しつこい鼻水、鼻づまりに悩まされる『慢性副鼻腔炎』

しつこい鼻水、鼻づまりに悩まされる『慢性副鼻腔炎』

 風邪はとっくに治っているし、花粉症の季節も過ぎたのに、鼻水や鼻づまりがいつまでも続く。眉間のあたりに痛みもある――それは単なる鼻の不調ではなく、慢性副鼻腔炎という病気のせいかもしれません。不快な症状は集中力の低下や不眠にもつながり、日常生活に支障をきたします。近年では、治りにくいタイプも増えているといいます。「忙しいから」と我慢して放置したりせず、早めに受診して治療をすることが重症化予防のカギです。

監修

東邦大学医学部 耳鼻咽喉科学講座 教授

吉川 衛 先生 (よしかわ・まもる)

1993 年、東京慈恵会医科大学卒業。国立小児病院小児医療研究センター免疫アレルギー研究部研究員、東京慈恵会医科大学講師、東邦大学准教授を経て、2014 年から現職。専門は鼻副鼻腔疾患および免疫アレルギー疾患。日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会理事(~2023 年)、日本鼻科学会理事。『鼻副鼻腔炎診療の手引き』『好酸球性副鼻腔炎の診断と治療の手引き』『急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン』作成委員。

風邪などがきっかけ 頭の空洞に炎症や膿

 副鼻腔とは、鼻腔(鼻の内部)のまわりにある、骨に囲まれた空洞です。前頭洞ぜんとうどう篩骨洞しこつどう上顎洞じょうがくどう蝶形骨洞ちょうけいこつどうという4つの空洞が、左右一対ずつあり、自然口と呼ばれる細い通路で鼻腔とつながっています(下図)。その役割については、顔面への衝撃の吸収、頭の軽量化、声を響かせるためなどの説がありますが、確かなことはわかっていません。
 正常な副鼻腔は粘膜で覆われ、空気で満たされていますが、そこに炎症が起きている状態が副鼻腔炎です。俗に蓄膿症とも呼ばれてきた病気です。副鼻腔炎のほとんどは、風邪などをきっかけに、副鼻腔に侵入してきたウイルスや細菌に感染して発症します。
 感染によって粘膜が腫れると、自然口が狭まったり塞がったりして副鼻腔に膿や鼻水が溜まり、ウイルスや細菌が増殖して炎症が広がります。このため、鼻がつまって息苦しい、ドロッとした粘り気のある鼻水が出る、頭が重い、顔面や歯が痛い、鼻水がのどに絡 んで咳や痰が出る(後鼻漏)――といったさまざまな症状に悩まされます。
 発症から1か月以内に治まれば急性副鼻腔炎、3か月以上続いている場合は慢性副鼻腔炎と診断されます。慢性化すると、鼻腔や副鼻腔の粘膜がキノコ状に膨れる鼻茸はなたけ(鼻ポリープ)ができやすくなります(下図)。鼻茸が鼻腔を塞ぐと息苦しさが増し、においがわからなくなります。何年も放置して重症化すると、最悪の場合、炎症が目や脳に及んで失明したり、意識障害を起こしたりすることもあります。

集中力や眠りの妨げに 目や歯の痛みで誤解も

 慢性副鼻腔炎は命にかかわる病気ではありません。とはいえ、その症状は不快感が強く、仕事や勉強の際に集中力の妨げになったり、睡眠障害の危険因子になったりします。においがわからなくなると食事の楽しみが減り、傷んだ食材やガス漏れにも気づきにくく なります。こうした生活の質(QOL)の低下が長く続くことは問題です。
 急性と慢性では、症状も治療法も異なります。一般に急性では黄色い膿のような鼻水が出るのに対し、慢性では白色または透明で粘り気のある鼻水であることが多くなります。
 また、急性では、炎症が起きている副鼻腔のそば、すなわち額や目の奥、頬、上の奥歯などに痛みが現れます。このため鼻の病気とは思わず、眼科や歯科を受診するというケースも目立ちます。一方、慢性化すると、もはや痛みを感じないことも珍しくありませんが、鼻づまりはより重症化します。
 慢性副鼻腔炎になりやすい人としては、①花粉症などのアレルギー性鼻炎があって鼻がつまりがちな人、②鼻腔を隔てる壁である鼻中隔が曲がっている人、③糖尿病などで免疫力が落ちている人や、関節リウマチなどの治療で免疫機能を抑える薬を使っている人が挙げられます。
 国内には副鼻腔炎の患者さんが100万~200万人、そのうち鼻茸が存在するような慢性副鼻腔炎の人は20万人いると推定されています。

マクロライド系抗生剤の 少量長期服用が有効

 診断にあたっては、いつから、どんな症状があるかを問診したうえで、内視鏡などを使って鼻腔内の状態を調べます。副鼻腔炎が疑われる場合は、CT(コンピュータ断層撮影)検査や単純X線による画像検査が有効です。
 CT画像では粘膜や骨の状態まで知ることができるので、治療効果の判定や他の病気との鑑別にも役立ちます。
 急性副鼻腔炎の治療は抗生物質の投与が基本となります。炎症を抑えるステロイド点鼻薬などを併用することも あります。一方、慢性副鼻腔炎の治療では、呼吸器の病気の治療などに使われるマクロライド系抗生物質を通常の半分の量で長期間(1~3か月程度) 服用します。この治療の目的は、急性副鼻腔炎の場合とは違って細菌を殺すことではなく、薬の持つ抗炎症作用や、粘液の分泌を抑えて膿の排出を促す作用によって、副鼻腔の環境を改善することにあります。この治療により6~ 7割の患者さんは治癒します。
 さらに、鼻腔内の洗浄(鼻うがい)や、ネブライザー(噴霧器)という器具を使って抗生物質やステロイド薬を細かい霧状にして吸入する治療法が行われることもあります。

手術で鼻の通り道を拡大 自己流に頼り過ぎは禁物

 それでもつらい症状が続いたり、大きな鼻茸ができていたりする重症例では内視鏡手術が検討されます。内視鏡の映像を確認しながら、先端に刃が付いたマイクロデブリッダーという器具などで鼻茸や腫れた粘膜を取り除いたり、換気と膿の排出がスムーズになるよう鼻腔と副鼻腔のあいだの自然口を広げたりします。ほとんどが全身麻酔で行われ、所要時間は2~3時間程度です。術後に出血の恐れがあるため、5日~1週間程度の入院が必要です。
 大事なのは、急性副鼻腔炎のうちにきちんと治療をすることです。風邪による発熱やけん怠感などは治まったのに、鼻水や鼻づまり、鼻の痛みなどが2週間以上続いたら、耳鼻咽喉科を受診しましょう。また、アレルギー性鼻炎や鼻中隔弯曲症の人は慢性化しやすいので、それぞれの治療をしっかりしておくことが予防につながります。
 鼻の不調というと、つい軽く考えて市販薬に頼りがちですが、慢性副鼻腔炎は自己流では治せません。たとえば、鼻づまりに対して使用する市販の点鼻薬で、ナファゾリン、トラマゾリンといった血管収縮作用のある成分を含むものは、即効性はあるものの効果が持 続せず、使い続けると逆に症状が悪化することも少なくありません。これを薬剤性鼻炎といいます。こうした点鼻薬の使用は10日間程度にとどめ、それで改善がみられなければ、早めに受診しましょう。
 副鼻腔炎の中には、虫歯や歯周病をきっかけとして起こる歯性上顎洞炎や、真菌(カビ)が副鼻腔内に入り込んで炎症が起こる副鼻腔真菌症などもあります。いずれの場合でも検査と正確な診断が不可欠です。

好酸球性は嗅覚に障害 再発減らすことを目標に

 一方、近年増えているのが、ウイルスや細菌に感染していないのに慢性副鼻腔炎を発症する例です。炎症が起きている部分に白血球の一種である好酸球が異常に増加していることから、好酸球性副鼻腔炎と呼ばれますが、まだ原因は解明されていません。
 好酸球性副鼻腔炎の特徴は、水アメのような非常に粘り気の強い黄色の鼻水が出ることと、鼻茸ができやすいため、においがわからなくなる患者さんが多いことです。さらに7~8割の患者さんが喘息を併発していることも、慢性副鼻腔炎との違いです。
 好酸球性副鼻腔炎は非常に治りにくく再発しやすい病気のうえ、治療法が確立されていないことから2015年に国の指定難病に加えられました(一定の基準を満たす患者さんは医療費が助成される)。約2万人の患者さんがいると推定されていて、女性に多い傾向があります。診断は、鼻茸や粘膜の組織検査、血液検査の結果などを踏まえて行われます。
 治療の第一選択は手術です。内視鏡とマイクロデブリッターを用いて鼻茸などの病変を取り除きます。これによって嗅覚などの改善が期待できます。術後は再発を抑えるためにステロイドの点鼻薬が使われます。この点鼻薬は約8割の患者さんに効果があり、飲み薬に比べてステロイドの副作用(骨がもろくなる骨粗しょう症など)が少ないメリットもあります。
 好酸球性副鼻腔炎を完全に治すことは現状では難しく、手術や薬物治療などによって、症状を抑えた状態を保ち再発を減らすことが目標になります。
 2020年には、分子標的薬のデュピルマブが好酸球性副鼻腔炎の治療で保険適用され、自己注射薬として使えるようになりました。この病気の炎症を引き起こす物質(サイトカイン)の働きを抑える作用があり、高い有効性が確認されています。
 高価なこともあり、使われる対象は手術をしても鼻茸が再発するなどの難治例に限られます。

ライター 平野 幸治

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