下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『特定健診』

下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『特定健診』

 40 歳以上の成人を対象に行われる特定健康診査(以下特定健診、75 歳以上は後期高齢者医療健康診査)は、生活習慣病の予防と早期発見を目的として年に1 回行われる健診です。
 ふだん病院に通っていない人も定期的に健診を受け、健康を維持しましょう。

監修

国際医療福祉大学医学部 臨床検査医学 主任教授

下澤 達雄 先生(しもさわ・たつお)

2017 年より現職。専門は高血圧学、臨床検査医学、内分泌学、腎臓病学。日本高血圧学会理事、日本心血管内分泌代謝学会理事、日本クラリネット協会副理事長などを務める。「最近は健康維持に大切な睡眠をアプリを使ってモニターしています」とのこと。

メタボではなくても、生活習慣病のリスクが

 特定健診はメタボリックシンドローム対策が目的の1つのため「メタボ健診」とも呼ばれますが、メタボに限らず生活習慣病のリスクの有無を調べるため、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肝臓病、腎臓病などに関する検査を行います。既往歴や喫煙習慣からは、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞のリスクを、服薬歴からは治療の種類や薬に対する副作用なども知ることができます。メタボリックシンドロームに該当するかどうかは、身長、体重、腹囲、BMI の数値でわかります。昨年の記録と比較してみましょう。
 血圧は健診会場で測ると高めになります。130/80mmHg 以上であれば、家庭でリラックスしたときの血圧を測ってみてください。
 飲酒が原因の肝障害がある場合は、ALTに比べてASTが高くなります。肥満になるだけでもALTは高くなります。中性脂肪(トリグリセライド)、LDLコレステロールまたはNon-HDLコレステロールは動脈硬化の危険因子ですが、中性脂肪は食事の影響を受けやすいため、空腹時の検査結果をみる必要があります。健診の日は朝食を食べないでください。また、中性脂肪は動脈硬化だけでなく、急性すい炎の原因ともなります。特に炭水化物が多い食事をとると増えるので、食事のバランスを考えてください。HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれ、高いほうが動脈硬化になりにくいといわれています。これに対しLDLコレステロール、Non-HDLコレステロールが高いときには要注意。食事療法、運動療法の併用で下がることもありますが、遺伝的な影響も強いため、薬や注射による治療が必要になることもあります。代謝内分泌科、あるいは循環器科の医師と相談しましょう。

血糖値が高い理由を知ろう

 血糖値は糖尿病の診断に使われる指標です。ブドウ糖と結合したヘモグロビンの割合を表したHbA1cの数値は、直近1、2か月の平均血糖値を反映するので、検査前の数日だけ食事に気をつけても意味がありません。また、貧血があると平均血糖値が正確に反映されなくなります。ヘモグロビンには遺伝的に数百種類の変異がありますが、そのほとんどは日常生活に支障をきたさないものです。しかし、赤血球の形態異常を引き起こすような変異がある場合にはHbA1c の値と血糖値が乖離します。パルスオキシメーターも正常に測定できないこともあります。
 尿糖・尿たんぱくは腎機能をみるためにとても重要な項目です。糖尿病で糖が尿に漏れ出すのは、血糖値が160~180mg/dLを超えてからなのですが、腎性糖尿の場合は、低い血糖値でも尿糖が陽性になります。また、糖尿病薬のSGLT2阻害薬を飲んでいると、糖は低くても(4+)になります。SGLT2阻害薬を飲み忘れると尿糖は(-)になりますから、薬をちゃんと飲んでいるかの確認にも使われます。腎性糖尿は糖尿病とは異なり、心血管疾患や網膜症、神経障害などの合併症を起こさないので、治療は特に必要ありません。
 尿たんぱくは、運動のあとや尿がアルカリになる、一時的に陽性になるのですが、ふつうの状態で陽性の場合は腎臓内科を受診しましょう。腎臓のろ過機能の低下が疑われるので、透析を回避するためには早めに治療を開始することが重要です。

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