早期発見と治療継続で視力を生涯維持『緑内障』

早期発見と治療継続で視力を生涯維持『緑内障』

 緑内障は、何らかの原因で視神経が損なわれ、視野(見える範囲)が欠けていく病気です。日本では中途失明原因の第1位で、40歳以上の20人に1人が患っていると推計されています。失われた視野は戻りませんが、適切な治療を受けて進行を遅らせれば、生涯、視力を保つことができます。そのためには定期的に目の検査をして、異常や変化を早く見つけることが大事です。そして治療の要所をしっかり把握し、粘り強く付き合っていきましょう。

監修

広島大学大学院医系科学研究科 視覚病態学教室 教授

木内 良明 先生 (きうち・よしあき)

1983 年、広島大学医学部卒業。同附属病院、国立大阪病院、イェール大学医学部眼科および視覚学教室博士研究員、広島赤十字・原爆病院、大阪大学医学部非常勤講師などを経て、2006 年から広島大学医歯薬学総合研究科(現・医系科学研究科)視覚病態学教授。2018 年4月~ 2020年3月、広島大学理事・副学長(医療担当)・病院長。日本緑内障学会理事、日本眼科学会眼科専門医。日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会委員長として、「緑内障診療ガイドライン第5版」(2022 年)の作成に携わった。

眼圧で視神経が損傷 視野が欠けていく病気

 私たちの目の中には房水ぼうすいと呼ばれる液体が流れていて、血液の代わりに酸素や栄養を運ぶとともに、眼球内部の圧力(眼圧)を一定に保っています(下図)。しかし房水がつくられる量と出て いく量のバランスが崩れると、流れが滞って眼圧が高まります。その結果、眼球の奥にある視神経が圧迫されて傷つき、その部分が担っていた視野も失われます。これが緑内障です。
 視神経は神経線維の束でできていて、神経線維は生まれたときには約120万本ありますが、健康な人でも加齢とともに毎年4千~5千本ずつ減っていきます。ところが緑内障になると、そのスピードがずっと速くなるのです。
 緑内障になりやすいリスク因子は、①眼圧が高い、②高齢、③近視です。また、低血圧(特に夜間)や、家族にこの病気の人がいる場合もリスクが高いとされています。40代から増え始め、70代以上では10 %以上の人が緑内障になります。
 緑内障には、外傷やほかの目の病気、ステロイドなどの薬剤に起因する続発緑内障、小児期に発症する小児緑内障もありますが、ここでは、はっきりした原因がなく、患者数が最も多い原発緑内障について説明します。
 原発緑内障は開放隅角緑内障(下図)と閉塞隅角緑内障(下図)に分けられます。隅角ぐうかくとは角膜と虹彩の根元が交わるところで、房水はここから線維柱帯シュレム管を通って排出されます。開放隅角緑内障では隅角は開いていますが、フィルターの役割を果たす線維柱帯の目詰まりなどによって房水の流れが滞り、眼圧が上がります。
 ただ、日本人の場合、眼圧は医学的な正常範囲内(10~21mmHg)にとどまっている(正常眼圧緑内障)ことが多く、日本の緑内障患者の7割はこのタイプで す。これは「眼圧は正常なのに緑内障になった」わけではなく、日本人の平均眼圧が欧米で使われる基準値よりやや低く視神経の強さ(眼圧への抵抗力)にも個人差があることなどに起因します。
 一方、閉塞隅角緑内障では加齢やもともとの目の形(人によって顔が違うように目の形も違う。遺伝)のために隅角が塞がり(瞳孔ブロック)、房水が行き場を失って眼圧が高まります。緑内障のうち1割程度がこのタイプで、高齢の女性に多く発症します。緑内障発作を起こす恐れがあるので要注意です。眼圧が急上昇し、激しい頭痛、目の痛み、吐き気などが生じます。失明の危険もあるため、発作が起こったら早期に眼圧を下げる治療を受ける必要があります。風邪薬の服用や心理的なストレス、暗い場所での長時間の作業などが発作のきっかけになることもあります。

眼底、眼圧、視野の検査で総合的に診断

 初期の緑内障は見逃されがちです。一部の視野が欠けても両眼や脳の働きでカバーされるため、自覚症状(見えづらさ)を感じにくいからです(下図)。だからこそ、視野や視神経の小さな異常も検査で把握しておくことが重要です。
 診断には眼圧検査、視野検査、眼底検査、隅角検査などを行い、緑内障のタイプや進行度を判定します。
 このうち最も重要なのが、視神経を直接調べる眼底検査です。眼圧や視野の検査だけでは緑内障を見逃すことがあります。
 最近ではOCT(光干渉断層撮影)という新しい眼底検査も行われています。目の断層画像を3次元で撮影して観察するもので、視神経乳頭(視神経が1つの束にまとまる中心点)のくぼみの大きさや、網膜の神経層の厚みを測定します。従来の検査ではわからないほど早期の緑内障の診断も可能になっています。
 隅角検査は、「閉塞」か「開放」か、隅角の状態をみて病型診断を行うための検査です。簡易的な方法もありますが、重要な検査なので、隅角鏡による精密診断が求められます。
 これらの検査によりグレーゾーン、視野に異常はないが視神経の病変が認められる前視野緑内障、眼圧が高いがほかに異常のない高眼圧症と診断された場合も、高齢などのリスク因子を考慮して治療を始めることがあります。
 緑内障の治療方法は、正常眼圧緑内障も含めて眼圧を下げることに尽きます。目標とする眼圧値は、患者の状態や年齢などを考慮して設定します。一般的には治療前の平均眼圧から20~30%低い値が推奨されます。視野障害の進行が速い、年齢が若い、もともとの眼圧が低い(にもかかわらず発症した)――などに該当する場合は、目標眼圧を設定し直す必要があります。

バイパスをつくる レーザー治療や手術も

 治療法には点眼薬による薬物療法、レーザー治療、外科的手術があります。開放隅角緑内障に対しては薬物治療が第1選択となります。まず1つの薬から始めて、目標眼圧まで下がらなかったら2つ目、3つ目と増やします。
 点眼薬には①房水の排出を促すもの、②房水の産生を抑えるもの、③2種類の薬を合わせたもの――があります。充血、刺激感、まつ毛が太くなるなど、薬ごとにさまざまな副作用があるので、医師と相談しながら、自分に合う薬を探します。緑内障では正しい点眼法(下コラム)を継続できるかどうかが、病気の進行の速さを決めるといわれています。
 点眼薬は、毎日さす大変さや副作用のデメリットからも3剤が限界で、眼圧が下がらなければレーザー治療あるいは手術治療に進みます。
 手術方法の選択肢は多岐にわたります。一番オーソドックスな方法は房水を排出するためのバイパスを設けることです(ろ過手術)。このろ過手術には、虹彩や線維柱帯の一部を切開する線維柱帯切除術や、より新しい方法としてステンレス製やシリコン製のチューブを装着するチューブシャント術などがあります。それぞれ一長一短があり、病状、患者さんの状態を考えて術式を選択します。1週間程度の入院となりますが、最近では日帰り手術も行われるようになっています。比較的初期の緑内障を対象に、短時間で済み、目への負担も少ない低侵襲緑内障手術(MIGS)が選択されることもあります。眼内にアイステントという器具を入れて房水の排出を促す、あるいは目の内側から房水の出口(線維柱帯)を切開するといった方法です。白内障を併発している場合、この手術と白内障手術 を同時に行うことが多いようです。
 一方、閉塞隅角緑内障では、瞳孔ブロックという構造的な障害を解消するために、薬物治療よりもレーザー治療や外科的手術が優先されます。国内ではレーザー治療よりも水晶体摘出術(水晶体を摘出して薄い眼内レンズに交換する、いわゆる白内障手術)を受ける ことが推奨されています。
 外科的手術やレーザー治療は薬剤よりも眼圧を下げる効果が高い一方、合併症のリスクもあり、術後の管理が重要です。緑内障治療の経験豊富な医師と十分に相談して、ベストのタイミングと方法を選びましょう。

車の運転に注意 適度な運動で眼圧低下

 緑内障の患者さんが日常生活で最も注意すべきことは車の運転です。
 視野障害が重い人ほど交通事故を起こしやすいことがわかっています。とはいえ、実際には緑内障でも視野の中心は生きていて、免許更新時の視力検査をパスする人が少なくありません。交通の不便な地方では、車なしでの生活が難しいケースもあります。
 このような場合、視野のどの辺が欠けているかを自覚したうえで、慣れた道だけを、日の出ている時間帯に限って運転するよう心掛けるとよいでしょう。夜の運転は避けたほうが無難です。特に雨の降る夜の運転は危険です。
 家の中では段差を見逃したり障害物に躓きやすくなったりする恐れがあります。バリアフリー化に努め、床などに余計なものを置かないようにします。
 緑内障の進行を少しでも遅くするために、日常生活では次のようなことに 気をつけましょう。
 1つは、バランスのとれた食事をし、定期的に運動もして、太り過ぎず痩せ過ぎもしない体型を保つことです。実際、中肉タイプが最も緑内障になりにくいという報告があります。
 運動をすると眼圧は下がります。散歩やジョギングでもよいので、毎日、体を動かす習慣を身につけましょう。
 食事では、抗酸化物質を多く摂取している人のほうが緑内障になりにくいという研究報告がありますが、確実性が高くなく今後のさらなる研究が期待されます。抗酸化物質は緑黄色野菜に豊富に含まれていますから、食事に取り入れるのもよいでしょう。
 緑内障の患者さんの大半は視力を失わずに人生を全うしています。希望を持ち、しっかりと治療を続けましょう。

ライター 平野 幸治

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする