恥ずかしがらないで!男女とも多い『痔の3大疾患』

恥ずかしがらないで!男女とも多い『痔の3大疾患』

便に血が混じる、排便時にいぼのようなものが飛び出す、肛門の周りが腫れている――。こんな症状に心当たりがあったら、痔や肛門の病気かもしれません。痔は、成人の3人に1人が一生に一度以上は経験するといわれるほど患者数が多く、男女を問わずだれでもなり得る病気です。しかし、「患部を見せるのが恥ずかしい」などと放置し、悪化させてしまう人は少なくありません。受診のタイミングやセルフケア、予防の方法を紹介します。

監修

JCHO 東京山手メディカルセンター 副院長

山名 哲郎 先生(やまな・てつお)

1986 年、秋田大学医学部卒業。
社会保険中央総合病院(現・JCHO 東京山手メディカルセンター)大腸肛門外科部長を経て、2020 年より現職。
日本大腸肛門病学会専門医・指導医。日本外科学会専門医・指導医。米国結腸直腸外科学会(ASCRS)会員。医学博士。
「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020 年版」作成委員会委員長。著書に『スーパー便秘に克つ!』(文藝春秋)などがある。

痔の3大疾患は痔核、裂肛、痔ろう

痔は、肛門やその周囲に起こる病気の総称です。主な病気に、肛門にいぼのようなものができる痔核(いぼ痔)、おしりの皮膚が切れる裂肛(切れ痔)、細菌感染によって膿のトンネルができる痔ろう(あな痔)があります。この3つの病気は、痔の3大疾患とも呼ばれます。「痔は男性に多い病気」と思っている人も多いようですが、実は患者数は男女とも同じくらいだとみられています。ただ、どのタイプの痔が多いかについては性差があります。男女ともに最も多いのは痔核ですが、2番目に多いのは女性が裂肛、男性が痔ろうです(下図)。
最初に痔核について説明しますが、まずは、おしりの構造を理解しておきましょう。肛門は、肛門上皮と呼ばれる皮膚で覆われ、便の通り道である直腸粘膜とつながっています。
直腸粘膜と肛門上皮の境目は、歯型のようにギザギザしていることから歯状線(しじょうせん)と呼ばれます。歯状線の近くには、血管と筋肉の繊維が網の目のように集まった肛門クッションがあり、肛門が閉じたときのすき間をふさぎ便やガスが漏れるのを防いでいます。
便秘や排便時に強くいきんだりして肛門に負担がかかると、肛門クッションの血流が悪くなって、いぼのように腫れ上がります。これが痔核です。

内痔核はいぼ状のもの 脱出と出血が主症状

痔核には、歯状線より上の直腸粘膜の肛門クッションが腫れてできる内痔核と、歯状線より下にできる外痔核があります。
痔核の多くは内痔核で、その主な症状は、肛門から何か飛び出しているような違和感と出血です。直腸粘膜には知覚神経がないので痛みはほとんど感じませんが、排便時に便器一面が真っ赤になるくらい出血する患者さんもいます。内痔核が肛門から飛び出す脱出が起こると、粘液によって下着が汚れたり、鈍い痛みが生じたりする場合もあります。この脱出の程度によって、内痔核はⅠ度からⅣ度までの進行度に分けられます。
内痔核の治療には、生活・排便習慣の改善や薬物療法などの保存療法、ゴム輪結紮(けっさく)法、硬化療法、手術などの外科的治療があります。
薬物療法では、坐薬や軟膏を用いて症状を緩和させます。
どの進行度の人も、生活・排便習慣を見直し、肛門周囲の血液が滞らないようにすることが大切です。最も重要なのは、排便時や力仕事のときに強くいきまないことです。
ゴム輪結紮法は、専用の機器を肛門に挿入し、内痔核の根元にゴム輪をはめて強く縛って血流を遮断し、壊死させて除去する方法です。硬化療法では、内痔核の根元に硬化剤を注射していぼを固め、出血や脱出を防ぎます。
手術は、内痔核に通じる血管を糸で縛り血流を遮断して切り落とす、結紮切除法が主流です。
Ⅰ~Ⅱ度の場合、保存療法だけで改善することもあります。ただし、保存療法だけではいぼ状のものを小さくしたり脱出を防いだりすることはできません。
一方、外痔核で多いのは、肛門の周辺の血液の流れが滞ることで血豆ができる血栓性外痔核です。肛門上皮には知覚神経があるため、激しい痛みを伴いますが大半の人は薬物療法とおしりを温めるなどの保存療法で治ります。

裂肛の多くは薬物療法 痔ろうは早めの受診を

裂肛は、便秘で硬くなった便が通過したときや下痢便の強い勢いなどによって、肛門上皮が切れたり裂けたりした状態です。 肛門上皮には知覚神経があるので強い痛みを生じます。一般的に出血量は少なく、トイレットペーパーに少し血がつく程度です。
裂肛のほとんどは、生活・排便習慣を見直し、坐薬や軟膏を用いて炎症を抑える保存療法で改善します。しかし、保存療法を行っても裂肛を繰り返し、肛門が狭くなってしまっている場合があります。
裂肛を繰り返すと、慢性化して傷の周囲が盛り上がる肛門潰瘍を起こし、潰瘍の上のほうには肛門ポリープ、下のほうには見張りいぼと呼ばれるできものができて肛門が狭くなり、開きにくくなります。そうなると手術をしなければ治らないケースが多くなります。
手術では、肛門を締める働きをする内肛門括約筋という筋肉に5ミリ程度の切れ目を入れて広がりやすくします。
痔ろうは、歯状線にある小さなくぼみに便が入り込んで炎症を起こし、肛門周辺に膿の通り道ができる病気です。通常は、歯状線のくぼみに便が入ることはありませんが、下痢を繰り返したりすると小さいくぼみに便が入り込み、肛門周囲膿瘍(のうよう)と呼ばれる炎症を起こしやすくなります。肛門周囲膿瘍になると強い痛みを感じたり、おしりからジュクジュクとした膿が出たり、発熱を伴うことがあります。
肛門周囲膿瘍は、破れて膿が出ればそのまま治ることもありますが、半分以上の患者さんは、肛門周囲に膿のトンネルができてしまいます。これが痔ろうです。痔ろうは放置すると複雑化したり、まれにがん化したりするので、トンネルを取り除く手術が必要です。

生活や排便習慣を見直し便秘と下痢を防ごう

出血があるときは受診をおすすめします。肛門からの出血には、大腸がんなど重大な病気が潜んでいる恐れがあります。また、市販の軟膏や坐薬を1週間くらい使っても改善しなかったり悪化したとき、強い痛みがあるとき、おしりから膿のようなものが出ていたり発熱したりしているとき肛門科や外科などを受診しましょう。
肛門科や外科では、問診とともに、医師が指や肛門鏡などを用いて肛門や直腸を調べます。診察の際はおしりにタオルをかけるなど患者さんが恥ずかしい思いをしないように配慮しています。
痔の改善と予防のためには、生活や排便習慣の見直しによって便秘や下痢を防ぐことが大切です。痔の原因のほとんどが便秘や下痢などの排便トラブルでありこれを解消しないかぎり痔を繰り返すことになるからです。
便秘になりやすい人は水分を多めにとるようにし、食物繊維が豊富な食事を心がけ、定期的に運動をするようにしましょう。便意を我慢し過ぎると便が硬くなって痔核や裂肛につながりやすいので、我慢は禁物です。
便座に長く座り続けるのは悪化のもととなるため、トイレにスマートフォンや本などを持ち込まないようにしましょう。下痢をしやすい人は、飲酒や消化の悪い食べ物を控え、ストレスをためないようにしてください。

ライター 福島安紀

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