下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『遺伝子検査』

下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『遺伝子検査』

 最近、よく聞く遺伝子検査とは、どんな検査なのでしょうか?
 医学が進歩して、遺伝子を通してさまざまなことがわかるようになりました。
 今回はそんな遺伝子検査について取り上げてみましょう。

監修

国際医療福祉大学医学部 臨床検査医学 主任教授

下澤 達雄 先生(しもさわ・たつお)

2017 年より現職。専門は高血圧学、臨床検査医学、内分泌学、腎臓病学。日本高血圧学会理事、日本心血管内分泌代謝学会理事、日本クラリネット協会副理事長などを務める。
「年々、月日が経つのが早くなっています。健康のため食事や運動を工夫していますが、最近は、ケトン体の適切な産生が若返りに役立つかもと思って実験をしています」とのこと。

PCR 検査も遺伝子検査!?

 PCR検査は、コロナウイルス感染症の蔓延を機によく知られるようになりました。この検査は、ウイルスの遺伝子をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅して、ウイルスが体の中にあるかどうかを確認する検査です。広い意味での遺伝子検査といえます。感染症では、ほかにもC型肝炎ウイルスなど、いくつかのウイルスや結核菌でPCR検査が行われています。特にC型肝炎ウイルスは、抗原検査では体の中にウイルスがいるかどうかを検査できないことと、遺伝子型によって治療薬が変わることから、遺伝子検査が必須になります。細菌感染では、抗生物質の耐性菌を探すために遺伝子検査が行われています。

遺伝子から病気を予測

 遺伝子検査にはこのほかに、個人の遺伝子の変化や生まれ持った遺伝の違いを解析する検査があります。遺伝子の変化には、それが子孫まで伝わる(遺伝する)生殖細胞変異と、子孫には伝わらない(遺伝しない)体細胞変異があります。生殖細胞変異は精子や卵子から遺伝子を取り出して調べる方法のほか、血液中の白血球やリンパ球で調べる方法もあります。体細胞変異の場合は、変異が全身の細胞に起っていることはまれなので、病変部位(たとえばがん細胞)を取り出して検査をします。
 生殖細胞変異が認められた場合は、遺伝的にかかりやすい病気がわかります。その場合は、あわせて遺伝カウンセリング※ を行いましょう。遺伝カウンセリングでは、資格を持ったカウンセラーが患者さんやその家族に、遺伝についての悩みや不安に対して正確な情報提供を行います。

遺伝子情報の蓄積が医療の発展に寄与

 遺伝子検査の結果、遺伝子情報が蓄積されるとAIの判断材料となるなど、医療の発展に重要な情報となります。 また、がんの体細胞変異の情報は抗がん剤の選択に重要であるばかりでなく、予後予測にも役立ちます。そのた め多くの場合、遺伝子検査の結果は患者さんの同意のもとデータベースに登録され、さまざまな医学研究に用い られています。
 一方、生殖細胞変異については個人情報の保護がきわめて重要です。データの登録や、他人の閲覧は簡単にはできませんが、匿名化したデータを世界規模で集めたGWAS研究(Genome-Wide Association Study)によって、糖尿病になりやすい遺伝子の変化や乳がんになりやすい遺伝子の変化などが見つかっています。
 さらに最近では、遺伝子そのものの変化だけでなく、遺伝子を変化させる因子の存在についても検査ができるようになってきました。これをエピゲノム変異検査と呼びます。現在わかっている範囲では、エピゲノム変異は遺伝しないものがほとんどです。

※ 遺伝カウンセリングを行う施設は全国遺伝子医療部門連絡会議の遺伝子医療実施施設検索システム http://www.idenshiiryoubumon.org/search/howto.html(下のQRコード)で確認することができます

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする