知ってトクするくすりの話『大麻』
私たちがいつも使用しているくすりはどのように誕生したのでしょうか。また、どうやって実用化が進んだのでしょうか。このコーナーでは、くすりにまつわるさまざまなエピソードをご紹介します。
明治薬科大学 名誉教授
小山 清隆 先生 (こやま・きよたか)
1979 年、明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。湧永製薬中央研究所、明治薬科大学 助教授、同教授を経て、2015年より副学長。専門は生薬学、天然物化学。
大麻取締法違反で 大学生逮捕
最近、日本大学、朝日大学、東京農業大学の学生が大麻取締法違反で逮捕されたというニュースはみなさんもご存じでしょう。嗜好品としての大麻に関しては、アメリカの一部の州やカナダ、ウルグアイで摂取が合法化されていることから(ドイツも検討中)、「大麻が合法化されない日本は時代遅れ」というような意見を見聞きすることがあります。しかし、ほとんどの国は合法化されていませんので、決して時代遅れではありません。
大麻の生涯経験率は、カナダでは15歳以上で41.5%(2017年Canadian Alcohol and Drug Use Monitoring Survey)であるのに対し、日本は15~64歳で1.4%(平成29年度厚生労働科学研究「薬物使用に関する全国住民調査(2017年)」)です。アメリカもカナダと同じくらいの経験率です。
カナダやアメリカの一部の州では、大麻の製造・販売および所持を管理することにより、未成年者を大麻から守るため(カナダの法律では、18歳未満の者に大麻を販売または提供した者は懲役14年以下の罰則が科される)、あるいは犯罪者が大麻の売買で得る利益を排除するためなどの理由により、合法化に踏み切ったようです。日本では大麻取締法により生涯経験率が低いので、合法化の必要はないでしょう。
欧米では有効成分含有の治療薬が認可
そもそも大麻はクワ科のアサ(Cannabis sativa)から製造されるものです。アサはジキル博士とハイド氏のような植物で、幻覚を引き起こすといわれる有害成分のテトラヒドロカンナビノール(THC)と、難治性てんかん治療薬の有効成分であり幻覚作用はないといわれるカンナビジオール(CBD)
を含有しています。
CBDを有効成分とする薬剤は、2018年6月に米国食品医薬品局(FDA)から難治性てんかんのレノックス・ガストー症候群(LGS)とドラベ症候群(DS)に対する承認を取得しました。欧州でも2019年9月にLGSとDSに対する承認を取得し、その後、アメリカ、欧州とも結節性硬
化症(TSC)にも適応症を広げています(日本は臨床試験中で認可はされていません。日本には、DSの患者が約3000人、LGSの患者が約4300人、TSCの患者が約4000~12000人いるとされています)。
大麻には有害成分(THC)と有用成分(CBD)の両方が含まれていますが、有害成分を含むため大麻取締法で取り締まられています。一方、有用成分のCBDを有効成分とする薬剤が欧米で使用されていることから、わが国でも、臨床試験を通り販売の許可がおりれば、てんかん治療薬として患者さんの救済になるかもしれません。
最近、医薬品とは別に、CBD含有のオイルなどが市販されています。それらの製品を分析すると、THCが何%か混入しているものがあります。取り締まりの対象とされるものもあるので(厚生労働省の報告)、CBD製品を買い求める前に、厚生労働省のホームページでTHC含有の報告の有
無を調べてみることをおすすめします。