知ってトクするくすりの話『生薬カンゾウ』

知ってトクするくすりの話『生薬カンゾウ』

 私たちがいつも使用しているくすりはどのように誕生したのでしょうか。また、どうやって実用化が進んだのでしょうか。このコーナーでは、くすりにまつわるさまざまなエピソードをご紹介します。

監修

明治薬科大学 名誉教授

小山 清隆 先生 (こやま・きよたか)

1979 年、明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。湧永製薬中央研究所、明治薬科大学 助教授、同教授を経て、2015年より副学長。専門は生薬学、天然物化学。

根の甘いカンゾウは 甘味料としても使われる

 今回は漢方薬に配合される頻度が高い生薬、カンゾウ(甘草)についてご紹介しましょう。
 生薬のカンゾウは、「葛根湯かっこんとう」「桂枝湯けいしとう」「小青龍湯しょうせいりゅうとう」「小建中湯しょうけんちゅうとう」など、よく知られている漢方薬の構成生薬として配合されています。日本では、マメ科のウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)、または同じマメ科のスペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)の根、およびストロン(地上近くを這って伸びる茎)をカンゾウとしています。Glycyrrhiza はギリシャ語で「甘い根」という意味です。スペインカンゾウは、西洋でもlicorice という名前で古くから生薬や食品として利用されてきました。同じカンゾウという名前がついているユリ科のヤブカンゾウやノカンゾウは、生薬のカンゾウとは別の植物です。
 生薬のカンゾウ中に含まれるグリチルリチン(グリチルリチン酸とも呼ぶ)はショ糖の約150倍の甘味があるため、甘味料として食品にも用いられています。
 漢方においても、薬効を期待して用いられるだけでなく、苦い薬の味を調えて飲みやすくする目的もあるようです。多くの漢方薬にカンゾウが配合されているのは、このためかもしれません。
 一般的に漢方薬は、複数の生薬から構成されるものがほとんどですが、「甘草湯かんぞうとう」はカンゾウ1種類で構成されており、のどの痛みを和らげるとともに、激しい咳きこみを緩和する効果があります。
 また、シャクヤクとカンゾウという2つの生薬から構成される「芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとう」はカンゾウの効能と、鎮痛や抗炎症に効くシャクヤクの効能から、急激に起こる筋肉のけいれんを伴う疼痛などに用いられています。さらに西洋薬でも、カンゾウの成分であるグリチルリチンを含有するグリチルリチン・グリシン・DL–メチオ ニン配合剤錠(肝臓疾患用剤・アレルギー用薬)があります。

漢方薬の原料生薬は ほとんどが輸入品

 このように漢方薬に多く配合されているカンゾウですが、問題点が2つあります。
 1つは、大量に摂取すると副作用として偽アルドステロン症を引き起こす危険性があることです。偽アルドステロン症になると、血圧を上昇させるホルモン(アルドステロン)が増加していないにもかかわらず、高血圧、むくみ、低カリウムなどの症状が現れます。
 もう1つの問題は、原料の入手に関してです。日本漢方生薬製剤協会生薬委員会が日漢協加盟の全 65社を対象に行ったアンケートをまとめた報告によると、2020年度(2020年4月~2021年3月)の我が国のカンゾウ総使用量は2,019,020kg、そのうち日本の生産量はわずか122kg、1,762,954kgが中国からの輸入、255,944kgがその他の国からの輸入となっています。実はカンゾウばかりでなく、漢方薬の原料生薬のほとんどが中国からの輸入に頼っているのが現状です。漢方薬の将来を考えると、原料となる生薬の安定的な確保などの対策を早急に立てなければならないのではないでしょうか。

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