4つの治療法を組み合わせて症状をコントロール『乾癬』

4つの治療法を組み合わせて症状をコントロール『乾癬』

乾癬という皮膚の病気を知っていますか。「カンセン」という響きから「感染」を連想し、「うつる」と誤解されやすいのですが、細菌やウイルスによる感染症ではないため、絶対にうつることはありません。治りにくい病気ですが、最近は治療法が進歩し、ほとんど症状がない状態で過ごすことも可能になっています。発症には生活習慣も影響するため、日常生活での注意ポイントも知っておきましょう。

監修

東京慈恵会医科大学附属柏病院 皮膚科診療部長

遠藤 幸紀 先生 (えんどう・こうき)

1995 年、岩手医科大学医学部卒業。
同附属病院皮膚科にて診療および研究に従事。
2005 年、岩手医科大学皮膚科講師、2019 年、東京慈恵会医科大学皮膚科講師を経て、2020 年7 月より現職。
専門は乾癬のほか、アトピー性皮膚炎や掌蹠膿疱症などの難治性疾患。
乾癬の患者会活動にも熱心に取り組み、常に患者目線での診療を心がけている。

フケのようなかさつき、赤い発疹が特徴

乾癬は慢性の経過をたどる炎症性の皮膚の病気で、特徴的な症状があります。それが、皮膚から少し盛り上がった赤い発疹(紅斑)とその表面を覆う銀白色のフケのようなかさつき(鱗屑りんせつです。患者さんが病気に気づくきっかけも、赤い発疹や大量のフケのようなかさつきであることが多いようです。発疹の大きさや数は人によってさまざまです。しだいに数が増え、いくつかが一緒になって大きな病変になることもあります。
発疹が出やすいのは、主に物理的な刺激を受けやすい部位です。具体的には肘、ひざ、お尻、腰、頭などですが、全身のどこにでも生じます(下図)。頭の湿疹と診断されて治療したもののなかなかよくならず、徐々に体にも発疹が出てきて、そこで初めて乾癬と診断される患者さんも少なくありません。
従来、日本の乾癬患者さんは1000人に1人ほど(約10万人)でしたが、近年明らかに増えてきており、現在は40万〜50万人と推計されています。男女比は2対1で男性が多くなっています。年齢については、以前に比べるとまんべんなく発症しているとみられます。
乾癬が増加した原因には食の欧米化が背景にあると考えられています。食の欧米化の影響ですぐに思い浮かぶのは、さまざまな生活習慣病でしょう。実際、乾癬の患者さんにも太った人が多く、糖尿病や脂質異常症などを合併している人が少なくありません。

鱗屑の原因は表皮細胞の過剰増殖

乾癬の原因はまだわかっていませんが、遺伝的要因と環境要因が組み合わさって発症すると考えられています。遺伝的要因とは、乾癬になりやすい体質です。
とはいえ、そういう体質であれば乾癬になると決まっているわけではありません。そこに環境要因、たとえば感染症、精神的ストレス、薬剤、喫煙や高脂肪の食事といった生活習慣などが加わることにより、発症するリスクが高くなります。肥満や糖尿病、脂質異常症なども影響するといわれています。乾癬の特徴である紅斑と鱗屑には、免疫の過剰反応がかかわっています。
皮膚の一番外側にある表皮細胞は、生まれてから通常28〜40日ぐらいで角質となってはがれ落ち、内側から現れた新しい細胞に入れ替わります。しか し、乾癬の皮膚は過剰な免疫反応によって通常の10〜30倍のスピードで増殖するため、角質がどんどんつくられ、厚く積み重なって盛り上がってきます。これを角化といいます。こうしてできたものが鱗屑です。
また、紅斑部位では免疫の異常により炎症が生じているため、表皮の増殖が進み、毛細血管も拡張します。その結果、発疹は盛り上がり、赤く見えま す。この紅斑を覆う鱗屑もつくられてははがれ落ちることを繰り返します。
鱗屑は非常に目立つうえ、服を着ていても肩に落ちてフケのように見えてしまうことから、周囲の目がどうしても気になってしまいます。また、この 症状と、「うつるのでは?」という誤解から、乾癬は精神的なストレスが大きく、生活の質(QOL)も著しく低下することが多い病気といえます。
乾癬には5つのタイプがあり、症状の現れ方が異なります(下表)。
ここでは、患者さんの大半を占める尋常性乾癬について紹介します。単に乾癬というときは、通常、尋常性乾癬を指しています。

治療で紅斑と鱗屑を改善 基本は外用療法(塗り薬)

乾癬の治療は、紅斑の原因である炎症を抑えることと、鱗屑の原因である表皮細胞の過剰増殖を抑えることの両面からアプローチします。
治療法は、外用療法、光線療法、内服療法、注射療法の4つに大きく分けられます。
外用療法をベースに、症状の現れ方や重症度などに応じてほかの治療法を組み合わせます(下図)。
●外用療法
乾癬の治療の基本は、塗り薬による局所の治療です。
紅斑の原因である炎症には、ステロイド外用薬が用いられます。この薬は、長く使い続けると皮膚が薄くなったり、毛細血管が拡張して赤みが出たりするため、医師の指示を守って適切に使用することが大切です。副作用を恐がって勝手に使用をやめると、むしろ症状が悪化することがあります。
鱗屑の原因である表皮細胞の過剰増殖には、ビタミンD3外用薬が効果的です。
この2種類の外用薬は単独でも使用しますが、併用すると効果が高くなることが知られていて、両者を1つにした配合薬も使用されています。別々に使うより利便性が高く、1日1回の塗布で優れた効果が期待されます。
薬剤の種類は、従来からの軟膏、クリーム、ローションに加え、最近ではゲルやフォーム(泡)も登場しており、選択肢が増えています。
●光線療法
紫外線を照射して皮膚症状を改善する治療法で、外用療法だけでは症状が改善しない場合に選択されます。
現在の主流は、治療効果が高く副作用の少ない限定された波長を用いるナローバンドUVB療法で、全身照射型、局所照射型があります。このほか、エキシマライト療法などがあります。
●内服療法
局所に対する治療で症状が改善しない場合は、飲み薬による全身的な治療が行われます。主に次の3種類です。
ビタミンA誘導体は表皮細胞の過剰増殖を抑える薬で、副作用に口唇炎、皮膚や粘膜の乾燥などがあります。胎児が奇形になるリスクがあり、妊娠中 や妊娠予定の女性には使用しません。
免疫抑制薬は過剰な免疫反応を抑えることで、乾癬の炎症を鎮めます。主な副作用に、血圧上昇や腎機能障害などがあります。
PDE4阻害薬は新しいタイプの内服薬です。免疫にかかわる細胞にある酵素の働きを抑えることで、乾癬の炎症を鎮めます。副作用は頭痛や下痢、吐き気などとされています。
●注射療法
これまで紹介した治療で効果が不十分な場合、または患者さん自身が満足できない場合には注射療法を行います。乾癬の症状を誘発したり、症状を悪く させたりするたんぱく質(サイトカイン)の働きを抑える生物学的製剤と呼ばれる薬を注射や点滴で投与して、症状を改善します。高い効果が期待できますが、免疫を抑える作用があるため、かぜなどの感染症に注意する必要があります。
このように乾癬には多くの治療法があります。それは、乾癬が治りにくい病気であることの裏返しでもあります。しかし、複数の治療法を併用すること で症状をコントロールすることも十分可能です。皮膚科の医師とよく話し合って、根気よく治療に取り組んでいきましょう。

知っておきたい外用薬の量や塗り方

乾癬の基本治療である外用療法では、患者さん自身が自宅などで薬を塗ることが求められます。
そこで、適切な使用量や塗り方を知っておく必要があります。大人の手のひら2枚分の面積に塗るための量は、チューブの穴の直径が5㎜ 程度の軟膏やクリームであれば人差し指の先から第一関節まで、ローションなら1円玉大です(下図)。この量を、発疹部位にのせるように塗りますが、強くすり 込まないようにしましょう。塗ったあと、テカテカしていて、ティッシュを当てても落ちない程度が目安です。外用療法の効果がなかなか出ない場合は、 薬の使用量が足りていないことも少なくありません。
また、乾癬には環境要因もかかわるため、日常生活で注意すべきことがたくさんあります。
食事は、肉より魚を中心にバランスよくとりましょう。入浴は湯温をぬるめにし、短時間で済ませます。体をゴシゴシこすらないことも大切です。乾 癬では、症状が出ていない部位が衣服や眼鏡でこすれるだけでも新たな発疹が現れるケブネル現象がみられます。物理的な刺激が加わらないように注意し、引っかき傷などをつくらないようにしましょう。
乾癬は、夏に症状がよくなり、冬は症状が悪化しやすい傾向があるため、寒い時期は特に注意が必要です。外用薬を適切に使い、日常生活に注意して、 上手につき合っていきましょう。

ライター 竹本 和代

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