知ってトクするくすりの話『マラリア治療薬』

知ってトクするくすりの話『マラリア治療薬』

 私たちがいつも使用しているくすりはどのように誕生したのでしょうか。また、どうやって実用化が進んだのでしょうか。このコーナーでは、くすりにまつわるさまざまなエピソードをご紹介します。

監修

明治薬科大学 名誉教授

小山 清隆 先生 (こやま・きよたか)

1979 年、明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。湧永製薬中央研究所、明治薬科大学 助教授、同教授を経て、2015年より副学長。専門は生薬学、天然物化学。

マラリア治療薬に ノーベル賞

 ノーベル賞受賞者の発表(10月)が近づいてきました。日本人の研究者が受賞すると、各報道機関は詳しく報道します。2015年に北里大学の大村智特別栄誉教授、および米ドリュー大学のW・C・キャンベル名誉リサーチフェローが「寄生虫感染症に対する新規治療物質に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞したことは、よく知られています。
 この研究とは別に、もう1人、中国中医科学院教授の屠呦呦(トゥ・ユウユウ、Youyou Tu)博士が「マラリアの新規治療法に関する発見」で同年のノーベル生理学・医学賞を受賞していることは、日本ではあまり知られていません。今回はこのマラリアの治療薬について紹介しましょう。

日本でも年間 50 ~ 70 人が マラリアに感染

 マラリアは“ハマダラカ”という蚊を介して、マラリア原虫に感染することで発症する病気で、熱帯・亜熱帯地域でよく見られます。2022年12月に公表されたWHOの報告によると、2021年の1年間に約2億4,700万人が感染し、推計61万9,000人が死亡しています。このような状況か ら、マラリア治療薬の開発が非常に重要であることがわかります。
 熱帯・亜熱帯地域での発症が多いため、日本では無縁に思えますが、マラリアは約1〜4週間の潜伏期間を経て発症するため、流行地から帰国して発症する場合が少なくなく、日本でも年間約50 〜70人程度が感染しています。
 マラリアに免疫がない日本人の場合、診断や治療が遅れると重症化し、命にかかわることもあるため、早期診断および早期治療がきわめて重要です。
 マラリア予防薬・治療薬としてはクロロキン(わが国では製造・販売が禁止されている)が多く用いられます。クロロキンは1934年にドイツで合成されましたが、毒性が強く実用化に至りませんでした。その後1943年にアメリカで独自に開発され、抗マラリア薬として発売されました。しかし副作用が強く、また、クロロキンに対し耐性を持つマラリアが多いことが問題となっていました。
 トゥ・ユウユウ博士は、マラリアに感染したヒトの血液中のマラリア原虫を殺す作用がある、アルテミシニン(artemisinin)という化合物をクソニンジン(Artemisia annua: キク科)という植物から発見しました。このアルテミシニンは、クロロキン耐性マラリアにも効果を示し、さらに、ヒトに 対しては実質的に無毒でした。
 アルテミシニンはセスキテルペンラクトンという化合物の一種で、パーオキシドという非常に珍しい部分構造を有しています。この部分が薬効のもとになりますが、クソニンジンはアルテミシニンの含有量が少ないため、実際にはクソニンジン中に多量に含まれているセスキテルペン類のアルテミシニン酸(artemisinic acid) を、比較的簡単な化学的処理によって効率よくアルテミシニンに変換しています。
 しかし、アルテミシニンは溶解性が悪く医薬品としては問題があるため、溶解性を改良したアルテミシニン類縁体のアルテメター(artemether)やアルテスネート(artesunate)が開発され、アルテミシニン系抗マラリア剤として臨床応用されています。

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