ワクチンや薬の内服でも 起こる『アナフィラキシー』

ワクチンや薬の内服でも 起こる『アナフィラキシー』

新型コロナウイルスのワクチン接種の副反応の1つとして、「アナフィラキシー」という言葉をよく聞くようになりました。そもそもアナフィラキシーとはどのような症状で、予防はできるのでしょうか。また、ワクチン以外では、どのような原因で起こるのでしょうか。アナフィラキシーが起こるメカニズム、原因、症状、診断、起きたときの対処法と治療法について、解説します。

監修

獨協医科大学埼玉医療センター 呼吸器・アレルギー内科 准教授

平田 博国 先生 (ひらた・ひろくに)

1994 年、獨協医科大学医学部卒業。医学博士。
獨協医科大学内科学(呼吸器・アレルギー)講師、同大埼玉医療センター呼吸器・アレルギー内科講師などを経て、2016 年7 月より現職。
2020年より、東京医科大学八王子医療センター呼吸器内科兼任准教授(非常勤)も兼任。
「アナフィラキシーガイドライン(2014 年 第1 版)」作成委員。
現在、日本アレルギー学会Anaphylaxis対策特別委員会委員、「アレルゲン免疫療法の手引き」改訂版作成ワーキンググループ(WG)委員を務める。

免疫機構の誤作動による全身性のアレルギー反応

アナフィラキシーは、アレルゲン(アレルギーの原因物質)となるたんぱく質が、体の中に侵入したことによって、複数の臓器で全身性のアレルギー症状が急激に引き起こされ、命にかかわることもある過敏反応です。皮膚やのどなどのかゆみ、赤い腫れ、じんましん、動悸、息苦しさ、腹痛、嘔吐、頭痛、めまいなど、全身に症状が出現します。血圧低下や、呼びかけに反応しないなどの意識障害を伴う場合には、「アナフィラキシー・ショック」と呼び、 対応が遅れると命が脅かされることがあります。
アナフィラキシーは、花粉症、喘息、アレルギー性鼻炎などと同じアレルギー反応の一種で、本来は体を守るはずの免疫機構の誤作動から起こります。 私たちの体には、ウイルスや細菌などが侵入してきたときに「抗体」をつくる免疫機構が備わっています。抗体がつくられると、次に同じ病原体が入っ てきたときに免疫細胞が攻撃を開始し、体の外へ排除します。
ところが、免疫機構の誤作動が起こると、食べ物や花粉など、体に害を与えない物質にも過剰に反応して、アレルギー症状を引き起こします。アレル ギーのある患者さんの体の中では、アレルゲンとなる物質が体の中に入ると、それを攻撃するために「Ig E(アイジーイー)抗体」と呼ばれるたんぱく質がつくられます。
Ig E抗体は、皮膚や粘膜に多く存在するマスト細胞(肥満細胞)に張り巡らされています。そして、再びアレルゲンに触れたりアレルゲンが体内に 入ったりしたときに、Ig E抗体がアレルゲンに結合すると、アレルギー反応を引き起こすヒスタミンなどの化学伝達物質がマスト細胞から放出され、アレルギー症状を引き起こします(下図)。このうち、全身の症状が急激に引き起こされる重篤なアレルギー反応がアナフィラキシーです。
じんましんや咳などが出るのは、血管や体内の水分を一気に放出して異物を体外に出そうとするためで、ヒスタミンなどの働きによるものです。
腹痛、下痢、嘔吐などの消化器症状は消化管がむくむことで、のどがぜーぜー鳴る喘鳴や呼吸困難は気管がむくむことで起こります。
ショック状態になるのは、血管の中の水分を一気に血管の外へ放出しようとして脱水症状になり、血圧が急激に低下するからです。

食物、昆虫、医薬品が3大アレルゲン

アナフィラキシーを起こしやすいアレルゲンには、主に食物、昆虫、医薬品があります(下表)。
食物アレルギーの患者さんの約8割は子どもです。子どもの場合は、鶏卵、牛乳、小麦が、大人の場合は小麦、甲殻類、果物がアレルゲンとなることが 多いのが特徴です。
また、アレルゲンとなる食物を食べただけでは何の症状も出ないのに、直後に運動することによって誘発される、「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」もあります。運動で誘発されるアナフィラキシーを起こしやすいのは、特に小麦、甲殻類です。
昆虫では、スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチなどに刺されたときに、アナフィラキシーを起こすことがあります。食物によるアナフィラキシーは、 食後30分以上経ってから起こることが多いのに対し、ハチ毒によるアナフィラキシーは、刺された直後5〜10分以内に起こるため注意が必要です。
そして、最近増えているのが、医薬品によるアナフィラキシーです。長年使っていた薬で突然アナフィラキシーを起こすこともありますし、初めて用 いた薬で起こることもあります。アナフィラキシーを起こしやすい医薬品には、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系など)やニューキノロン系などの抗菌薬(抗生物質)、解熱鎮痛薬、関節リウマチなどの治療に使う生物学的製剤などがあります。さらに、まれではありますが抗がん剤、アレルゲ ン免疫療法でも発症します。CT検査やMRI検査などの際に各臓器の血管の中を透視するために用いる造影剤で発症する患者さんもいます。解熱鎮痛 薬や市販の風邪薬などでも服用後に運動をしたことによって、運動誘発アナフィラキシーが起こることがあります。
新型コロナワクチンの接種後に起こることがあるアナフィラキシーは、ワクチンに添加されているポリエチレングリコールという化学物質が原因だと 考えられています。男性より女性のほうが、新型コロナワクチンによるアナフィラキシーを起こす頻度が高いのは、ポリエチレングリコールが一部の化粧品に含まれていることと関連している可能性があります。
ただ、新型コロナワクチン接種会場では、アナフィラキシーに対応する体制を整えています。接種後にアナフィラキシーを起こしたとしても、すぐに 治療をすれば大事に至ることはありません。過去に薬や予防注射などでアナフィラキシーを起こしたことがあるなど心配な人は、より迅速に緊急対応が できる医療機関で接種するようにするとよいでしょう。

一刻も早くアドレナリン筋肉注射を

アナフィラキシーの恐れがあるのは、皮膚の赤みやかゆみ、じんましんなどの皮膚症状、のどのかゆみなどの粘膜症状と一緒に、腹痛、吐き気などの消 化器症状、強い咳こみが続く、呼吸するときぜーぜーする、声のかすれ、息がしにくいといった呼吸器症状が出たときです(下表)。自宅や外出先で、こ のような複数の症状や、顔色が悪い、意識が薄れるなどの症状がみらたら、すぐに救急車を呼びましょう。周囲の人がアナフィラキシーを起こしたときには、あおむけに寝かせ、意識があるか、呼吸をしているか確認しましょう。呼吸が止まっているようなら胸骨圧迫などの心肺蘇生をしてください。
ハチ毒や医薬品ではアナフィラキシー・ショックにいたるまでの時間が短いため、アナフィラキシーを疑う症状がみられたら、直ちに、アドレナリン 筋肉注射を打つことが重要です。一方、食物では、ハチ毒や医薬品に比べると、アナフィラキシー・ショックにいたるまでの時間がやや長い傾向があります。それでも、アナフィラキシーを疑う症状が急速に出現、または増悪したり、呼吸器症状などがみられたりしたら、やはり注射を打つ必要があります。

アレルゲンを特定し摂取や接触を避ける

ところで、アナフィラキシーの予防はできるのでしょうか。
だれでも突然起こすことがあるので、完全な予防は難しいのですが、アナフィラキシーの再発を防ぐには、原因となったアレルゲンを特定し、摂取や接触を避けることが大切です。食物やハチ毒などでアナフィラキシーを起こしたことがある人や、起こすリスクの高い人は、アドレナリン自己注射薬を携 帯し、アレルゲンが体内に入ったときにすぐに注射をすれば重篤な症状を抑えられます。食物アレルギーの人に対しては、外食などのときに間違えて食 べてしまったときに服用する頓服薬が処方されることもあります。
食物アレルギーの場合、アレルゲンの特定が難しいため、どういうものを食べたときにどのような症状が起こったのか、問診で医師に詳しく伝えるこ とが大切です。アレルゲンは、血液検査だけではなく、皮膚に抗原(アレルゲン)エキスを滴下して反応をみる皮膚テストなどによって特定します。アレルゲンの特定と適切な治療のためには日本アレルギー学会認定の専門医の診断を受けることが重要になります。
ハチ毒によるアナフィラキシーは、スズメバチやアシナガバチに2回目以降に刺されたときに起こることが多いため、1回刺されたことがあり、短期 間で再び刺される可能性のある人は、アレルギー専門医に相談してください。また、スズメバチは黒いものを攻撃する性質があります。ハチの活動期である8〜10月に山や森に入るときには、長袖長ズボンで肌の露出を避け、白っぽい帽子や衣服を身に着けるようにしましょう。
医薬品でアレルギー症状やアナフィラキシーを起こしたことのある人は、初めての医療機関にかかるときや薬を変えるとき、予防接種を受けるときに は、必ずその薬の名前を医師に伝えてください。関係がなさそうな病気でも、似た成分の薬を使う場合があります。問診票に記入するだけではなく、医師に直接薬品名を伝えることが大切です。

※日本アレルギー学会専門医・指導医一覧
https://www.jsaweb.jp/modules/specialist/index.php?content_id=6


ライター 福島 安紀

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