物の形を認識しています。リラックスした状態で遠くの物を見たとき、網膜にピントが合ってはっきりと見えるのが正視、いわゆる視力がよい状態です。
近視の主な原因は、目の奥行きが伸びることです。奥行きが伸びると網膜の手前でピントが合ってしまい、遠くの物がぼやけて見えるようになります。この奥行きは角膜から網膜までの長さ( 眼軸長)で表されます。正常成人の眼軸長は23~24㎜で、近視では通常それよりも長くなっています(下図)。
近視かどうかは、専用の検査機器で屈折度数を測ることで診断されます。屈折度数は、近視という屈折異常を、完全に矯正できるレンズの度数です。屈折度数はジオプター(D、またはジオプトリー)という単位で表し、この値がマイナス0・5D以上が近視で、一般的にはマイナス6D以上が強度近視です(下表)。
眼軸長が26㎜以上だと強度近視と定義することが多く、眼軸長が伸び続けて眼球が楕円形になると、網膜や脈絡膜も伸びて薄くなり、緑内障、網膜剥離、黄斑部からの出血など重大な目の病気になるリスクが高まります。
病的近視は、屈折度数は問わず、びまん性脈絡膜萎縮以上の萎縮性変化(特に乳頭耳側)もしくは、後部ぶどう腫を有する状態と定義されます。つまり、網膜や脈絡膜が広範囲に薄くなる「びまん性萎縮」や眼球の後ろ側がいびつな形になって飛び出す「ぶどう腫」が生じた状態で、失明する場合も あります。
子どもの近視が病的近視に結びつくかどうかは異論がありますが、近視が進行して強度近視になることがあるため、いずれにしても「たかが近視」と侮れないのです。
大人になってから新たに近視になる人がいることもわかってきていますが、近視が特に進むのは乳幼児から小中学生の時期です。病的近視は遺伝的な要素が強い部分もありますが、この時期の近視の発症と進行を予防することが、大人になってからの近視の進行や強度近視の発症を予防することにつながります。
ところが、東京の公立小学校に通う児童と私立中学校に通う生徒約1400人の眼軸長と屈折度数を測った調査では、小学生の76・5%、中学生の94・9%が近視でした。
しかも、小学生の1・2%、中学生の15・2%は、すでに眼軸長が26 mm 以上の強度近視になっていたことがわかったのです。

オルソケラトロジーなど近視を抑制する治療も

近視になった場合には、その進行を防ぐことが重要です。
近視の進行を防ぐためには、2時間以上の屋外活動に加えて、勉強や読書、スマートフォン、ゲーム機、デジタル機器など近くを見る作業を続け過ぎないこともポイントです。1時間に1回は休憩時間を取って目を休ませてください。
子どもがメガネをつくるときには、眼科で調節麻痺薬を用いたメガネ処方を受けましょう。子どもの場合、調節麻痺薬を使わないと正確な屈折度数が測れないからです。万が一、実際の屈折度より度数の強いメガネを処方されて、網膜の後ろにピントを合わせなければならない状態になると、眼軸長もそれに合わせて伸びてしまい近視が進みます。調節麻痺薬が使えるのは医療機関の眼科だけなので、眼科でメガネを処方してもらうことが大切です。
近視を改善し眼軸長の伸びを抑制する効果が認められている治療法には、オルソケラトロジーがあります。就寝中に特殊なハードコンタクトレンズを装着して角膜の形状を矯正する治療法です。起床後にコンタクトレンズを外し、日中は裸眼で過ごします。
感染しないようにコンタクトレンズの管理をする必要はありますが、就寝中に角膜の形状を矯正することで、適応のある多くの患者さんが日中は裸眼でもはっきり見え、眼軸長の伸びも抑えられます。
ただし残念ながら、オルソケラトロジーは保険診療の対象にはなっていません。費用は医療機関によって異なりますが、検査代なども合わせて10万~20万円かかるのが難点です。
もう1つ、子どもの近視治療に用いられるのは、副交感神経遮断薬のアトロピンを0・01%の低濃度に薄めて点眼する方法です。ただ、最近の研究では、低濃度アトロピン点眼薬の近視進行抑制効果は以前期待されていたほどではない可能性が出てきており、さらなる研究と新たな治療法の開発が期待されます。
大人の近視に関しては、屋外活動やオルソケラトロジーに進行抑制効果があるかどうかはまだよくわかっていません。視力が悪く、強度近視や病的近視かもしれないと思う人は、定期的に眼科でチェックを受け、目の病気の早期発見・早期治療を目指しましょう。

ライター 福島 安紀

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする