新指標「尿ナトカリ比」でチェック、改善できる『高血圧』

新指標「尿ナトカリ比」でチェック、改善できる『高血圧』

 高血圧治療においては、「減塩」と「野菜・果物の積極摂取」が重視されます。しかし、自分が摂取している塩分や野菜・果物の量が適切なのかわからないという人は多いのではないでしょうか。そんななか、注目を集めているのが、尿に含まれているナトリウム(塩分)とカリウムのバランスが把握できる「尿ナトカリ比」です。尿ナトカリ比について知ることで、高血圧を予防・改善する食事を目指しましょう。

監修

東北大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学分野 教授

寳澤 篤 先生 (ほうざわ・あつし)

1996 年、東北大学医学部卒業。2002 年、同大学大学院医学系研究科修了。米国ミネソタ大学公衆衛生学分野客員研究員、滋賀医科大学特任助教、東北大学助教、山形大学講師を経て、2012 年より東北大学東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門教授、2023 年より同大大学院公衆衛生学分野教授。循環器疾患の危険因子、要介護になる要因にかかわる疫学研究などを行っている。

減塩と、カリウムを含む 野菜・果物の積極摂取を

 日本では高血圧の人が約4300万人いると推計されますが、そのうち約半数の人しか治療を受けていないことが問題になっています。
 血圧が高い状態を放置すると、動脈が硬くなり弾力性が失われる動脈硬化が進み、狭心症・心筋梗塞や脳出血・脳梗塞などを起こすリスクが高まります。これらの病気になると、日常生活に支障が出るだけでなく、命の危険もあります。助かったとしても、後遺症によって介護が必要な状態になる恐れがあります。
 国内外の研究によると、高血圧になっても、降圧目標より低い状態に血圧をコントロールすれば、狭心症・心筋梗塞や脳出血・脳梗塞などになるリスクが軽減できることがわかっています。
 診察室血圧の降圧目標は、75歳未満の人で130/80㎜Hg未満、75歳以上なら140/90㎜Hg未満です。動脈硬化のリスクを高める併存疾患の有無によっても基準値は異なります(下表)。
 血圧を下げるために重要なのが生活習慣の見直しです。日本高血圧学会は、生活習慣の改善ポイントとして「減塩」と「野菜・果物の積極摂取」「適正体重の維持」などを推奨しています。
 減塩と野菜・果物の積極摂取が大切なのは、食塩(ナトリウム)摂取を減らし、カリウムを多く含む食事をすれば、血圧が下がり、心臓病や脳卒中の発症率を減らせることが複数の研究結果から証明されているからです。
 たとえば、米国の研究では、野菜・果物、低脂肪乳製品、全粒穀物、鶏肉、魚、ナッツを中心とし、カリウムが豊富に含まれている「DASHダッシュ食」と減塩を組み合わせると、通常の食事をしたグループよりも大幅に血圧が下がることがわかっています。

ナトリウムとカリウムの比率が新たな指標に

 カリウムは、細胞、神経、筋肉などが正常に機能するために不可欠なミネラルの一種で、ナトリウムの体外への排出を促す作用があります。カリウムを豊富に含む野菜・果物をたくさんとることは、塩分のとり過ぎを調整する意味でも重要なのです。
 高血圧の予防と改善の観点からいうと、理想的な食塩摂取量は1日6g未満です。また、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、高血圧などの生活習慣病の予防を目的とした成人の1日当たりカリウム摂取量の目標量を女性2600㎎以上、男性3000㎎以上としています。
「国民健康・栄養調査(2019年)」によれば、日本人の1日の平均食塩摂取量は少しずつ減ってきてはいるものの、女性9.0g、男性10.5gで、6g未満の達成はなかなか難しいのが実情です。1日の平均カリウム摂取量は女性2220㎎、男性2387㎎で、野菜・果物の摂取量は不足しています。
 ただし、塩分やカリウムは加工品にも含まれているため、自分が摂取しているナトリウムとカリウムの量を食事の内容から判断するのは困難です。日本人は、しょうゆ、市販の加工魚や海産物、味噌汁、漬物などから気づかないうちに塩分をとっているため、ナトリウム摂取量を把握するのが特に難しいという事情がありました。
 しかし、カリウムをたくさん摂取すれば、塩分摂取量が多少多くてもナトリウムは体外に排出されます。そこで、ナトリウムとカリウムのバランスが国際的にも重視されるようになってきたのです。ナトリウムとカリウムのバランスをみるための新しい指標として注目されているのが尿ナトカリ比です。塩分が多く野菜が少ない食事が続けば尿ナトカリ比は高くなり、減塩して野菜をたくさんとれば低くなります。
 以前は、尿ナトカリ比を算出するためには、24時間ためた尿中に含まれるナトリウムとカリウムの値を算出する必要があり、患者さんに負担がかかることが難点でした。しかし、尿を1~2摘たらせば1分程度で尿ナトカリ比が簡単に測定できるナトカリ計が日本で2014年に開発されたことで、健康診断の際に尿ナトカリ比を測る自治体や企業が徐々に増えてきています。

尿ナトカリ比の測定で 血圧が低下する効果も

 その先駆けである宮城県北部の登米とめ市では、40~74歳を対象にした特定健診の際に、尿ナトカリ比を測定する試みを2017年から開始しました。登米市は県内でも高血圧患者が多い地域です。東北大学の研究チームが2013~2015年度に宮城県全域で行った健康調査では、登米市民の尿ナトカリ比は他地域に比べて高く、高血圧の改善のためにも、食生活の見直しが喫緊の課題になっていました。
 そこで、同市の特定健診で2017年から3年間にわたって尿ナトカリ比を測定したところ、男女とも尿ナトカリ比の平均が減少しただけでなく、収縮期血圧が年々下がるという効果がみられました(下グラフ)。集団健診の会場では近所の人と一緒に尿ナトカリ比の数値を確認し、「漬物の量は減らしたほうがいいね」「1日3回味噌汁を飲んでいるから尿ナトカリ比が高いのかな」などと話し合う様子がみられ、食生活を見直す機会になったようです。年1回尿ナトカリ比を測るだけでも、食生活を見直すきっかけになり、高血圧予防・改善効果が期待できるのです。
 高血圧の予防・改善につながる尿ナトカリ比の基準値は確定していませんが、「日本人の食事摂取基準2020」の食塩摂取量とカリウム摂取量の目標値から算出すると、高血圧の予防・改善のためには、尿ナトカリ比2.0以下が目安になると考えられます。
 前日に食べたものや測定した時間によっても尿ナトカリ比は変動します。正確な値を調べるには、少なくとも3日間、朝の尿ナトカリ比を測る必要があります。

ナトカリ比の低い食事を心がける

 現時点では、ほとんどの自治体や職場での健康診断でナトカリ計での測定はできないのが実情です。また、高価なナトカリ計が各家庭に普及するには、少し時間がかかりそうです。健康診断や健康イベントで尿ナトカリ比を測る機会があれば、ぜひ試してみましょう。自分の数値を知らなくても、ナトカリ比が下がるような食事を心がければ高血圧の予防・改善につながります。
 たとえば、ラーメンのように塩分の多い食品でも、野菜入りラーメンにしたり、スープにトマトジュースを足したりといった工夫をすれば、ナトカリ比は下がります。ざるそばにはトロロを加え、カレーライスにはほうれん草をトッピングし、味噌汁は具沢山にするなど、毎日の食事の中で、ナトカリ比を下げる工夫をすることが大切です。
 楽しみながら高血圧の予防・改善を行うことを目指し、東北大学の研究チームと食品メーカーのカゴメが共同で、ナトカリ比を下げるポイントがわかるナトカリマップを作成しました。いつものメニューに、ゆでブロッコリーやミックス野菜サラダ、納豆1パックを加えるだけで、ナトカリ比は低くなります。ナトカリマップは、同社やナトカリ普及協会のホームページで閲覧できます(下図)。
 ナトカリ普及協会のホームページでは、減塩を意識しつつ野菜をふんだんに使ったナトカリレシピ※も公開しています。これらを参考にナトカリ比の低い食事を心がければ、塩分を減らすだけの食事より、高血圧の予防・改善にもっと楽しく取り組めるのではないでしょうか。ただし、腎臓病でカリウムを制限している人は、かかりつけ医に相談してください。また、糖尿病の人は、果物は控えめにし、野菜でカリウムをとるようにしましょう。

ライター 福島 安紀

 

 

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