早期発見、早期治療で視力の改善も『加齢黄斑変性』

早期発見、早期治療で視力の改善も『加齢黄斑変性』

 加齢に伴う目の病気のなかで、近年、増加しているのが加齢黄斑変性です。視野の真ん中が見えにくくなるやっかいな病気で、放置すると失明にいたることも。かつては有効な治療法がありませんでしたが、2008年に登場したVEGF 阻害薬により、進行を食い止めて症状を改善できるようになりました。治療を早く始めるほど効果が高く、早期発見が重要です。この病気には生活習慣も関係しており、生活の中のリスク因子を取り除くことで、予防効果が期待できます。

監修

広尾羽澤内科眼科クリニック 副院長

大越 貴志子 先生 (おおこし・きしこ)

1980 年、秋田大学医学部卒業。順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科、聖路加国際病院眼科、米国ブラウン大学医学部客員助教授、聖路加国際病院眼科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2020 年より現職。専門は網膜硝子体疾患で、加齢黄斑変性などの黄斑疾患の治療実績が豊富。網膜硝子体手術、白内障手術、レーザー手術、糖尿病網膜症の治療も得意分野。日本眼科学会専門医・指導医、加齢黄斑変性の光線力学的療法専門医。国際レーザー学会理事。

黄斑の異常が 見え方に影響

 加齢黄斑変性は、目の網膜の中心部の黄斑という部分が加齢に伴って障害される病気です。黄斑は視機能において非常に重要な役割を果たしています。まず、目の構造と物が見える仕組みを説明しましょう。
 目をフィルムカメラに例えると、レンズにあたるのが水晶体、フィルムが網膜です。光は水晶体を通って網膜に当たり、そこで像を結ぶと電気信号に変換され、視神経を介して脳に伝えられます。この信号を脳がキャッチして初めて「ものが見えた」と認識します(下図)。
 黄斑は、網膜の中心にある直径1.5㎜ほどの視覚機能がきわめて鋭敏な部分です。網膜にはものを見るための視細胞がぎっしり並んでいますが、黄斑部の細胞は細かいものの識別や色の見分けなどの働きを担っています。そのため黄斑部が障害されると、色を見分ける能力が低下したり、細かい識別ができなくなったりします。とりわけ黄斑の中央にある中心窩と呼ばれる小さなくぼみは、視力に最も影響する部分で、視力1.0を得るには、黄斑部が健全である必要があるのです。

特徴的な見え方は 「歪む」「中心が暗い」

 加齢黄斑変性は高齢になるほど多くみられる病気で、高齢化の進む日本では急速に増加しています。福岡県久山町の住民を対象にした研究によると、50歳以上の有病率は、1998年は0.9%でしたが、2007年には1.3%になりました。この結果から日本の患 者数は69万人、50歳以上の80人に1人が罹患していると推定されます。
 また、同じ研究で男性は女性の約3倍多いことがわかり、リスク因子として喫煙が指摘されました。喫煙者の有病率は非喫煙者の3〜5倍になると報告されています。
 主な症状は、変視症、視野の真ん中が暗くなる中心暗点、視力低下などで、進行すると色が見分けられなくなる色覚異常も現れます。
 変視症は、中心が歪んだり曲がって見えたり、左右の目で大きさが違って見える症状です。
 視力低下は、重度になるとメガネで矯正しても視力が0.1程度しか出ないようになります。こうなると、運転免許の更新ができないなど日常生活でさまざまな不便や障害が生じます。このような視力の低下を放置すると回復は困難になります。日本では中途失明原因の第4位です。
 こうした進行性の病気で大事なことは早期発見です。早く見つけて早く治療を始めるほど、障害を最小限に抑えられる可能性が高くなります。日ごろから見え方をチェックする習慣をつけましょう。左上の図でチェックできますが、格子状の枠があるカレンダーや障子のさんなど、家の中にあるものでも代用できます。見え方の異常に気づいたら、すぐに眼科を受診しましょう。
 また、加齢黄斑変性にはドルーゼンと呼ばれる前駆病変(前触れ)があります(下コラム)。ドルーゼンは健康診断の眼底検査で発見されることが少なくありません。眼底検査は網膜の状態を観察する一般的な方法です。眼科では光干渉断層計(OCT)という装置を使って網膜の断面を撮影し、新生血管の有無や黄斑の障害の程度を詳しく調べることができます。

日本人に多い滲出型は 急激な視力低下を起こす

 加齢黄斑変性は滲出型萎縮型に分類されます。どちらのタイプであれ、障害を受けた部分の網膜を再生する治療法はないため、完治は難しいのが現状です。

●滲出型
 日本人に多いタイプです。網膜は10層構造になっており、一番外側の網膜色素上皮細胞が老廃物の蓄積などによって機能低下すると、その外にある脈絡膜から網膜に向かって新生血管という異常な血管が伸びてきます。この血管は非常にもろくて破れやすいため、血液や血液中の液体成分(滲出液)がもれて網膜がむくみ、黄斑に障害を与えます(下図)。
 著しい視力低下が急速に進むため、早期発見が重要です。早く治療を始めれば、進行の抑制や症状の改善が期待できます。特に2008年に血管内皮増殖因子阻害薬(VEGF阻害薬)が登場してから、治療成績は飛躍的に向上しています。

●萎縮型
 日本人には少ないタイプです。新生血管は発生せず、視細胞そのものが萎縮して黄斑に障害を与えます。
 進行は遅く、視力も徐々に低下します。有効な治療法はありませんが、滲出型に移行する可能性があるため、経過観察を続けます。

滲出型の第一選択は VEGF阻害薬の眼内注射

 滲出型の主な治療法には、VEGF阻害薬による薬物療法(抗VEGF薬治療)、光線力学的療法(PDT)、レーザー光凝固術の3種類があります。第一選択は抗VEGF薬治療です。PDTは抗VEGF薬治療の効果の不足分を補 う目的で併用されることがありますが、単独では使用しません。レーザー光凝固術は、新生血管が黄斑から離れた場所にある場合に限って用いられます。

●抗VEGF薬治療
 VEGFは、組織が低酸素状態になるとできるたんぱく質の一種で、新生血管の発生や成長を促します。その作用を抑えて新生血管を退縮させるのがVEGF阻害薬で、現在は6種類の薬の選択肢があります。治療ではこれを眼内(硝子体)に注射します。薬によって多少の違いがありますが、おおむね月に1回、合計3または4回注射します。その後は症状をみながら適時追加します。
 薬の種類が増えたため最初に選んだ薬の効果が不十分だったり再発を繰り返したりする場合は別の薬に切り替えることができるようになり、ほとんどの患者さんがこの治療を受けています。

●光線力学的療法(PDT)
 光に反応する薬を点滴してから非常に弱いレーザーを照射し、新生血管の閉塞を試みる治療法です。治療後48時間は直射日光など強い光に当たらないようにします。

●レーザー光凝固術
 新生血管にレーザーを照射して破壊する治療法です。レーザーを照射した部分は見えなくなるので、新生血管が黄斑の中心部に及んでいると実施できません。離れた場所にある場合は、新生血管を退縮させ病変部を拡大させないことで、それ以上の視力低下を防ぐ効果があります。

予防にはまず禁煙 サプリメントも効果

 加齢黄斑変性は生活習慣と深くかかわっています。最大のリスク因子は喫煙です。たばこを吸っている人はすぐに禁煙を。一人でやめられないなら禁煙外来を利用しましょう。
 食事はバランスが重要ですが、意識してとりたい栄養素もあります。1つは、活性酸素の悪影響を軽減する抗酸化ビタミン(ビタミンAやビタミンAに変換されるβ - カロテン、ビタミンC、ビタミンEなど)です。緑黄色野菜はこれらを多く含む食品の代表ですが、黄斑を保護する作用を持つルテインという色素も豊富です。ルテインは特にホウレンソウやケール、ブロッコリーなどに多く含まれています。カキや海藻などに含まれる亜鉛にも抗酸化作用があります。また、脂肪は生活習慣病の予防にもなるオメガ3脂肪酸がおすすめです。イワシなどの青魚を積極的にとりましょう。
 ルテインや抗酸化ビタミン、亜鉛などを配合したサプリメントもたくさん販売されています。そのなかには海外の大規模臨床試験により加齢黄斑変性の予防効果が証明されたものもあります。発症を完全に防ぐものではありませんが、片方の目が加齢黄斑変性になった人は、もう一方の目を守るためにもサプリメントの服用を検討しましょう。まずは医師に相談してください。

ライター 竹本 和代

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