若い女性や中高年男性も要注意『骨粗しょう症』

若い女性や中高年男性も要注意『骨粗しょう症』

骨折は痛くて日常生活も不便になるが、生命に悪影響を及ぼすほどのものではない――そんな思い込みはありませんか?しかし、骨粗しょう症から骨折に至ると、寝たきりになるリスクが高く、命にもかかわります。さらに中高年女性のみならず、ダイエット中の若い女性や生活習慣病の男性にもリスクがあることが明らかになっています。自分の骨の状態を正確に知り、予防や治療に早めに取り組みましょう。

監修

北里大学北里研究所病院 整形外科統轄部長

金子 博徳 先生(かねこ・ひろのり)

1994 年、慶應義塾大学医学部卒業。2000 年に同大学院修了。
慶應義塾大学病院勤務などを経て、2012 年から北里研究所病院勤務。副院長、総合スポーツ医学センター長を兼ねる。
股関節外科、骨粗しょう症外来、ロコモティブシンドローム外来を担当するほか、母校のアメフトチームの試合にもチームドクターとして帯同する。
日本骨粗鬆症学会認定医、日本抗加齢医学会専門医、日本整形外科学会整形外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医。

破壊と再生の均衡が崩れスカスカのもろい骨に

骨粗しょう症とは、さまざまな原因により骨の量が減ったり質が悪くなったりして骨の強度が低下し、骨折を起こしやすくなる病気のことです。日本の推定患者数は1300万人、その7割以上が女性です。
骨は血液や皮膚と同じように、新陳代謝を繰り返しています。破骨細胞が古い骨を壊し、骨芽細胞がそこに新しい骨を築きます。この現象を骨のリモデリングといい、数年で全身の骨が入れ替わります。しかし、このリモデリングの均衡が崩れ、破壊 (骨吸収)の勢いに再生 (骨形成) が追いつけなくなると、骨量が維持できなくなります。
健康な骨の内部には、建物の梁(はり)にあたる骨梁(こつりょう)が縦横に張り巡らされていますが、骨粗しょう症の人の骨梁はか細く、まばらに存在するだけで、スカスカの隙間だらけです(下図)。
では、なぜ骨吸収と骨形成のバランスが崩れてしまうのでしょうか。
女性では閉経が最大の要因です。人の骨量は18〜20歳でピークに達し、加齢に伴い減っていきます。女性ホルモンのエストロゲンには破骨細胞の働きを制御する作用があります。閉経してエストロゲンの分泌が減ると破骨細胞の働きが活発になり、骨量は急激に落ち込みます。このため女性の骨粗しょう症は60代から急増します。
もう1つの大きな要因は老化です。もともと骨形成は骨吸収よりも時間がかかります。男女を問わず老化によって新陳代謝のスピードが変化すると、やはり骨量は減っていきます。したがって、男性は閉経などでホルモンの変化の影響を受ける女性より遅れて70代から骨粗しょう症が増えてきます。また、親からの遺伝のリスクがあることが知られています。

健康寿命を脅かす 骨粗しょう症による骨折

骨粗しょう症になると全身の骨が脆くなりますが、①背骨、②脚のつけ根(大腿骨近位部)、③上腕のつけ根(上腕骨近位部)、④手首(とう骨遠位端)の4か所は、特に折れやすい部位です。転倒や尻もちなどのちょっとした衝撃でも、簡単に折れてしまいます。
なかでも最も多いのは背骨の圧迫骨折で、円筒形の椎体という部分が押しつぶされます。自身の体重で徐々につぶれていき、痛まないことも多いので「いつのまにか骨折」とも呼ばれます。圧迫骨折が起こると、ほかの椎体も「連鎖骨折」する確率が高まります。その結果、背中や腰が曲がって内臓を圧迫し、食欲不振や便秘、腸閉塞(ちょうへいそく)などを招くこともあります。
もう1つ、深刻な結果を招くのが脚のつけ根の骨折です。そのまま寝たきりになったり、介護なしには生活できなくなったりするほか、誤嚥性肺炎や血栓塞栓症による死亡リスクが高まります。
自立した生活を送れる「健康寿命」と平均寿命には男性では約9年、女性では約12年もの差がありますが、国民生活基礎調査によると、介護が必要となる大きな原因の1つが「骨折・転倒」であり、その多くは大腿骨近位部骨折であると考えられています。

若い女性と中高年男性の「予備群」化が問題に

閉経後の女性の病気というイメージが強い骨粗しょう症ですが、実は若い女性にとっても他人事ではありません。モデルのようにスリムな体形に憧れて無理なダイエットを重ねると、女性ホルモンの分泌量が減り、生理不順とともに骨量低下を招きます。やせること自体、骨への物理的刺激を減らし、骨粗しょう症のリスクを高めることもあります。厚生労働省の国民健康・栄養調査(2018年)によると、20代女性の19・8%、ほぼ5人に1人が体格指数(BMI)18・5未満の「やせ」型です。彼女たちが将来、骨粗しょう症になるリスクは大きく、懸念する医師も少なくありません。
一方、中高年の男性に増えているのが、骨の量ではなく「骨質」が低下して折れやすくなる骨粗しょう症です。その主な原因は糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣病。骨を鉄筋コンクリートのビルにたとえると、コンクリートはカルシウム、鉄筋はコラーゲンです。そのコラーゲンが生活習慣病によって糖化や酸化することで弾力性を失い、骨がガラスのようにもろくなるのです。
骨の強さは70%が骨量、30%が骨質で決まるとされています。男性の骨粗しょう症は「折れてわかる」ことが多く、生活習慣病の人は要注意です。


サインは姿勢と身長が低くなること

セルフチェックのポイントは、身長が3センチ以上縮んだ、背骨が曲がってきた(円背(えんばい)、亀背(きはい))、背中や腰に痛みがある、などです。姿勢の変化は気づきにくいため、夫婦でお互いにチェックしあうとよいでしょう。
こうした症状があったり、自治体の検診や人間ドックで骨粗しょう症が疑われたりしたら、専門の医療機関やかかりつけ医で骨量の精密検査を受けましょう。
骨量の測定には、骨の一定面積あたりのミネラル成分の量(主にカルシウム)を示す骨密度が用いられます。微量な2種類のエックス線を骨に当てて骨密度を調べるDXA(デキサ)法や、血液検査などの結果から診断します。40歳を過ぎたら一度は調べてみましょう(検査法や診断基準は本誌14ページをご覧ください)。

増える薬の選択肢 骨の状態に合わせて

骨粗しょう症の治療には、骨密度を改善する薬を使います。骨の破壊・吸収を抑える薬、骨の形成を促進する薬、カルシウムの吸収や沈着を助ける栄養素(ビタミンDやK)を補う薬などがあります。かつては栄養素を補う薬が主流でしたが、新しい薬が相次いで登場し、骨折を防ぐ治療効果は確実に高まっています。また、患者さんが継続して服用しやすいように、投与間隔や剤型(薬の形)を配慮したものもあります。
骨を壊す力が強過ぎるのか、骨をつくる力が弱っているのか――。専門医に相談することで、骨の状態やライフスタイルを勘案して適切な治療法を提案してもらえるはずです。薬の副作用にも注意しつつ、根気よく治療を続けることが大切です。
背骨の圧迫骨折に対しては、まずは安静にし、コルセットで固定する保存療法を行いますが、手術を検討することもあります。つぶれた椎体内にバルーン(風船)を入れて膨らませ、その空間に医療用セメントを注入するBKP手術や、「連鎖骨折」が起きている背骨を金属器具で本来の形に戻して固定する脊柱変形矯正術などです。
大腿骨近位部骨折については、日本整形外科学会・日本骨折治療学会が監修した「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン」で「できる限り早期の手術」が推奨されています。寝ている間に筋力の低下が進み、自力歩行が難しくなることが、その理由です。このため、すぐにでも手術を受けられる医療機関を事前に調べておくのもよいでしょう。

食事はまんべんなく 軽い運動で骨に刺激を

骨粗しょう症の予防は「食事、運動、日光浴」が基本となります。
食生活で最も大切なのは肉、魚、卵、野菜、乳製品などあらゆる品目をまんべんなく食べることです。なぜなら、骨に必要とされる栄養素は、それぞれ単独では大きな力を発揮できないからです。たとえば、骨の主成分であるカルシウムは、腸での吸収を高めるビタミンDや骨への沈着を助けるビタミンKが伴ってこそ力を発揮します。骨量維持には運動による刺激が有効で、筋肉の材料となるたんぱく質も欠かせません。
骨に必要な栄養素が豊富に含まれている食品は下図の通りです。塩分やアルコールはカルシウムの体外への排出を促すため、控えめにしましょう。
運動をせず、骨に負荷がかからない生活を続けると骨量が減ることは、無重力の宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士のデータでも証明されています。1日に20分程度のウォーキングでもいいのです。それも夜間ではなく、日差しを浴びることで体内にビタミンDが生成される昼間がおすすめです。ラジオ体操も、骨を刺激し、足腰の筋肉を鍛え、バランス感覚を養って転倒予防にもなる「一石三鳥」のエクササイズです。
また、「かかと落とし」は骨への刺激が大きく、ふくらはぎの筋肉も鍛えられる運動です。かかとを上げてつま先立ちになり、すとんとかかとを落とします。これを何回か繰り返します。高齢の人は机や椅子に手を添えて体を支えながら行うと安心です。
充実した老後のための「骨活」は、今日から、すぐに始められます。

ライター 平野幸治

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