下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『検査前の食事?』

下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『検査前の食事?』

 「次回の受診日に検査をしましょう」と医師から言われ、ちょっと緊張してしまうことはありませんか?
 説明は受けたのに、「何の検査だっけ。あれ、食事してもよかったのかな」なんて、前日に慌ててしまうことも。
 今回は、検査で体の状態を正確に知るための注意点をご紹介します。

監修

国際医療福祉大学医学部 臨床検査医学 主任教授

下澤 達雄 先生(しもさわ・たつお)

2017 年より現職。専門は高血圧学、臨床検査医学、内分泌学、腎臓病学。日本高血圧学会理事、日本心血管内分泌代謝学会理事、日本クラリネット協会副理事長などを務める。地球温暖化にも適応できる体をつくるためにどんなことが有効か、興味をもっていろいろな運動を試している。

食事をとると、検査結果に影響することも

 検査の日に朝食をとってもいいのか、いけないのか、説明を聞いたのに忘れてしまったことはありませんか。
 検査前に食事をしてはいけない場合は、大きく分けて2つあります。1つは検査結果の数値が異常になってしまう場合、もう1つは検査ができなくなってしまう場合です。
 血液検査には、食事の影響で値が高めに出たり低めに出たりする項目があります。たとえば血糖、尿糖、中性脂肪の値は、食後に高くなります。血糖値については、直近1 ~ 2 か月の平均的な血糖値の指標となるHbA1c を同時に測定して、血糖のコントロール具合を診断しています。中性脂肪は、食事をすると小腸からすぐに吸収されるので高い値になりますが、コレステロールはLDL もHDL も肝臓で合成されないと上昇しないので、食事の影響は受けません。
 ナトリウム、カリウム、カルシウムについてはどうでしょう。
 塩分の多い食事をとるとナトリウムの値が急上昇するかというと、そんなことはありません。ナトリウムが体内に入ると血液中の塩分が増えるため、腎臓などがすぐに働いてナトリウムを排出し、水分を吸収して血液の浸透圧を一定にする仕組みがあるからです。カルシウムの場合は、副甲状腺ホルモンによる調節やビタミンD の作用によって腸管や腎臓からのカルシウム吸収を調整することで、体内のカルシウム量は一定に維持されています。
 カリウムは心臓の働きに作用する大切なミネラルで、血液中のカリウム濃度は常に一定になるように保たれています。しかし、食事の影響による症状の現れ方には個人差が大きく、トマトジュース、アボカド、バナナなどカリウムが豊富な食品をとると1 時間ほどでカリウム値が上昇する人もいれば、まったく上昇しない、あるいは下がる人もいます。このメカニズムはよくわかっていないのですが、腎臓の働きの違いによるものと考えられています。

安全に検査をするために

 検査ができなくなったり、安全性という観点から食事をとらないよう求められる場合があります。主に生理検査の場合で、胃カメラ、腹部超音波(エコー)検査では、胃の内容物の影響があること、胆嚢が食後に収縮してしまうこと、腹部にガスがあるとすい臓などが見えにくくなることなどから、食事をとらずに検査が行われます。また、ピロリ菌の検査で行われる尿素呼気ガステストでは、ピロリ菌が胃の中にあると呼気中に多くの炭酸ガスを排出するために、検査薬を服用して測定します。食事をすると薬が効かなくなり検査ができなくなってしまいます。
 そのほか、造影剤を使うCT 検査MRI 検査を行う前に、食事をとってはいけません。造影剤に対するアレルギーがある人もいて、吐き気や嘔吐をもよおすことがあるため、食事はとらずに検査を受けます。
 このように、検査の前に食事をしてはいけない理由はさまざまです。そのほか、薬や運動など、検査に影響を与える要因はいろいろありますが、これらは別の機会に改めて解説します。食事の影響については検査を受ける前に医師、医療スタッフに確認し、検査が無駄にならないように、また安全に行えるようにしましょう。

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