知ってトクするくすりの話『生薬とドーピング』

知ってトクするくすりの話『生薬とドーピング』

 私たちがいつも使用しているくすりはどのように誕生したのでしょうか。また、どうやって実用化が進んだのでしょうか。このコーナーでは、くすりにまつわるさまざまなエピソードをご紹介します。

監修

明治薬科大学 名誉教授

小山 清隆 先生 (こやま・きよたか)

1979 年、明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。湧永製薬中央研究所、明治薬科大学 助教授、同教授を経て、2015年より副学長。専門は生薬学、天然物化学。

競技者がクリーンか ドーピング検査で証明

 もうすぐパリ五輪が開催されます。五輪が始まると、テレビや新聞は毎日大々的に報道します。日本がいくつメダルを取るのか、興味があるところです。今回は、競技に参加するアスリートが受けるドーピング検査について紹介しましょう。
 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)によりますと、ドーピング検査には、競技会において実施される検査(競技会検査)と競技会以外、たとえば自宅やトレーニング場所などで実施する検査があるそうです。競技会検査は、参加競技者がクリーンであること、その記録やパフォーマンスが本物であることを証明するために行われます。したがって、検査の信頼性や正確性を保証するために検査の手順については国際的基準が設けられており、アンチ・ドーピング機構が認定したドーピング検査員が検体採取を行っているとのことです。

生薬マオウや ヒゲナミンに注意

 ドーピングとは、スポーツ競技において、禁止されている物質や方法によって競技者が競技能力を高めることです。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が指定している禁止薬物と漢方薬との関連について確認してみましょう。WADAの2023年度の禁止表に記載されている薬物の中には、漢方の原料となる生薬および植物中に含まれている成分があります。「常に禁止される物質」のうちの「ベータ2作用薬」の中にヒゲナミンがあります。また、「競技会(時)に禁止される物質」のうち「興奮薬」の中に、エフェドリン、プソイドエフェドリン、ストリキニーネが挙げられています。
 スポーツ選手が会見などで「アドレナリンが出た」とよく話しています。交感神経が興奮するとアドレナリンの分泌が増え、血圧や心拍数が上がってパフォーマンスによい影響を与えます。エフェドリンはアドレナリンと構造が似ていて同じような作用を示します。 エフェドリンが含まれる生薬は、主にマオウおよびその仲間に限定されているため、アスリートが漢方薬やサプリメントを使用するときは、マオウのみをチェックすればすみます。
 ヒゲナミンも構造の一部がアドレナリンと似ています。このヒゲナミンは、実は種々の植物やサプリメントに含まれています。ブルガリアの研究者の論文によると(『Plants』2022年、11巻3号、354ページ)、生薬ブシの原植物であるトリカブトのほかに、ナンテン、ハス、ウスバサイシン、イボツヅラフジ中にも含まれています。日本ではあまり知られていないグネツム・パルビフォリウム(Gnetum parvifolium)やアリストロキア・ブラジリエンシス(Aristolochia brasiliensis)にも含まれているようです。
 ヒゲナミンは、商品表示に記載がない場合でも複数の原料生薬に含まれていることがあるため、アスリートは、漢方薬やサプリメントの使用には十分注意する必要があります。

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