原因を知って上手につきあえばラクになる
原因を知って上手につきあえばラクになる
『慢性頭痛・片頭痛』
慢性的な頭痛に悩んでいるのに、じっと我慢したり、鎮痛薬でごまかしたりしていませんか。頭痛のなかには、放置すると頭痛が起こりやすくなったり、頭痛以外の症状を引き起こしたりするタイプがあります。
一方、セルフケアでかなり改善できるのも頭痛の特質です。自分の頭痛はどのタイプか、原因は何かを知り、上手につきあいましょう。慢性頭痛のタイプ別特徴と、衣食住の工夫による対処法を紹介します。
東京女子医科大学 脳神経外科(頭痛外来)客員教授
清水 俊彦 先生(しみず・としひこ)
1986 年、日本医科大学卒業。東京女子医科大学脳神経外科学教室入局。東京女子医科大学大学院修了。医学博士。
2011 年より現職。獨協医科大学神経内科学講座臨床准教授を兼任。日本脳神経外科学会認定医。日本頭痛学会認定指導医で、同学会の幹事、監事を歴任。
現在、複数のクリニックで頭痛外来を担当し、1 日に約200 人(月間6000 人)の患者を診る。テレビ、新聞、雑誌などで精力的に頭痛の悩みにこたえる活動を行っている。『頭痛は消える。』(ダイヤモンド社)、『Dr. クロワッサン 頭痛に負けない暮らし方』(監修・マガジンハウス)ほか著書多数。
激痛や増強する痛みは 危険な頭痛のサイン
頭痛は、原因となる病気がないのに繰り返し起こる一次性頭痛と、病気などが原因となって起こる二次性頭痛に分けられます(下図)。
二次性頭痛の原因となる病気のなかには命にかかわるものもあり、注意が必要な頭痛です。たとえば、脳動脈瘤が破裂するくも膜下出血が起こると、突然それまで経験したことがない激しい頭痛に襲われます。また、朝から頭が痛いという場合は脳腫瘍が疑われます。腫瘍には良性も悪性もありますが、痛みが日ごとに強くなるなら腫瘍が急激に大きくなっていると考えられるため、早く原因を特定することが大切です。激しい頭痛、日増しに強くなるような頭痛があったら、すぐに医療機関を受診しましょう。また、薬の使い過ぎによる薬物の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)も二次性頭痛の1つです。
一方、一次性頭痛は慢性頭痛、いわゆる「頭痛持ちの頭痛」です。症状はつらいけれど、命にかかわることはありません。慢性頭痛に悩まされている日本人は3000万人とも4000万人ともいわれています。
一般に慢性頭痛とは、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛の3つをいいます。片頭痛と緊張型頭痛を併せ持つことも少なくありません。
ズキズキ痛む片頭痛はセロトニンの増減が原因
●片頭痛
ズキンズキンと脈打つように痛むタイプで、慢性頭痛のなかでも痛みが強く、いわば代表格の頭痛です。日本では約840万人が片頭痛に悩まされているといわれ、男女比は1対4で女性に多くみられます。発作は4時間〜3日ほど続き、自然に回復します。頻度は人それぞれです。月1〜2回の発作が多く、週1〜2回の人もいます。
痛む場所は頭の片側とは限らず、両側のこともあります。頭痛の最中に頭の位置を変えると痛みが強くなるのが特徴で、吐き気やめまい、耳鳴りなどを伴うこともしばしばです。痛みが始まる前に、目の前がチカチカしたり、ギザギザの光やオーロラ、モザイクのような模様が見えたりする閃輝暗点(せんきあんてん)という前兆が現れる人もいます。
片頭痛に直接関わっているのは、脳内物質のセロトニンです。その分泌の増減に伴って脳の血管が拡張し、脳血管周囲のセンサーである三叉神経を圧迫します。その結果、拍動と呼応する痛みが生じるのです。
セロトニンは、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの分泌量に影響を受けやすいことが知られています。そのため月経前後や排卵期に発作が起こりやすくなります。これは生理痛などと同じ月経関連症状ととらえられがちですが、れっきとした片頭痛であることを知っておきましょう。
片頭痛を起こしやすい人には特徴があります。外界のささいな刺激や変化を敏感に感じ取れる脳をもっていることです。敏感なゆえに脳にたくさんの刺激が伝わって脳の興奮性が異常に高まり、それが痛みの症状を引き起こします。
そのきっかけとなるのが、光や音、におい、気温や気圧の変化などです。これらは発作の引き金になるだけでなく、発作中に痛みを増強する誘因にもなります。
片頭痛の本質は、この脳の興奮性の高さにあります。放置していると興奮性はさらに高まって常態化し、脳過敏症候群(本誌19ページコラム)に進行する恐れがあります。
肩や首のこりを伴う緊張型頭痛は姿勢が関係
●緊張型頭痛
後頭部を中心に頭全体が締め付けられるように鈍く痛むタイプで、頭が重い感じも含まれます。多くの場合、片頭痛は肩や首のこりを伴っており、目の疲れやめまい、全身のだるさなどが現れることもあります。片頭痛のように発作が起こることはなく、痛みはいつとはなしに始まってだらだらと続きます。慢性頭痛では最も多く、約2000万人が悩まされているとされます。男女比は3対7と、やはり女性が多くなっています。
原因は、頭から背中にかけての筋肉が緊張し、血管が収縮して血流が悪くなることにあります。血流が悪いと筋肉の中に老廃物がたまりやすくなり、それが周囲の神経を刺激して痛みを起こすのです。このタイプは悪い姿勢や運動不足、それによる血流の悪化が大きくかかわるため、デスクワークやゲームなどで長時間同じ姿勢をとり続ける人、冷え症の人に多くみられます。また不安などの精神的ストレスも誘因になります。
●群発頭痛
3つの頭痛のなかで一番痛く、片眼の奥や側頭部が「ドリルでえぐられるような」激痛に襲われます。目の充血、涙が出る、鼻水・鼻づまりなどの症状も伴います。このタイプの頭痛持ちは約12万人で、男女比は10対1と男性が圧倒的に多くなっています。
発作の頻度は一般に年1〜2回で、いったん始まると1〜2か月間は連日連夜、頭痛が起こります。これが半年から2〜3年ごとに繰り返されます。早春や初秋など季節の変わり目に発症する人が多くなっています。痛む時間は15分〜数時間で、多くは1日に1〜2回、就寝1〜2時間後の決まった時間に起こります。
原因は、眼の奥を走る内頸動脈周囲の海綿静脈洞という静脈のネットワークの浮腫とされています。また、睡眠と覚醒をコントロールしている体内時計の乱れがかかわっているとも考えられています。あるいは、水ぼうそうにかかったあと、潜伏していた帯状疱疹ウイルスが再活性化して静脈洞周囲の三叉神経を刺激して発症する可能性も指摘されています。
片頭痛は衣食住の工夫で予防や改善が可能
慢性頭痛は、生活習慣や生活環境を改善することで、多くの場合、発作の予防や痛みの軽減につなげることができます。まずはセルフケアに取り組みましょう。ここでは、注意すべき点の多い片頭痛を中心に対処法を紹介します。血管の収縮によって起こる緊張型頭痛は、血管の拡張によって起こる片頭痛とは対処法が異なります。片頭痛についての注意点は緊張型頭痛には当てはまらないので注意してください。
●食生活
血管を広げて血流をよくする食品は、一般に“健康によい”とされています。しかし、片頭痛持ちの人にとっては発作の引き金や症状悪化の誘因になりかねません。たとえば、オリーブ油や赤ワイン、チョコレートはポリフェノール、柑橘類やチーズはチラミンという血管拡張作用のある物質を多く含んでいます。こうした食品は一度に食べる量や回数を控えめにしましょう。中華料理に使われるうまみ調味料のグルタミン酸ナトリウムも血管拡張作用があるため、頭痛が起こりやすい時期には食べないほうが無難です。
一方、マグネシウムやビタミンB2を豊富に含む食材を使った和食は、脳血管を安定させ、神経細胞の異常な興奮を抑え、片頭痛を予防するとされています。
●住環境
まぶしさが発作の誘因になる片頭痛の人は、白い壁紙や家具を避け、カーテンは遮光性があるものにしましょう。また、脳が敏感なので蛍光灯のかすかなちらつきが刺激になることがあります。白熱灯か淡い色合いのLED電球による間接照明にするとよいでしょう。
●ファッション
片頭痛の人は、強烈な色や蛍光色、市松模様や千鳥格子などの柄を避けましょう。おすすめは、寒色系の無地の服です。アクセサリーはさりげないものを。キラキラしたものは脳を刺激するので片頭痛を、大きなものは肩がこりやすいので緊張型頭痛を起こしやすくなります。また、頭皮を引っ張るポニーテールや三つ編みは知覚神経が刺激されるので、片頭痛にも緊張型頭痛にもよくありません。
緊張型頭痛に特効薬はありませんが、片頭痛にはトリプタン製剤という有効な薬があります。片頭痛の場合、セルフケアを行っても十分に改善しないときは、我慢せずに受診しましょう。一度はきちんと検査することが望ましいので、かかりつけ医からCTやMRIなどの画像検査ができる施設を紹介してもらうとよいでしょう。
ライター 竹本和代