寒い冬こそ要注意! コロナ重症化にも関連『血栓症』

寒い冬こそ要注意! コロナ重症化にも関連『血栓症』

血栓症とは、何らかの原因でできた血のかたまり(血栓)が血管に詰まってしまう病気です。特に寒い時期には血栓ができやすくなり、心筋梗塞、脳梗塞、肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)などの病気を引き起こします。また、新型コロナウイルス感染症の重症例では、血栓症を起こしやすいことがわかってきています。ただし、血栓症は、予防のできる病気です。血栓症の原因と予防法を知り、寒い冬を元気に過ごしましょう。

監修

十全オアシスクリニック院長
浜松医科大学名誉教授・特命研究教授

浦野 哲盟 先生 (うらの・てつめい)

1981 年、浜松医科大学医学部卒業。
米国ノートルダム大学研究助手、浜松医科大学医学部助教授などを経て、2001 年より同大学医学部生理学教室教授。
2021 年より現職。静岡社会健康医学大学院大学副学長・教育研究担当理事も兼任。
血栓の凝固と溶解の仕組みの解明研究などを行い、「COVID-19(新型コロナウイルス) 感染による血栓症発症・増悪機転の解明と治療介入の可能性 の解明」の研究も進めている。
共著に、『血栓形成と凝固・線溶ー治療に生かせる基礎医学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)など。

動脈と静脈のどちらでも血栓症は発症

私たちの体は、何らかの原因で血管の内側(内皮細胞や組織)が傷つくと、血小板がそこにくっついて血栓(血のかたまり)をつくり、傷をふさぎます。 内皮細胞や組織が修復されると、血栓を溶かして血流を保つ仕組みが備わっています。
若い人でも、たとえばスポーツで打撲したりすると、その下の血管の中も傷つき血栓ができますが、傷害部が修復されると血栓が溶けて血流が回復します。血管の中では、血栓ができ、それが溶かされ、血流が回復するというサイクルが繰り返されているのです。
ところが、血栓が大きくなり過ぎたり、不要なところにできたりして血管が詰まると血流が途絶え、臓器や体の機能が障害されます。これが血栓症という病気です。
血管には、心臓から全身の臓器に血液を運ぶ動脈と、全身から心臓へ血液を戻す静脈があり(下図)、どちらにも血栓症は起こります。動脈の中でも心臓に栄養を送る血管に血栓が詰まって心臓の筋肉が壊死する病気が心筋梗塞、脳に栄養を送る血管に血栓が詰まって脳の一部が壊死する病気が脳梗塞です。
静脈血栓症には、足の静脈に血栓が詰まる深部静脈血栓症と、その血栓がはがれて肺に運ばれ、肺の動脈をふさぐ肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群、ロングフライト血栓症ともいう)があります。

動脈硬化や血流の低下血液成分の変化に注意

では、血栓症はなぜ起こるのでしょうか。その原因は主に血管、血液、血流の異常です。
動脈硬化によって血管の中が硬くなったり狭くなったりすると血栓が詰まりやすくなります(下図)。また、血液がドロドロになると、固まりやすく溶けにくくなります。そして、血流の速度が低下すると流れが不規則になり、血栓が生じやすくなります。この3つの要因のうちどれか、あるいは複数の要因が重なって血栓症が起こります。下水管は、中がガタガタしていたり、中身がドロドロしていたり、流れが遅くてトロリとしていると詰まりやすくなります。血管もそれと同じなのです。
動脈硬化によって起こるのが、心筋梗塞、脳梗塞といった動脈血栓症です。動脈硬化によって血管が硬くなり弾力性が失われると、血管の中が狭くなる ばかりか、血液を固める生理活性物質が過剰に出て、血栓を溶かす物質が働きにくくなります。
血管の内皮細胞が正常なときには、血小板が活性化したとしても、その働きを抑える物質が出てバランスを取っています。しかし、動脈硬化によって血管の中が凸凹になっていると、血小板の働きを抑える物質が出ないため血小板が活性化されて、血栓ができやすい状態になってしまいます。
また、血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が多い脂質異常症などによって血液がドロドロになったり、脱水によって血液が濃くなったりすると、 赤血球の量が増え、赤血球同士がくっつきやすくなり、血栓が生じやすくなります。これらは、心筋梗塞や脳梗塞の引き金になります。
一方、血流が遅くなって滞ったときに生じやすいのが、足の血管が詰まって壊死することもある深部静脈血栓症やエコノミークラス症候群など静脈血栓症です。ふくらはぎは、血液を心臓へ押し戻すポンプの役割を果たしており、「第2の心臓」とも呼ばれます。ベッド上で長時間、安静にしていたり、膝を曲げた状態で狭いところに座っていたりすると、ふくらはぎのポンプ機能が働かないため血流が滞り、静脈の血栓症を起こしやすくなるのです。
静脈血栓症を特に発症しやすいのは、妊娠中と産後の女性、糖尿病やがんの患者さん、ふくらはぎの筋力が低下した高齢者、肥満の人、精神的なストレ スが強いときなどです。

生活習慣病の改善有酸素運動の継続が重要

動脈血栓症も静脈血栓症も、突然発症することが多いのですが、ここで強調したいのは、血栓症は予防が可能だということです。
動脈硬化の進行を防ぐには、脂質異常症、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームといった生活習慣病の改善が重要です。脂質異常症の人は、動 物性の脂肪や鶏卵、魚卵を食べる機会を減らし、バターや生クリームを多く使った洋菓子を控えるとよいでしょう。肥満の人は、間食や暴飲暴食を控え、体重を減らしましょう。動脈硬化が怖いのは、血管の中が狭くなったり、血液の成分が血栓を生じやすい状態に変化したりしていても、自覚症状がないことです。脂質異常症やメタボリックシンドロームなどの人は、首の動脈の状態をみる頸動脈超音波(エコー)検査「臨床検査かわら版」参照)で動脈硬化の進行度を確認し、適切な治療を受けましょう。
もう1つ、動脈血栓症を防ぐために大切なのが、心房細動などの不整脈を治療することです。心房細動は、心房がけいれんを起こした状態です。けい れんを起こして心房がきちんと収縮しなくなると心房内の血流が悪くなって血栓が生じ、それが脳に流れついて血管を詰まらせ、心原性脳梗塞(脳塞栓症)を引き起こします。心房細動によって生じる血栓は大きいため、心原性脳梗塞は後遺症が残りやすい傾向があります。自分で脈を測ってみて、脈が乱れていたり突然速くなったりするなどの不整脈がある場合は、かかりつけ医に相談してください。
血栓症は突然起こることが多いものの、脳梗塞では、一過性脳虚血発作(TIA)が前兆になることがあります。TIAは、一時的に脳の血流が悪くなって、「片側の手足や顔に麻痺やしびれ、感覚の鈍化がある」「ろれつが回らない」「人の言うことが理解できない」「視野が欠ける」などの症状が出る現象です。このような症状が出たら、救急車を呼ぶか、すぐに脳神経外科や神経内科(脳神経内科)を受診しましょう。
さらに、動脈血栓症と静脈血栓症の予防になるのが、ウオーキング、ジョギング、自転車こぎ、水泳などの有酸素運動です。定期的に有酸素運動を行うと脂質異常症や糖尿病などが改善されるばかりか、血液を固まりやすく溶かしにくくしている物質の分泌が減り、血栓症になるリスクが軽減する効果も 期待できます。新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行時期であっても、人の少ない時間帯と場所を選んで、1日30分週4回以上は有酸素運動を続けましょう。
静脈血栓症の予防には、足を動かす体操が有効です。飛行機や車での移動、仕事で長期間座り続けなければならないとき、病気やけがでベッドに横に なっていなければならないときなどには、「エコノミークラス症候群の予防体操」を繰り返し行うことが大切です(下図)。

薬をしっかり服用しヒートショック予防も

血液がドロドロになるのを防ぐためには、真夏はもちろん、寒い冬でもこまめに水分補給をして、脱水を防ぎましょう。寒い時期には、動脈血栓症も静脈血栓症も増加します。寒いと体を動かす機会が減ることなどが影響していると考えられますが、動脈血栓症が増えるのは、冬は急激な温度変化によって血圧が乱高下し「ヒートショック」と呼ばれる現象が起きやすいのが一因です。特にヒートショックを起こしやすいのが、体が露出して寒さを感じや すいトイレ、脱衣所、浴室です。トイレ、脱衣所、浴室にも暖房を設置するなど、急激な温度変化を防ぎましょう。
脂質異常症、糖尿病、高血圧などの薬、血液がドロドロになるのを防ぐ抗凝固薬や抗血小板薬を服用している人は、薬をしっかり服用することも大切 です。血栓症は命を奪うこともあり、突然、人生を一変させてしまう怖い病気です。処方されている薬をしっかり服用しつつ、運動、食事の見直しなど で生活習慣を改善し、血栓症の予防に努めましょう。

ライター 福島 安紀

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