下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『便検査』
検便は面倒くさいからやりたくないって、思っていませんか?
体に負担なく行える簡単な検査ですから、ぜひやってください。
年々増えている大腸がんのスクリーニング検査として、とても重要です。
国際医療福祉大学医学部 臨床検査医学 主任教授
下澤 達雄 先生(しもさわ・たつお)
2017 年より現職。専門は高血圧学、臨床検査医学、内分泌学、腎臓病学。日本高血圧学会理事、日本心血管内分泌代謝学会理事、日本臨床検査医学会理事、日本クラリネット協会副理事長などを務める。「還暦を超え徐々に体力の衰えを自覚しているので、加齢にあらがうことなく、現状維持を目標に体のメンテナンスをしています。食事と運動は健康の基本」とのこと。
世界的に推奨されている大腸がんのスクリーニング検査
便の検査でわかることはたくさんあるのですが、主な目的は次の4つです。
① 消化管からの出血の有無を調べる(便潜血検査)、② 炎症性腸炎の診断、③ 治療効果を判定する、④ 腸内の病原菌や寄生虫を調べる。
特に大腸がんのスクリーニング検査としての便潜血検査は、50 歳以上の人は男女を問わず行うことが世界的にも推奨されています。日本で主流の便ヒトヘモグロビン法は、海外で主に行われているグアイヤック法より特異度( 陰性の人を正しく判断できる確率) の高い検査方法で、陽性であれば消化管、特に大腸からの出血を強く示します。その場合は、大腸内視鏡検査などのさらなる検査が必要となります。
最近、便潜血検査による大腸がん検診を定期的に行うことで大腸がんの死亡率を減らせることがスウェーデンの研究で明らかになりました(JAMA Netw Open. 2024;7(2):e24
0516)。
便潜血検査をする場合は、検体を2 本(1 日1 本)2 日連続で、提出日の前3 日以内に採取するようにしましょう。
注目される腸内細菌の研究
近年、腸内細菌に関して、新しいさまざまな研究報告が行われています。腸炎のような感染性の病気以外にも、糖尿病、高血圧など今までは腸と関係があるとは想像もつかなかったような病気の発症や重症度に、腸内にどんな細菌があるかということが関係しているという報告もその1 つです。これに伴い、便を検査することで腸内細菌の種類を調べる方法も開発されています。しかし、現状では信頼できるものは少なく、病気のリスク評価の信頼度や治療効果に関してヒトでの証明は十分ではありません。そのため保険診療にはなっていませんが、今後さらなる新しい発見や研究成果が出てくるかもしれません。
便は汚いとのイメージが強く、検査を受けにくい人もいるかもしれませんが、自覚症状がないうちから大腸がんのスクリーニングなどの検査を行うことが大切です。健康診断や人間ドックなどを活用して検査を受けるようにしてください。