オンとオフを切り替えて生活リズムを『コロナうつ』

オンとオフを切り替えて生活リズムを『コロナうつ』

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、 働き方の変化やさまざまな自粛が求められる ようになりました。多くの人は、それに応じ て新しいライフスタイルを模索しながら実践 しています。慣れ親しんだ生活リズムと違う 日常は、それ自体がストレスとなり、憂うつ、 不安、意欲の低下といった心の問題を引き起 こす原因となります。俗に“コロナうつ”と 呼ばれる、コロナ禍による心身への影響と、 その対策を紹介します。

監修

杏林大学 名誉教授

古賀 良彦 先生 (こが・よしひこ)

1971 年、慶應義塾大学医学部卒業。
1976 年、杏林大学医学部精神神経科学教室入室、1990 年、同助教授、1999 年、主任教授を経て、2016 年退任。
専門は、睡眠障害と関連の深いうつ病、統合失調症。
日本催眠学会名誉理事長、日本薬物脳波学会副理事長など要職を務める。
アロマテラピーやぬり絵の効果について脳波分析や脳機能画像を用いて検証し、臨床に応用。
著書に『パンデミックブルーから心と体と暮らしを守る50 の方法』(2020 年、亜紀書房)ほか多数。

「これまでと違う日常」が ストレスに

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと表記)の影響で、気持ちがふさぐ毎日を送っていませんか。
そんな状態は、よく“コロナうつ”と呼ばれます。この言葉はメディアがつくったもので、「コロナ禍を原因とするうつ病」という意味ではありません。多くの人が、程度の差はあれ感じている気分であり、それによって心身や生活に問題が生じている状態ととらえればいいでしょう。
ここでは“コロナうつ”を、「コロナによって従来の日常生活が送れないことがストレスとなり、それが高じて心身に症状が現れること」として話を進めます。
コロナによるストレスは、内容や強さが人によって異なります。年齢や職業、家族構成、生活環境などさまざまな要素がかかわってくるからです。
とはいえ、「これまでと違う日常」は、多くの人が感じるストレスといえるでしょう。サラリーマンならリモートワーク、家事専業の人ならふだんは1人の時間帯に家族がいることで生じる家事、子どもや学生は休校やオンライン授業、活動的な高齢者は外出の自粛など、その例は挙げればきりがありません。これらは主に「ステイホーム」によるストレスです。
ステイホーム中はオンとオフの時間 が曖昧になり、生活リズムが乱れやす くなります。人は一定のリズムで生活 しており、それが乱れると元気がなく なって抑うつ状態(うつ状態と同義) に陥りやすくなるのです。

気力低下、イライラ感、 不眠がサイン

抑うつ状態とは、憂うつ、もの悲しさ、気分の落ち込み、不安、イライラ感、思考力や集中力の低下、意欲の減退、絶望感といった心の症状がいくつか重なり、それがある程度の期間、続いている状態のことです。
“コロナうつ”では、「悲しみ」の感情より、気力や意欲の低下が強く現れるのが特徴です。いつものやり方ができないことによるイライラ感もあります。また、生活リズムの乱れからくる睡眠障害もよくみられます。睡眠障害は初期症状として現れることが比較的多く、自覚しやすいので目安になります。
私たちは、コロナによるストレス以 外にも、日々、何らかのストレスにさ らされています。そして強いストレス がかかったとき、心身の不調や行動の 変化が現れます(下表)。原因が何で あれ、それらの症状は同じです。“コ ロナうつ”に限らず、ストレスよる心 身の不調を早く発見するには、こうし たサインを見逃さないことが大切です。 本人は、ストレスに対する自覚がない ことも多いため、身近な人が気づくこ とが早期発見のカギになります。

睡眠と覚醒のリズムを 保つことがポイント

ストレス対策の表現としてよく「解消」という言葉が使われますが、ストレスはなくせるものではありません。ストレスには、上手に「対処」することが重要です。これをストレスコーピングといいます。日々のストレスには日々対処する、つまり、ストレスコーピングは毎日行うことが大切です。といっても、生活の中で簡単にできることばかりです。
ストレスコーピングの鉄則は、3つの「R」の実践です。3つのRとは、「Rest(レスト、休む)」、「Relaxation(リラクゼーション)」、「Recreation(リクリエーション)」で、特に重要なのはレストです。十分なレストを得るためにはリラクゼーションが必要であり、その手段としてリクリエーションがあると考えるといいでしょう。
ストレス対応の司令塔である脳が最も休めるのは睡眠中であり、質のよい十分な睡眠が脳を休ませることになり ます。それには睡眠と覚醒のリズムを 保つことが必要です。このリズムは本 来、体内時計で管理されているため、 自然にまかせていれば必要な睡眠は得 られます。しかし、強いストレスを受 けると、そのリズムが乱れて睡眠状態 が悪化します。

リズムを保つ行動と 運動で脳の疲れをとる

十分なレストを得るためのコツを2つの視点から紹介しましょう。
●睡眠と覚醒のリズムを保つ行動
夜の眠りをよくするには、日中の過ごし方が大切です。
・同じ時間に起きて太陽の光を浴びる
朝日を浴びると体内時計がリセットされます。起床後2時間以内に屋外に出ましょう。それができないときも、必ずカーテンは開けましょう。
・3度の食事の時間を変えない
日中の活動が一定のリズムを保っていると、夜はすぐに寝つけ、ぐっすり眠れます。日中のリズムを保つには、胃腸を動かす時間、排泄の時間が一定であることが重要です。
・日中は明るい環境で過ごす
睡眠と覚醒のリズムには、光が大きな影響を及ぼします。日中は明るい環境で過ごし、外が暗くなるにつれて室内の照明も暗くすると、自然に眠気を覚えます。
・昼寝は午後早めに30分以内で
夜の睡眠不足による日中の眠気で仕事に支障を来す場合は、昼寝でリフレッシュしましょう。夜の睡眠を妨げないよう、昼寝は午後早めの時間に30 分以内が鉄則です。
・寝る前はブルーライトを遠ざける
ブルーライトは、パソコンやスマホのディスプレイ、テレビ、LED照明に多く含まれる光です。脳を覚醒させる作用があるので、就寝1、2時間前から、ブルーライトを浴びないよう心がけましょう。
●運動
脳は各部で働きを分担して全身をコントロールしています。そのため、一部だけを使い続けることは脳にとってストレスになります。そんな脳をすみずみまでバランスよく働かせるのに効率的な手段の1つが運動です。
たとえばジョギングなら、まず天候に合わせてウェアを選び、コースを決めます。いざ走り出せば、道路の状態や信号、通行人などに注意を払うことになります。そのうちに身体面では心拍数が増え、血圧が上がり、発汗してきます。苦しくなって「走るのをやめよう。いや、もうちょっと頑張ろう」などと心理面も変化します。
こうしたことは、脳と、脳にコントロールされている体との間の情報交換により起こっています。運動すると脳全体が活性化し、脳のストレスが軽減されるのです。
また運動後は、よく働いた体に栄養と休養をとるよう脳が指令を出します。運動したあとは食欲がわき、ぐっすり眠れるのはそのためです。
リモートワークで通勤がなくなった人は、意識して運動しましょう。簡単なストレッチ、ウオーキング、水泳、テニスなど、自分が楽しいと思える運動ならなんでもかまいません。

隙間時間にできる 楽しみでストレス軽減

残る2つの「R」、リラクゼーションとリクリエーションは何でもかまいません。楽器の演奏、料理、手芸、パズルなど、「隙間時間ででき、脳で作戦を考えて手を動かすこと」がストレスを軽減します。こうした楽しみをいくつか持っておきましょう。
●リラクゼーション
気持ちをリラックスさせたいときに役立ちます。
・換気する
感染症予防にも有効な換気は、無料でできる手軽なリラックス術です。不快と感じない程度の臭いでも脳にはストレスになることがあるからです。
・アロマ(香り)を利用する
換気後にアロマを利用すると、さらにリラックスできます。
ある実験によると、脳がリラックスしているときに出るα 波が多く出現したのはラベンダー(精油)、コーヒーではブルーマウンテン、グァテマラ、モカマタリの香りでした。
●リクリエーション
脳のスムーズな働きを取り戻したいときに役立ちます。
・ぬり絵
脳の広い範囲が活発に働きます。色鉛筆があればすぐにでき、飽きたらすぐやめられるのも長所です。
・マジック7
やろうと思ったことをするために何が必要か、7つのアイテムを口に出していう遊びで、そのときに必要な情報だけを想起する力と、不要になった情報を消去する力を養う、脳の訓練になります。
たとえば、歩いていて犬を見かけたら犬種を7つ、卵を買ったら卵料理を7種といった具合です。
人は一定のリズムで生活しており、そのリズムが乱れると抑うつ状態に陥りやすくなります。コロナによって一変した日常が長く続いている現在、“コロナうつ”はだれにでも起こり得るといえるでしょう。ストレスが何であれ、その影響を最小限に抑えるには、「オンとオフをしっかり分けて生活リズムをつくる」ことが重要です。コロナ禍が続いている間はもちろん、収束後もストレスコーピングの基本である3つの「R」を意識し、オフの過ごし方に役立ててください。

ライター 竹本 和代

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