早期治療で重症化を防ぐ『帯状疱疹』
帯状疱疹は年間50万人を超える人が発症するといわれ、その患者数は年々増加しています。水ぼうそうにかかったことのある人はだれでも、帯状疱疹を発症する可能性があります。早期に治療すれば2週間ほどで治りますが、症状のわかりにくさから別の病気を疑って受診し、症状が進んでしまう場合も少なくありません。治療が遅れると重症化し、合併症や後遺症のリスクが高まります。早期発見のポイントと、知っておきたい基礎知識を紹介します。
横浜市立市民病院 皮膚科 部長
蒲原 毅 先生(かんばら・たけし)
1995 年、横浜市立大学医学部卒業。
横浜市立大学医学部皮膚科学教室、国立相模原病院皮膚科、横浜市立大学医学部附属病院、 同大学附属市民総合医療センターを経て、2020年4月より現職。
日本皮膚科学会東京支部代議員、日本アレルギー学会代議員、日本皮膚免疫アレルギー学会評議員、日本医薬品安全性学会理事、日本皮膚科心身医学会評議員など歴任。
原因は過去にかかった水ぼうそうウイルス
帯状疱疹は、体の片側に赤い発疹が帯状に現れることからついた病名です。強い痛みがあるのも特徴で、原因は水ぼうそう(水痘)と同じ水痘・帯状疱疹ウイルスです。水ぼうそうにかかったことのある人ならだれでも、帯状疱疹を発症する可能性があります。
このウイルスに初めて感染すると水ぼうそうになりますが、水ぼうそうが治ってもウイルスがすべて死滅するわけではありません。生き残ったウイルスは、脊髄や脳神経(三叉神経)の神経節などに潜伏しているのです。
ウイルスが何らかの原因で暴れだす(再活性化)と、増殖しながら感覚神経を伝わって皮膚に到達します。頭や顔に症状が出るのは三叉神経に、首から下に症状が出るのは脊髄に潜伏していたウイルスが原因です。このウイルスは組織や神経を刺激して炎症を起こし、痛みや発疹、水ぶくれなどを引き起こします。これが帯状疱疹です。
潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが暴れだすのは、免疫力(抵抗力)が低下したときです。「徹夜して体力が落ちている、ストレスがある」「糖尿病などの持病がある」「がんや膠原病など、免疫が低下する病にかかっている」「ステロイド薬や免疫抑制薬など免疫が下がる薬を飲んでいる」「50歳以上である」などが当てはまる場合は気をつけましょう。
若い人でも発症しますが、男女とも免疫力が低下する50代から急増しています。季節としては、夏バテで免疫力が低下する夏から秋に患者数が増える傾向にあります。
個人差があり多様な症状 合併症や後遺症にも注意
初めに起こるのはピリピリ、ズキズキする痛みや違和感です。一般的に痛みは体の片側に起こり、しばらくすると痛みがある領域に神経に沿って赤い発疹が帯状に現れます。発疹とともに強い痛みが出ることも多く、「針が突き刺さったよう」と表現する人もいます。痛みは発疹が出る前から現れるのが一般的ですが、かゆみを感じたり、かゆみのあとに痛みが出たりするなど、個人差の大きい病気といえます。
発疹は透明の水ぶくれになったあと、膿がたまって破れ、やがてかさぶたになって乾きます。治療しないまま症状が進むと患部が広がり、潰瘍になることもあります。多くは顔、胸、上肢から背中、腹などに発症しますが、どこにでも生じる可能性があります。
重症化すると運動障害などのさまざまな合併症や後遺症を引き起こします。
顔の周辺に現れると、顔面神経麻痺、難聴、めまい、角膜炎、目の動きの麻痺などが起こることがあります。お尻や陰部に現れると排尿障害になり、腹部では腹筋が麻痺して膨らみ、肩に生じると三角筋が麻痺して腕が上がらなくなることがあります。
39度以上の発熱や頭痛などの全身症状を伴うこともあります。
問題なのは、早期に適切な治療を行わないと、皮膚症状が治っても痛みが継続する、帯状疱疹後神経痛という後遺症が残る場合があることです。体の片側に原因がわからない痛みを感じたら、皮膚の変化に注意しましょう。そして、帯状疱疹が疑われたら、すぐに皮膚科を受診してください。
治療はためらわず発疹後3日以内に
治療の中心はウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬の服用で、発疹が出てから3日以内に服用を始めることが重要です。ウイルスが少ない初期段階から服用するほど、重症化リスクを軽減する効果が期待できます。週末などで受診しにくい場合でも、休日当番医や救急外来などで診療を受け、後日改めて皮膚科を受診するなど、一刻も早い診断・治療を優先させてください。
抗ウイルス薬を投与される場合、腎機能に応じて用法・用量を調節する必要があります。腎機能が低下している人は、主治医によく相談してください。
抗ウイルス薬の治療と併せて重要なのが痛みのコントロールです。痛みを我慢すると、そのつらい痛みが脳に記憶され小さな刺激にも過敏に反応して治りにくくなります。帯状疱疹後神経痛に移行させないように、できるだけ早く痛みを抑えることが重要です。
帯状疱疹の痛みは、「炎症や刺激による痛み」「神経の痛み」「心理的な痛み」の大きく3つに分けられます。痛みは、人によって感じ方が千差万別で、そのときの痛みがどれに相当するかをよく考慮し、効果のある薬の処方や対処をしていきます。
また、症状のある部位や痛みの強さに応じて、ペインクリニックなど他科とも連携して診療を進め、症状が広範囲に及ぶ場合や痛みが強い場合には入院して治療を行うこともあります。
体を休め、リラックス 入浴や気分転換も大切
帯状疱疹を発症するのは免疫の働きが低下しているときが多いため、無理をせず、ゆっくり体を休めてください。シャワーで皮膚を清潔にし、入浴して体を温めましょう。温まって血の巡りがよくなると痛みが和らぎます。また、帯状疱疹になった人が再び水ぼうそうにかかることはありませんが、まだ水ぼうそうにかかっていない人は、感染して水ぼうそうを発症する可能性があるため、接触は避けましょう。
家にいて痛みのことばかり考えるよりは、外気にあたり、自然に触れるなど、気分転換やリラックスすることが痛みの緩和につながります。
帯状疱疹を予防するためには、バランスのよい食事や免疫力を低下させない生活がだいじです。睡眠を十分に取り、ストレスをためない生活を心がけましょう。50歳を過ぎたら水痘ワクチン接種を検討するのもよいでしょう。日ごろから体の状態に注意し、小さな異変も見逃さないことが大切です。
ライター 高須生惠