油断しないで! 自己流の対処は危険『便秘』

油断しないで! 自己流の対処は危険『便秘』

新型コロナウイルス感染症の影響で自粛生活が続き、ストレスや運動不足などにより、便秘になる人が増えています。不快な症状に悩まされるものの、便秘は病気ではないと考えている人も多いのではないでしょうか。そのため、自己流に対処していると大腸の機能が落ちて取り返しのつかないことにもなりかねません。便秘はさまざまな病気を誘発するリスクをはらんでいます。たかが便秘と侮らず、正しい知識と対処法を知っておきましょう。

監修

横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵 消化器病学教室 主任教授

中島 淳 先生 (なかじま・あつし)

1989 年、大阪大学卒業。
社会保険中央総合病院内科、茅ヶ崎市立病院内科、東京大学第三内科助手、ハーバード大学客員研究員、横浜市立大学附属病院消化器内科教授などを経て、2014 年より現職。
専門領域は、消化管運動異常、慢性特発性偽性腸閉塞、難治性便秘、機能性腹部膨満症など。米国消化器病学会フェロー、日本消化器病学会指導医、日本肝臓学会指導医、内科学会総合内科専門医。
TV などのメディア出演も多数。著書に『寿命の9 割は「便」で決まる』(SB 新書)など。

いきみで血圧急上昇15年後、生存率に差も

便秘は日本人の7人に1人、1700万人以上が悩んでいる国民病ともいえる病気です。若い女性がかかるものというイメージがありますが、最も多いのは70歳以上の高齢者です。
便秘は生活の質を落とすだけでなく、生命を脅かす病気を誘発するということは日本ではあまり知られていません。米国でアンケートによる追跡調査をしたところ、便秘の人はそうでない人に比べ15年後の生存率が約20%低いことが報告されています。
血管がしなやかで弾力のある若い人は、トイレで強くいきんでもそれほど血圧が上がりません。しかし50歳を超えると、いきむだけで血圧が急上昇し、心筋梗塞やくも膜下出血などを起こす引き金(トリガー)になることがわかっています。人はいきむときに息を止め
ますが、呼吸器疾患がある人がいきむと、動脈中の酸素が急激に減少して低酸素血症に陥ることがあります。急性の低酸素血症では、息切れやチアノーゼ(皮膚や粘膜が紫色に変色)、手足の冷えといった症状が現れ、症状が進むと命にかかわります。
また、便秘になると食欲がなくなったり、イライラして集中力が低下したり、排便への不安から家に引きこもるなど、年齢を問わず生活の質を大きく低下させます。

出す回数だけではない出しにくさにも注意

では、便秘とはどういう状態なのか確認してみましょう。通常、食べ物は胃や腸で消化や栄養の吸収が行われ、残った食べ物のカスは、波状に収縮する腸のぜん動運動によって大腸に運ばれます。大腸では水分が吸収されて液状から固形状の便になり、大腸内に一定量の便がたまると直腸へ送られます。その情報が直腸から脳に伝わると便意を感じ、排便の準備が整うと、腹筋、恥骨直腸筋、肛門括約筋のスムーズな動きによって便を排出します。これが排便の仕組みです。
便秘とは、本来体外に排出すべき便を十分量、また快適に排出できない状態のことです。多くの人は何日も排便できない状態を便秘だと思っているようですが、便秘には2つのポイントがあります。1つは排便回数の減少です。お腹の張りや腹痛などがあり、排便が週3回未満というのが便秘の目安です。もう1つは、便が出にくい排便困難症です。「強くいきまないと便が出ない」「便が残っている感じがする(残便感)」「1回で出し切ることができず何度もトイレに行く(頻回便)」「肛門に便が詰まっている感じがする(肛門閉塞)」という4つの症状があり、便秘の患者さんの半数以上にみられます。

老化や生活習慣に加え薬剤やほかの病気も影響

便秘の原因はさまざまですが、多いのが老化による衰えです。胃、腸、大腸などの消化器官の機能が低下することで排便しづらくなるのです。排便したいという感覚も鈍くなり、排便回数が減少して便が硬くなります。食欲も徐々に低下するため一定量の便がたまらず、さらに排便が困難になる悪循環に陥るケースも少なくありません。
女性ホルモン(プロゲステロン)による影響もあります。このホルモンには大腸のぜん動運動を阻害する働きがあり、排卵後から分泌量が増え、生理が始まると急激に減少します。そのため、生理が始まると便秘が解消する女性も多いようです。
生活習慣も重要です。便意を感じても、「忙しい」「恥ずかしい」とトイレに行くのを我慢していると、体は次第に便意を感じにくくなります。人間の体は適応力が高いため、感覚が麻痺していくのです。子どもの便秘が増えているのも、トイレの習慣がついていないことが原因といえるでしょう。親自身も便秘の影響で排便の習慣がないため、子どもに影響して排便習慣が身につかないのです。小児期の便秘を大人になるまで持ち越してしまう人も増えています。
食事量や水分摂取量が少ないことも影響します。食事量が少ないと便のまとまりが形成されにくいため大腸の通過に時間がかかり、多くの水分が吸収されて便が硬くなります。水分の摂取量が少ない場合も便が硬くなり、便秘の原因になります。
さらに、過度なストレスや睡眠不足、運動不足による筋力の衰えも便秘につながります。
ストレスがあると自律神経が乱れ、排便が抑制されてしまうことがあります。睡眠時間が短いと副交感神経が十分に働かず、大腸などの動きが低下します。運動不足による筋力の低下も排便困難症につながります。このほか便秘を起こしやすい病気や、副作用で便秘を起こしやすい薬などさまざまな原因が考えられます。

生活習慣を見直し快便へ目指すのはバナナ状

便秘予防と改善のために自分の便を確認してみましょう。便の形と硬さは便秘と大きく関係します。
50歳以上で、高血圧など気になる病気があり便秘症状が1~2か月続いている場合、血便がある場合は、かかりつけ医などを早めに受診して治療を受けることが大切です。
それ以外の人は、まずは生活習慣を見直しましょう。
◆トイレに行く習慣をつけましょう
前傾35度、ロダンの「考える人」のポーズをすると排便しやすくなります。
◆毎日きちんと食事をとりましょう
特に朝食は腸を動かすうえで大切です。朝にスプーン1杯のオリーブオイルなどのオイルを摂取すると、腸の動きがスムーズになります。
◆腸内環境を整えましょう
食物繊維(1日20g)のほか、発酵食品を積極的にとりましょう。
◆水分をこまめにとりましょう
◆排便に使用する筋肉が衰えないよう積極的に体を動かしましょう
生活習慣を見直しても便秘が改善しない場合は、医療機関を受診しましょう。最近は多くの便秘治療薬が登場し、選択肢が広がっています。
便秘は人生を左右するといっても過言ではありません。高齢者にとって便秘を治すことは、自分の命を守ることにつながります。

ライター 高須 生惠

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