自分に合った対処法を知ろう『めまい』

自分に合った対処法を知ろう『めまい』

 めまいは日常的によくみられる症状の1つです。しかし、突然めまいが起こるとどうしてよいのかわからず、悪い病気ではないかと不安になる人も多いのではないでしょうか。一番多いのは、それほど心配しなくてもよい 良性発作性頭位めまい症という病気ですが、めまいのタイプや原因は人によって違い、思いもしない病気が隠れていることもあります。自分のめまいのタイプを知り、対処法や日常生活の注意点、予防法を知っておきましょう。

監修

帝京大学医学部附属溝口病院 耳鼻咽喉科 客員教授

室伏 利久 先生 (むろふし・としひさ)

1985 年、東京大学医学部医学科卒業。シドニー大学留学、東京大学医学部耳鼻咽喉科講師、東京逓信病院耳鼻咽喉科部長を経て、帝京大学医学部附属溝口病院耳鼻咽喉科教授。2023 年より現職。年間1000 人以上の患者を診療するめまい治療のエキスパート。2012 年、Hallpike-Nylen Prize 受賞。耳鼻咽喉科専門医、日本めまい平衡医学会理事・専門会員、日本耳科学会代議員。著書に『加齢とめまい・平衡障害』(新興医学出版社)、『めまいの診かた、治しかた』(中外医学社)など。

原因は耳か脳、 バランス維持機能の異常

 私たちの体には体の平衡を保つための仕組みがありますが、その機能に異常が生じてバランスが崩れると、めまいが起こります。このバランスを維持する機能を主に司っているのが耳と脳です。めまいを引き起こす病気の多くは耳の病気であり、次に多いのが脳の病気です。
 一口にめまいといっても人によって感じ方や症状はさまざまで、大きく分けると3つのタイプがあります。1つ目はぐるぐる目が回るような回転性のめまい、2つ目は体がふわふわと浮 かんでいるような感覚の浮動性のめまい、そして3つ目は、クラッとして気 が遠くなる立ちくらみなどの失神性のめまいです。
 回転性のめまいの多くは耳の病気によるものが多いのですが、原因が特定しにくい場合もあり、まれに脳出血、脳梗塞などの脳の病気で起こることがあります。
 浮動性のめまいは、体や心のさまざまな不調が原因だとされており、過労、ストレス、睡眠不足、うつなどが 関係しているといわれていますが、体のバランスを保つ内耳の異常で起こることもあります。
 失神性のめまいは、急に立ち上がったときなどの血圧の変化に脳の血流が追いつかず、一時的な血流不足から起こることが多いといわれています。高血圧の薬を飲んでいる場合に、血圧が下がりすぎてふらつくこともあります。

頭を動かすと起こる 良性発作性頭位めまい症

 最も多くみられる良性発作性頭位めまい症は、病名にもあるように頭の位置(頭位)を動かしたことをきっかけにめまいが起こる病気です。ベッドから起き上がろうとしたとき、目薬をさそうと上を向いたとき、料理をしようと下を向いたときなど、めまいを起こす頭の位置は人によって違います。
 めまいは、数秒から数十秒、多くは1分以内で収まりますが、頭の位置を変えるたびにめまい発作を繰り返すのが特徴です。回転性の激しいめまいが多く、バランス感覚が失われてふらついたり、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。ただし、めまい以外の症状が一緒に起こることはありません。
 良性発作性頭位めまい症は、内耳にある耳石という炭酸カルシウムの結晶が、剥がれて耳の中の別の場所(三半規管)に入り込み、頭の位置が変わったときに揺れ動き、その刺激によって起こると考えられています(下図)。耳石が剝がれやすくなる要因は、①加齢、②女性ホルモンのバランス異常(カルシウムの代謝異常)、③事故やスポーツなどによる頭部外傷などです。
 そのため、良性発作性頭位めまい症になるのは圧倒的に女性が多く、特に60歳以上の閉経後の女性にみられます。閉経すると女性ホルモンの分泌が低下してカルシウムの代謝に影響し、耳石が剥がれやすくなるためと考えられています。骨粗しょう症の人は特に発症しやすく、発症しなくても、中高年の人は耳石が剥がれてたまっている可能性があります。
 1つ1つの耳石はとても小さいため、多少剝がれ落ちて三半規管に入ったとしてもめまいは起こりません。しかし、ある程度の量の耳石が剥がれ落ちると大きな塊となって神経を刺激し、めまいを引き起こすと考えられています。そのため、手術後に長期間ベッドで寝ている人、編み物や囲碁などを趣味としている人など、長時間頭を動かさない生活習慣がある人も、良性発作性頭位めまい症を起こしやすいことがわかっています。

難聴を伴うメニエール病 脳の病気は即受診

 次に多いのが、ある日突然めまいが起こるメニエール病です。メニエール病では、回転性のめまいが数分から数時間続き、何度も繰り返します。めまいに加えて、耳鳴り、難聴、耳がふさがったような閉塞感があるのが特徴です。低音が聞きにくくなりますが、初期には聴力の低下に気づかないこともあります。
 メニエール病は、耳の内耳にリンパ液が過剰にたまって水ぶくれ状態になり、バランス感覚が乱れることで、めまいが起こる病気です。音の感覚も低下するため難聴になり、耳鳴りが起こることもあります。原因はよくわかっていませんが、寝不足になったり、心身にストレスがかかったりすると、体の水分を調節するホルモンが異常を来すためだと考えられています。メニエール病は、中高年で責任感が強い几帳面な人に多く、近年目立つのは介護をしている中高年の女性です。
 脳出血や脳梗塞が疑われる危険なめまいもあります。めまいに加えて、手足や顔にしびれがある、麻痺がある、ろれつが回らない、声がかすれる、物が二重に見える、激しい頭痛がある、立てない、歩けないといった症状のうち1つでも当てはまるときは、迷わずに救急車を呼びましょう。
 脳の病気が原因の危険なめまいは、治療が遅れると大きな障害が残り、命にかかわることもあります。いったんは症状が治まっても、大きな病気の兆しかもしれません。できるだけ早く、できればその日のうちに脳神経外科あるいは脳神経内科を受診してください。

良性発作性頭位めまい症 8割が改善、耳石置換法

 良性発作性頭位めまい症やメニエール病が疑われたら、耳鼻科やめまい外来を受診しましょう。
 病院では、問診、聴力検査、頭位・頭位変換眼振検査、足踏み検査などで総合的に診断します。
 良性発作性頭位めまい症と診断されたら、まず本来と違う場所に入り込んだ耳石を元の位置に戻す耳石置換法という治療を行います。患者さんの頭を傾けて目の動きをとらえ、耳石が三半規管のどこに入っているのかを想定しながら元の位置に戻るように頭を動かしていきます。耳石置換法でおよそ8割の人が改善します。耳石置換法は専門の医師が診断して行うものなので、患者さんが自己判断で行うことはやめてください。そのほか、症状に合わせて、吐き気止め、睡眠導入剤、抗不安薬などが処方されます。

対処法はいろいろ まずは受診して診断を

 良性発作性頭位めまい症の発作が再発したときは、横に寝るのではなくソファなどのリラックスできる椅子に腰かけて、できるだけ頭を立てておきましょう。重力に対する頭の位置の変化が少ないと刺激が起きにくいので、めまいは起こりにくくなります。また、毎日行うことで治療と予防に役立つ体操もあります(左コラム)。再発防止のために枕を少し高くして寝ると、耳石が三半規管に入りにくくなります。
 メニエール病では、ストレスのない規則正しい生活と、水分を多めにとることを心がけましょう。内耳に水がたまっているといわれると、水をあまり飲まなくなる人がいますが、逆効果です。水が体の中に十分あれば、脳は水を蓄積する必要はないと判断し、耳にたまっている水が出やすくなります。
 めまいが起こると動きたくなくなりますし、また動いてはいけないと思う人もいるかもしれません。しかし、脳出血や脳梗塞の急性期を除けば、めまいにとっては動くほうがいいのです。歩いていないと体のバランスが悪くなり、足腰の筋肉も落ちてしまいます。少々ふらつきがあっても、無理をしない範囲で散歩をしたり体操をしたりして体を動かしましょう。
 めまいを起こすメカニズムは複雑で、めまいという症状が現れる病気も数多くあります。まずは専門の医療機関を受診して診断を受け、自分に合った治療法をみつけることが大事です。

ライター 高須 生恵

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