梅雨の季節も要注意 知って備える『熱中症』

梅雨の季節も要注意 知って備える『熱中症』

 夏を迎えると、熱中症が心配になります。炎天下で急激に発症するタイプだけでなく、屋内でじわじわ悪化するタイプもあり、だれにでも起こります。また、場合によっては命を落とす恐れもあります。体が暑さに慣れていない梅雨の時期から急増するため、早めの備えが肝心です。マスクや換気など、コロナ対策との両立にも気を配る必要があります。どんな日や、どんな環境が危ないのか、予防や応急処置のポイントを知って、猛暑を賢く乗り切りましょう。

監修

帝京大学医学部附属病院 高度救命救急センター長 救急医学講座 教授

三宅 康史 先生 (みやけ・やすふみ)

1985 年、東京医科歯科大学卒業。公立昭和病院、さいたま赤十字病院救命救急センター長・集中治療部長、昭和大学医学部教授を経て、2016 年から帝京大学医学部救急医学講座教授、2017 年から同附属病院高度救命救急センター長。日本救急医学会専門医、指導医、評議員。同学会「熱中症に関する委員会」委員長も務め、「熱中症診療ガイドライン2015」執筆に携わった。日本脳神経外科学会、日本集中治療医学会、日本外傷学会の各専門医・評議員。日本臨床救急医学会・自殺企図者のケアに関する検討委員会委員長など。

冷却システムが破たん 重要臓器にダメージ

 熱中症とは、蒸し暑い環境に長くいるとき、あるいは長くいたあとに起こる体調不良の総称です。
 私たちの体は①皮膚の下に流れる血液量を増やし体表面から熱を逃がす(放熱)、②汗をかいて蒸発させる(気化熱)――という2つの方法で余分な熱を外に出し、37℃前後の適正な深部体温を保っています。
 ところが、大量の汗をかくと体内から水分と塩分(ナトリウム)が失われ、血液の量も減ってドロドロになります。そのため、①放熱や気化熱のシステムが追いつかず、体温が異常に上がって細胞が「やけど」状態になる、②細胞に酸素と栄養を運べない――という二重のダメージが生じます。
 特に熱に弱く、障害を受けやすいのが脳(中枢神経系)、肝臓、腎臓、血液(凝固システム系)です。熱中症は、これらの臓器が複合的に機能不全に陥ることで発症するのです。
 軽症ではめまい手足のしびれ筋肉のこむら返りなどが一般的ですが、少し重くなると頭痛吐き気意識がもうろうとするといった症状が出てきます。症状が多彩で個人差が大きいのも熱中症の特徴です。重症化すると意識障害多臓器不全を起こし、手遅れになります(下表)。
 消防庁の統計によると、2020年夏(6~9月)には約6万5000人が熱中症で救急搬送されました。また、同年の熱中症による死者は1528人に上り、その8割以上が65歳以上の高齢者でした(厚生労働省人口動態統計)。

屋内の高齢者は 熱波で徐々に重症化

 熱中症は、健康な若者や中年世代がスポーツや労働作業中に急激に発症する労作性熱中症と、主に屋内で起こり、高齢者や乳幼児が数日かかって徐々に重症化する非労作性熱中症(「古典的熱中症」とも)に大別することができます(下表)。
 労作性熱中症になりやすいのは、①急に暑くなった日、②風があまりない日、③熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上)の翌日です。湿度だけが高くても発症することがあり、暑熱順化(体が暑さに慣れること)がまだ不十分な梅雨の合間の晴れた日や、梅雨明け直後に急増します。肉体労働では、仕事の初日や休日明けに熱中症による死亡事故が多いこともわかっています。
 一方、非労作性熱中症は、盛夏に熱波が襲来して猛暑日と熱帯夜が連続したときが要注意です。リスクが高いのは、要介護だったり、持病があって体力が落ちていたりする高齢者です。高齢になると暑さやのどの渇きを感じにくくなるせいもあり、エアコンを使わない、衣替えすらしていない……といったことが起こりがちです。
 高齢者の場合、後遺症も懸念されます。その1つである高次脳機能障害では、記憶力や集中力の低下、睡眠障害などが残る恐れがあります。

食事と水分補給がカギ 朝食は絶対に抜かない

 熱中症は英語で「heatstroke」と書きます。予防のポイントはHEATヒートでこの4文字を覚えましょう。
 まずHはヘルスケア。毎日の健康管理は非常に重要です。3度の食事はしっかりとります。なかでも、長い夜の間に失われた水分、塩分、栄養を補うための朝食は、絶対に抜いてはいけません。和食には水分も塩分も比較的多く含まれています。
 水分補給も欠かせません。高齢者は筋肉の減少とともに体内の水分量が減り、脱水症を起こしやすいので、こまめに水分(コップ半分か1杯程度の水や麦茶)をとります。起床後、朝食時、10時、昼食時、3時の間食時、夕食時、入浴の前後、就寝前……と、習慣化しましょう。
 仕事や運動で汗をたっぷりかいたときは、スポーツドリンクや塩あめなどで水分や塩分を素早く補います。ビールなどの酒類は利尿作用が強く脱水症状につながりやすいので、水分補給として飲むことは勧められません。また同じ理由から、深酒をした翌日は、暑い場所での作業は避けるべきです。
 コロナ予防も兼ねて血圧や心拍数、体温、体重なども毎日チェックし、体調の変化に気を配りましょう。

エアコンを上手く使う 家族の見守りが命綱に

 次のEはエンバイロメント、すなわち環境です。言うまでもなく涼しい環境にいることが原則です。快適に感じる温度や湿度は人それぞれですが、熱中症予防の観点からは、自分がいる場所の気温は28℃以下、湿度は70%以下が目安となります。居間でも寝室でも、実際に座る場所や寝る場所に温度計と湿度計を置いてみて、その数値を確認したうえでエアコンの設定温度を決めます。設定温度を28℃にしても、自分のいる場所が28℃に保たれているとは限らないためです。
 コロナ対策として部屋を換気する場合にも、エアコンは止めず、こまめに設定温度を調整するなどの工夫をします(下コラム)。寝苦しい熱帯夜が続く場合は、弱めに設定したエアコンを一晩中つけたままにして、質のよい睡眠をとりましょう。ただし、涼しい環境に閉じこもるだけでなく、日常の行動の範囲で、少しずつ暑さに慣れていくことも大切です。
 Eのもう1つの重要な要素は、高齢者への気配りです。高齢者は、離れて暮らす家族や近所の人々との交流を絶やさず、常に見守り、見守られる環境が必要です。衣替えの遅れやエアコン嫌いなど、周囲が早めに気づくことで対処できます。特に暑い日は確認の電話を入れるだけでも安心です。
 3番目のAはアラート(警報)。環境省と気象庁は、全国各地で熱中症リスクのきわめて高い気象条件が予測される場合、熱中症警戒アラートを発表します。報道されたら、すぐに熱中症予防行動をとりましょう。
 最後のTはトリートメント、持病の治療のことです。糖尿病があると自律神経の障害により汗をかきにくくなったり、尿量が増えて脱水症を起こしやすくなったりします。高血圧や心不全、腎臓病も熱中症の重症化要因です。きちんと治療を続けましょう。

熱中症が疑われたら まずは呼びかけてみる

 暑い日に外出する際には、直射日光を避けるために帽子や日傘を使い、魔法瓶タイプの水筒に水と氷をたっぷり入れて持ち歩きましょう。冷たい飲み物も買えますが、すぐに温まってしまいます。冷たい水を飲んで体を冷やすことが大切です。街中に給水スポットが増えており、水筒に飲料水を補充することもできます。凍らせたおしぼりを携行するのも、おすすめです。
 熱中症が疑われる人がいたら、下の応急処置マニュアル(環境省)のフローチャートに即して対処しましょう。呼びかけに応えない場合は、すぐに救急車を呼びます。反応があれば、涼しい場所に避難させ、衣服をゆるめて体を冷やします。濡れタオルで顔や腕を拭くだけでもよく、冷えたペットボトルや袋入りのかち割り氷をタオルや布で包み、首筋両脇の下、太もものつけ根の前面(そけい部)に押し当てれば、さらに効果的です。
 自力で水分を飲めて、症状が治まってきても、少なくとも15~20分ほどはだれかが見守るようにします。自力で飲めない、また症状が改善しない場合は、医療機関を受診しましょう。

ライター 平野 幸治

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