服薬と生活改善で再発を予防『狭心症と心筋梗塞』

服薬と生活改善で再発を予防『狭心症と心筋梗塞』

 狭心症と心筋梗塞は、心臓を取り巻く冠動脈が狭くなって心臓にダメージを与える病気です。 胸の痛みや息苦しさが主な症状ですが、突然死の大きな原因でもあるので、放置してはなりません。 重症になるとカテーテル治療やバイパス手術が必要になりますが、服薬と生活改善によっても大きな効果が得られることがわかってきました。 運動や食事をしっかり見直して再発のリスクを減らし、かけがえのない心臓を守り抜きましょう。

監修

帝京大学 医学部 内科学講座 循環器内科 教授

上妻 謙 先生 (こうづま・けん)

1991 年、東北大学医学部卒業。三井記念病院循環器内科、オランダのエラスムス大学トラックスセンター留学、帝京大学医学部内科講師、准教授を経て2013 年から現職。帝京大学医学部附属病院循環器センター長、心臓リハビリテーションセンター長、睡眠呼吸障害センター長を兼務。日本内科学会評議員・総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本心血管インターベンション治療学会理事長・心血管カテーテル治療専門医。

15分以上続く胸の痛み ためらわずに救急車を

 私たちの心臓は酸素と栄養素を含んだ血液を全身へと送るポンプの働きをしていますが、当然ながら心臓自身にも血液が必要です。その血液は、心臓の表面に張り巡らされた冠動脈(下図)を介して心筋に供給されます。
 この冠動脈の血流不足により起こる狭心症や心筋梗塞などの病気を、まとめて虚血性心疾患と呼びます。狭心症は、冠動脈が狭くなって血流が減り、心筋に供給される酸素や栄養素が不足する病気です。冠動脈が完全に詰まり、その先の心筋が壊死してしまうのが心筋梗塞です。心筋梗塞の再発率は高く、1回も心筋梗塞を起こしていない人の実に10倍以上にものぼります。
 狭心症、心筋梗塞の主な症状は胸の痛みですが、患者さんの訴えはさまざまです。締め付けられるような痛みという人もいれば、圧迫感がある、重苦しいと表現する人もいます。背中、肩、腕、のど、あご、奥歯などに痛みが現れることも多く、これらを放散痛と呼びます。いずれにしても「ここが痛い」と示すのが難しく、胸からあごにかけてとか上半身全体とか、「面」として痛みが感じられるのが大きな特徴です。
 心筋梗塞では、こうした症状がより強く現れ、激しい痛みや胸苦しさのせいで冷や汗をかいたり、死の恐怖を感じたりします。通常、狭心症の発作は数分で治まりますが、強い発作が15分以上続くときは心筋梗塞が疑われます。その場合には、ためらわず救急車を呼びましょう。

動脈硬化が主な原因 痛みを感じにくい高齢者

 狭心症は、血流悪化の原因によって3タイプに大別されます(下表)。
 動脈硬化性狭心症は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満)の合併症で、冠動脈の壁にコレステロールの塊(プラーク)が生じ、内腔が狭まった状態です。
 動脈硬化性狭心症のうち、プラークが膨らみ破裂しやすくなっていて、心筋梗塞寸前の状態にあるものを不安定狭心症、プラークは安定していて、体を動かしたときだけ発作が起こるものを安定労作性狭心症と呼びます。
 動脈硬化性狭心症に次いで多い冠れん縮性狭心症では冠動脈が異常に収縮して血流不足に陥ります。喫煙者、飲酒量の多い人、ストレスの強い人に発症しやすく、自律神経の乱れや初期の動脈硬化が影響していると考えられています。
 一方、胸苦しさなどの症状はあるのに冠動脈には異常がなく、末端の毛細血管に何らかの問題が起きているのが微小血管狭心症です。従来、閉経前後の女性に多いとされてきましたが、若い女性や男性の診断例も増えています。
 狭心症や心筋梗塞を疑う症状があれば、循環器内科を受診しましょう。
 受診すると、まず運動時の心臓の状態を調べる運動負荷心電図検査心エコー(心臓超音波)検査などが行われます。CT検査心臓核医学検査(微量の放射線を出す物質を注射して撮影する検査)では、狭窄の状態や血流不足の範囲などがわかります。
 不安定狭心症や心筋梗塞が疑われるなら、太もものつけ根や上腕、手首の動脈から管を挿入して冠動脈まで通し、狭窄の状態や血流量を精密に診断するカテーテル検査をします。
 高齢者や糖尿病の人は神経の伝達機能が低下していて胸の痛みを感じにくくなっている場合があります。息切れ、体がだるい、食欲がないといった症状を加齢のせいと思わず、心臓病を疑って受診することは早期発見につながります。

薬剤を含んだステントで 再狭窄防止し血流を回復

 狭心症、心筋梗塞の治療の柱は薬物療法、カテーテル治療、バイパス手術です。狭窄があっても一定の血流量が保たれている安定労作性狭心症、プラークのない(非閉塞性の)冠れん縮性狭心症、微小血管狭心症では、薬物療法が中心になります。発作を鎮める薬や予防する薬、動脈硬化を改善する薬、血栓ができるのを防ぐ薬、心臓の負担を減らす薬などが使われます(下表)。冠動脈を広げて症状を抑える硝酸薬には即効性と持続性の2種類があり、即効性では舌の裏側で溶かす舌下錠と舌の裏側に噴射するスプレー剤があります。
 一刻を争う不安定狭心症や心筋梗塞(発症から12時間以内)の患者さん、または薬物療法で症状が改善しない患者さんにはカテーテル治療が選択されます。太もものつけ根や上腕、手首からカテーテルを挿入して狭窄部まで送り込み、バルーン(風船)やステント(金属製の網)を用いて血管を広げる治療法です。現在、主流となっているのは薬剤溶出性ステントです。かつてのステント治療では炎症反応が起こって血管が再び狭くなる再狭窄が問題となっていましたが、薬剤が溶け出すタイプのステントの登場で、再狭窄の発生率は数%にまで低下しています。
 狭窄が何か所もある場合や、カテーテル治療では再治療を繰り返す可能性が高い場合にはバイパス手術が検討されます。患者さん自身の胸や腹などから採取した血管を狭窄部よりも先の冠動脈につなぎ、虚血に陥っていた心筋に血液が行き渡るようにします。開胸手術となるので体への負担はカテーテル治療より大きいですが、新たな心筋梗塞の発症を高い確率で予防できます。
 その際、人工心肺装置を使わず、心臓を動かしたまま行うオフポンプ手術を採用する医療機関も増えています。この方式には、合併症である脳梗塞のリスクが減り、術後の回復が早いというメリットがあります。ただし、高度の技術を要するので、経験豊富な医療施設を選ぶとよいでしょう。

薬物療法をしっかり継続 シニアの治療選択慎重に

 狭心症や心筋梗塞は一生つきあっていかなければならない病気で、薬物療法をしっかり続けるのが基本です。薬と生活習慣の改善で治療した患者グループと、カテーテル治療を受けた患者グループとを比べた比較試験では、その後の死亡率や心筋梗塞の発症率に差がなかったという研究報告もあり、 薬物療法と生活習慣の改善がより重視されるようになってきています。特に合併症や寝たきりの危険性が高まるシニア世代に対しては、治療法を慎重に選ぶことが求められます。
 カテーテル治療やバイパス手術を受けたあとは心臓リハビリテーションが行われます。再発予防、心機能の回復、社会復帰を目標に、医師、理学療法士、管理栄養士、看護師、臨床心理士らがチームを組み、運動療法、食事療法、服薬の方法や禁煙などの生活指導、心理的サポート、職場復帰や社会復帰のサポートなど、一人ひとりに合わせた総合的プログラムが提供されます。
 専門家によるきめ細かいケアを受けることで、患者さん自身の意識が変わり生活習慣も改善するため、高い効果があることが実証されています。心臓リハビリを5か月以上続けた人の再発率は1年間で1%以下という報告もあります。心臓リハビリには健康保険が適用されます。実施している医療機関は日本心臓リハビリテーション学会のホームページで探せます。

肥満改善と禁煙が鉄則 生活習慣病を改善

 たとえ心臓リハビリを受けていなくても、運動、食事、酒やたばこなどの嗜好品を自らコントロールして生活習慣病を改善させることは不可欠です。
 心臓リハビリでは心電図などをとりながら適切な負荷のもとに運動療法を行いますが、個人で行う場合も、かかりつけ医や循環器内科医と相談しながら、無理のない範囲で実践することが大事です。有酸素運動のなかで最も手軽なのがウオーキングです。「ややきつい~楽である」と感じる程度の速さで毎日合計30分以上、少なくとも週3回を目標に歩くことが推奨されています。
 食生活では、摂取エネルギーを調整して肥満(特に動脈硬化につながりやすい内臓脂肪型肥満)を改善することが第一です。そのうえで、高血圧があれば塩分の過剰摂取を控える、脂質異常症であればn - 6系脂肪酸(リノール酸)や動物由来の飽和脂肪酸を減らし、動脈硬化のリスクを下げるとされるn– 3系脂肪酸を積極的にとるなど、それぞれの生活習慣病対策として推奨されている食事改善を心がけましょう。
 喫煙は血圧を上昇させ、血管を収縮させ、血栓をできやすくし……と、動脈硬化を悪化させる要素だらけです。男性喫煙者の心筋梗塞の発症リスクは、吸わない人の約4倍にもなります。1日1本でも虚血性心疾患のリスクを高めることがわかっており、禁煙(受動喫煙も)が鉄則です。

ライター 平野 幸治

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