特徴的な症状に注目し理解を『レビー小体型認知症』

特徴的な症状に注目し理解を『レビー小体型認知症』

 レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症、脳卒中に伴う血管性認知症とともに3大認知症に挙げられる病気です。「実際にはないものが見える」「しっかりしているときと、ぼんやりしているときの差が激しい」「睡眠中に大声で寝言を言う、暴れる」などの特徴から、精神疾患やパーキンソン病と誤 診されることも少なくありません。気になる体調の変化があれば認知症に詳しい医師を早めに訪ね、しっかり検査をして適切な治療とケアを受けましょう。

監修

金沢大学医薬保健研究域医学系 脳神経内科学 教授

小野 賢二郎 先生 (おの・けんじろう)

1997 年、昭和大学医学部卒業。2002 年、金沢大学大学院医学系研究科修了。金沢西病院脳神経センター神経内科医長、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)神経学教室博士研究員、昭和大学医学部教授などを経て、2021年10 月から現職。金沢大学附属病院脳神経内科診療科長も務める。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本神経学会神経内科専門医・指導医、日本認知症学会認知症専門医・指導医。レビー小体型認知症患者の幻視体験を描いた『麒麟模様の馬を見た』(三橋昭著、メディア・ケア プラス)を監修。

脳にたんぱく質の塊蓄積 初期には便秘や嗅覚低下

 レビー小体型認知症は、脳の表面の大脳皮質にレビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質の塊が蓄積することで発症します。このレビー小体が脳の神経細胞を破壊し、さまざまな症状を引き起こします。レビー小体の主な構成成分は、もともと人体にあるα(アルファ)シヌクレインというたんぱく質ですが、そのたんぱく質が異常に凝集して塊になると悪さをするのです。レビー小体型認知症は1976年、日本の小阪憲司医師(横浜市立大学名誉教授、故人)が初めて報告しました。アミロイドβ(ベータ)やタウという別のたんぱく質が蓄積して脳が萎縮するアルツハイマー型認知症とは、下表のような違いがあります。
 初期には便秘、嗅覚の低下、うつ、起立性低血圧(立ちくらみ)、発汗過多などが現れることが多く、やがて理解力、注意力、判断力が衰える認知機能障害が徐々に進みます。アルツハイマー型に比べて記憶力は比較的保たれること、認知機能がよいときと悪いときの波がある(認知機能の変動)ことが大きな特徴です。ふだんは意識がはっきりしているのに、反応が鈍くなりぼんやりする、会話の途中で急に眠そうになる、服を着たりトイレに行ったりといった身の回りのことができなくなるなど、別人のような落差に家族は驚きます。変動周期は数分のこともあれば数時間のこともあります。このような認知機能の変動に加え、幻視、パーキンソン症状(パーキソニズム)、レム睡眠行動障害の4つをレビー小体型認知症の中核的特徴と言います(下図)。

4つの中核的特徴 うつや自律神経の異常も

 幻視とは、実際にはそこにいない人や動物、虫、あるいは小人などが、ぼんやりではなく、ありありと見える症状です。ハンガーにかけた洋服が人の姿に見えたりする錯視(見間違い)も起こります。
 レム睡眠とは浅い眠りのことです。脳は活動しているので夢をよく見ますが、筋肉は弛緩しているため、夢に見たことを行動に移すことはありません。しかしこの病気になると、筋肉が緊張したままなので夢が行動につながり、大声で寝言を言う、叫ぶ、手足をバタバタと動かす、起き上がって歩き出すといった行動障害が現れます。
 パーキンソン症状は、①筋肉がこわばる、②静止時に手足が震える、③体のバランスを崩したときに立て直せない、④動作が緩慢になるなどが特徴で、その結果、小刻み歩行やすり足になったり、1歩目が踏み出しにくくなったりして、転倒のリスクも高まります。
 またレビー小体型認知症では、うつ、意欲低下、不安、妄想、睡眠障害といった精神症状が出やすくなります。これらは高齢者に多い老年期うつ病の症状と重なるため、誤診されることもあるので要注意です。さらにレビー小体は、脳だけでなく全身の末梢神経にもたまるので、便秘や立ちくらみ、発汗過多などさまざまな自律神経症状を伴います。薬に敏感に反応する(薬物過敏性)のもこの認知症の特徴です。
 レビー小体型認知症は65歳以上の人に多くみられますが、30~50代で発症することもあります。アルツハイマー型は女性に多いのに対し、レビー小体型は男性にやや多い傾向があります。

画像での診断がカギ 薬物治療で症状軽減

 レビー小体型認知症の診断は、仕事や日常生活に支障を来すような認知機能変動をはじめとした、4つの中核的特徴の有無、画像検査などの結果を踏まえて行われます。初期には記憶障害が目立たないため、通常の認知機能テストだけでは見つけにくく、ほかの認知症や精神疾患、脳の病気との鑑別・早期発見のために、下表の4種類の画像検査が非常に重要になります。
 診断が難しい病気なので、疑われるような症状があった場合は認知症専門医や脳神経内科専門医の診察を受けることが望ましいでしょう。
 レビー小体型認知症の根本的な治療法はまだ見つかっていません。認知症は徐々に進行しますが、対症療法(主に薬物治療)や周囲の人のケアによって、症状を抑えたりコントロールしたりすることで、できるだけ穏やかな日常生活を維持することを目指します。
 認知機能の変動、幻視、妄想、レム睡眠行動障害などの症状に対しては、脳内の神経伝達物質の減少を防ぐコリンエステラーゼ阻害薬が第1選択となります。漢方薬の抑肝散よくかんさんも、これらの症状に有効とされています。
 パーキンソン症状を抑えるには、L – ドパなどの抗パーキンソン病薬が用いられます。特に歩行障害が目立つ場合には、やはり抗パーキンソン病薬で2018年に認可されたゾニサミドが使われます。抗パーキンソン病薬は薬物過敏性の影響で幻視や妄想が悪化する恐れもあるため、投薬は慎重に行う必要があります。

強く否定せずに見守る 生活環境の整備も

 日常生活のケアでは、認知機能の変動への理解が不可欠です。調子の悪いときは機嫌が悪くなったり、ふさぎ込んだりしがちですが、これは本人の意思ではなく認知症の影響です。そんなときは無理に働きかけず、そっと見守ってあげることも大切です。
 幻視については、「またおかしなことを……」などと頭から否定せず、本人の驚きや恐怖などの感情を受け止め、理解しようとする姿勢が大事です。そのうえで、「あそこに男の人が立って、こっちを見ている」というような場合には、一緒にその場所まで近づき、手で触る動作をしてだれもいないことを 確認すれば、患者さんも安心します。
 幻視は夜間や薄暗い場所で起こりやすいとされています。夕方になったら早めに照明をつけ、なるべく部屋の中に影ができないようにします。また、ハンガーにかけた洋服、肖像画、電気コードなど、錯視のきっかけになりやすいものを減らすことも効果的です。
 レム睡眠行動障害では、無理に目を覚まさせると現実と夢を混同して、さらに興奮してしまうことがあります。介護する人に暴力を振るうこともあるので、落ち着くまで距離をとって見守ります。けが防止のためにベッドから敷布団に変える、寝床の周りに物を置かない、介護者は同じ部屋で寝ないといった工夫をしましょう。
 パーキンソン症状である歩行障害が現れると、小さな段差や床に置いた荷物につまずきやすくなります。住宅内の段差のある場所には、注意をうながす目印をつけたり手すりを設けたりす れば、リスクを軽減できます。方向転換をするときにも転びやすいので、「急に後ろから声をかけない」という配慮も求められます。

患者と家族は「鏡の関係」  社会資源の積極活用を

 認知症の人は不安や孤独感、「もっとできるはず」という焦りなどを強く持っています。だからこそ周りの人の振る舞いや言葉に影響されます。「認知症だから」と本人の言動を頭から否定したり、適当な声かけであしらったりすると、患者さんの尊厳は傷つきます。誠実に自然体で接し、努力には敬意を払いましょう。できないことよりできることに目を向け、褒めるのではなくともに喜び、本人の自己肯定感を高めることが大切です。
 認知症においては、患者さんと家族は「鏡の関係」にあります。家族がイライラして粗野な接し方をすれば、患者さんの不安や混乱は深まり、症状も悪化します。逆に家族が精神的に落ち着いて、穏やかに接することができれば、患者さんも安心します。
 レビー小体型認知症では、うつや意欲の低下によって引きこもり状態になりがちです。そんな場合はデイサービス(通所介護)デイケア(通所リハビリ)、認知症カフェといった社会資源を積極的に活用しましょう。家族以外の人との交流、社会とのかかわりを持つことによって、心と体が刺激され(環境刺激という)、生活への意欲がわき、筋力の低下を防げます。また家族にとっても介護の負担を軽減し、リフレッシュする機会になります。
 レビー小体型認知症は早期に治療を始めるほど効果が大きく、介護も楽になります。過去には正確な診断まで数年かかり手遅れになるケースがありましたが、診断法や治療法の研究は進んでいます。不安があれば診察を受けてみるとよいでしょう。

ライター 平野 幸治

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