新薬の登場で変わる治療、向き合ってみよう『アトピー性皮膚炎』

新薬の登場で変わる治療、向き合ってみよう『アトピー性皮膚炎』

 厚生労働省によると、国内のアトピー性皮膚炎の患者数は年々増加傾向で、現在50万人を超えています(「患者調査」2017年)。乳幼児期に発症することが多い病気ですが、成人まで持ち越す人や、いったん症状がよくなったあとに再発する人も少なくなく、患者さんや家族の生活の質や精神面に大きな影響を及ぼしています。近年、次々と新薬が登場し、治療も大きく変わろうとしています。解明が進むアトピー性皮膚炎の特徴や治療の最新事情について紹介します。

監修

九州大学大学院 医学研究院 皮膚科学分野 教授

中原 剛士 先生 (なかはら・たけし)

1999 年、九州大学医学部卒業、2002 年、九州大学大学院医学研究院博士課程、2005 年、米国スローンケタリング記念がんセンターResearch fellow、九州大学大学院医学研究院 体表感知学講座准教授、九州大学病院皮膚科診療准教授を経て2022 年より現職。日本皮膚科学会代議員、日本アレルギー学会代議員、日本研究皮膚科学会評議員、アトピー性皮膚炎治療研究会世話人、日本皮膚免疫アレルギー学会理事、日本皮膚科学会・日本アレルギー学会編『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』作成委員、日本皮膚科学会編『蕁麻疹診療ガイドライン2018』改定委員など。

年々増加する患者数 中高年でも症状がある

 アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹がよくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。以前はアトピー性皮膚炎は子どもの病気で、成長すればやがて治っていくというのが一般的な認識でした。しかしここ20年ほど、思春期になっても、成人以降も、ずっと症状が続いてしまう患者さんが増えています。幼児期のアトピー性皮膚炎が再発する人もいますが、大人になって初めて発症する人もいるのです(下図)。
 アトピー性皮膚炎は、乳幼児期から学童期に発症することが多く、一般的には次のような経過をたどります。
 発症の始めころは、多くの場合赤くジュクジュクした急性湿疹が顔や首を中心に出現します。幼稚園や小学校ぐらいになるとヒジの内側やヒザの後ろ側、首筋などに湿疹が現れて全身の乾燥が進み、ザラザラとした状態の皮膚が目立つようになります。患者さんは強いかゆみにも悩まされます。
 思春期以降も症状が続くと、新しくできた赤い湿疹と、慢性の炎症の蓄積や頻繁に掻くことによって生じた色素沈着が混在するようになります。さらに手の甲や足などの皮膚がごわごわと硬くなる苔癬化たいせんかが起こったり、痒疹ようしん結節といわれる硬いぶつぶつが出てきたりします。首や顔などに非常に強い症状が出る患者さんも、一定数存在しています。

重症度評価に患者の視点 治療は医師と二人三脚で

 アトピー性皮膚炎は、①かゆみ、②特徴的な皮膚の湿疹とその分布、③慢性的で反複的な経過という、3つの項目で診断されます。
 最近は適切な治療法の選択のために、医師や患者さん自身が症状の重さを点数で評価する「症状の評価指標」を取り入れる医療機関が増えています。患者さん自身が自分の症状や日常生活への影響をどのように捉えているのかはとても重要です。特に医師にはわからないかゆみや睡眠障害などについて、患者さんが評価することにより、医師が患者さんの症状をより深く理解できるだけでなく、両者のコミュニケーションツールにもなります(下コラム)。
 治療の目標は、肌がすべすべになってかゆみも赤みもほとんどない状態を維持することですが、それにはまず、患者さんの症状や生活背景に合わせて段階的に目標を立て、メリハリをつけて治療を進めていくことが大切です。
 アトピー性皮膚炎の治療では、①炎症、②かゆみ、③バリア機能の低下という3つの要素にアプローチします。
 まずは、ステロイド外用薬で炎症やかゆみを抑えます。ステロイドには免疫にかかわる細胞炎症を抑える働きがあります。患者さんのなかには、「ステロイドはこわい」と思い込んでいて、赤みのある部分にちょっとつけるだけで、少しよくなったらすぐにやめてし まう人がいます。しかし、それでは皮膚の内部の炎症を抑え込めません。ステロイドの外用による副作用は局所だけに見られるものがほとんどで、正しく使えば症状は急速に改善し、全身への影響はまずありません。中途半端な使用は、かえって症状を悪化させたり 長引かせたりしてしまいます。大切なのは、①適切な強さの薬を、②十分な量、③十分な範囲に、④十分な期間しっかり塗り、一気によい状態にまでもっていくことです。
 次に、皮膚の赤みや湿疹が改善してきたら、医師と患者さんが一緒に状態を確認して治療を変更します。医師の指示に従って、ステロイドの外用頻度を減らす、ほかの薬に切り替えるなど、副作用が出にくく、しかも症状を抑えて維持できるような治療に変えて いきます。
 症状が改善したあとも乾燥がある場合は、皮膚のバリア機能を維持するために保湿剤などによるスキンケアを継続していきましょう。

新薬の登場が続き 変わるアトピー治療

 2018年には、前記の治療の3つの要素をコントロールする、2つのタイプの新薬が登場しました。これまで十分な効果が得られなかった中等症から重症の患者さんや、強いかゆみの治療に効果が期待されています。
 その新薬とは、生物学的製剤と飲み薬の経口JAK阻害薬です。
 生物の生成物を利用した生物学的製剤は注射剤で2種類あり、特定の受容体にふたをして、炎症やかゆみなどを発生させないように作用するものです。
 1種類は炎症、かゆみ、バリア機能の低下のすべてにかかわるサイトカイン IL-4やIL-13をブロックするもの、もう1種類はかゆみを引き起こすIL-31をブロックしてかゆみの発生を抑えるものです。どちらもしっかり治療効果があり、副作用が少ないことがわかっていますが、前者ではたまに結膜炎になる場合があります。
 経口JAK阻害薬は、サイトカインによる刺激が細胞内に伝達されるときに必要なJAKという酵素を阻害する薬です。3種類あり、効果と副作用がある程度相関します。JAKという情報伝達経路をブロックすることで、免疫の過剰な活性化を抑えて炎症やかゆみを改善させます。
 これらの薬は、複数のサイトカインを抑えるため、ほかの治療で効果がなかった人にも効く可能性がある半面、アトピー性皮膚炎に関係のない重要なサイトカインも抑制してしまいます。当初懸念されていたよりも副作用は少ないものの、帯状疱疹、単純ヘルペスなど、重篤な感染症を発症する場合があることが報告されています。

※ サイトカイン・・・細胞から分泌される低分子のたんぱく質の総称で、炎症の重要な調節因子です。サイトカインを利用して炎症をコントロールする研究が行われています。

アトピーに向き合い 生活の質の向上を

 新しい薬が次々と登場し、治療の選択肢は広がっていますが、どの薬も高額で、患者さんにとって最適な治療法を選択するのは簡単ではありません。患者さんが適切な治療法を選択できるよう今後の検証が期待されます。
 現在、新しい薬を試したことで、十分な改善が見られ、これまで頑張って治療してきたけれど効果がうまく出なかった患者さん、治療に疲弊して継続が難しくなっている患者さん、副作用に悩まされていた患者さんなどから「この薬があって本当によかった」「かゆみから久しぶりに解放された」という声が多く聞かれます。
 仕事に就けなかった人が就職したり、学校に行けなかった人が登校するようになったりするなど、生活の質が向上している患者さんは少なくありません。さらに、新たな薬も保険承認されており、アトピー性皮膚炎の治療は日進月歩です。アトピー性皮膚炎がなかなかよくならず、治療をあきらめている患者さんは、ぜひ一度皮膚科を受診して、医師に相談してみましょう。

ライター 高須 生恵

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