時間栄養学を考えた食事のリズム

時間栄養学を考えた食事のリズム

食事について考えるとき、「体によい栄養素は?」など、その内容ばかりに目を向けてしまいます。
しかし、最近では「いつ食べるか」を重視する時間栄養学という考え方が注目されています。どのようなことなのでしょうか

監修

二葉栄養専門学校 栄養学科 学科長 教授

伊沢 由紀子 先生 (いざわ・ゆきこ)

女子栄養大学大学院修了。
社会保険新宿健診センター、東京医科大学病院栄養科、がん研究会有明病院栄養管理部を経て、2021 年5 月より現職。
著書は『貧血の人の食事』『がん研有明病院の抗がん剤・放射線治療に向きあう食事』(女子栄養大学出版部)など。

「いつ食べるか」が食事内容とともに重要

「体によい食生活をしたい」と、私たちは食事の内容ばかりに気を取られています。しかし、実は「いつ食べるか」ということが、食事の内容と同じように重要であるといわれるようになってきました。このような考え方を時間栄養学と呼びます。
体のあらゆる細胞には1日のリズムを刻む体内時計(1日24.5時間)があり、その多くが時計遺伝子によって制御されているといわれています。脳の視交叉上核しこうさじょうかくには「主時計」があり、胃、腸、肝臓、腎臓、皮膚、血管などの細胞には「副時計」があります。この体内時計の1日と地球の1日である24時間とがかみあわないと、健康的な生活の障害となり、病気のリスクを高めることがわかってきました。1日24時間に対し、体内時計は少し長い24.5時間です。このずれを調整するには体内時計を毎日リセットしなければなりません。そのために必要なのが、光の刺激食事の刺激です。この2つの刺激によって、体内時計がリセットされます。

光の刺激と食事の刺激が体内時計のズレを整える

朝、太陽を浴びることで、私たちは光の刺激を受けます。太陽の光が目の網膜に入り、脳の視交叉上核に伝わることで、朝であることを認識します。
さらに、視交叉上核は、胃、腸、肝臓、腎臓、皮膚、血管など全身の細胞に対して、体内時計をリセットするよう指示、新しい1日が始まることを知らせます。
もう1つの調整機能が、食事による刺激です。朝、規則正しく起きて食事をとることで、脳の視交叉上核を介さずに、胃、腸、肝臓、腎臓、皮膚、血管など全身の細胞にある副時計の針が直接、調整されます。朝食をとることで体内のすべての時計がリセットされ、新しい1日が始まります。
では、朝食を抜くと体はどうなるのでしょうか。
脳のエネルギー源はグルコース(ブドウ糖)だけです。ふつうの体格の人であろうが、肥満の人であろうが、朝食をとらず、肝臓に蓄えていたグリコーゲンを消費してしまうと、筋肉を取り崩してグルコース代謝を行い、脳の活動を維持しようとします。そうなると低血糖状態になり、脳の活動が低下してしまいます。朝食は心身の活動に必要なエネルギーを供給しているのです。

朝食は夕食の4倍もエネルギーを消費する

朝食がとれない理由としてよくあげられるのが、残業や仕事上の付き合い、子どもならば試験勉強などで夜遅くに食事をするため、朝、お腹が空かないというものです。
遅い時間帯に食事をすると、エネルギーの大半は脂肪となります。同じ内容の食事(同一栄養素量の食事)を摂取した場合でも、摂取時刻によって※食事誘導性熱産生(DIT)が異なり、朝食は夕食の4倍もエネルギー消費が大きいという研究結果があります。朝にはこれから活動するためのエネルギーが必要であり、夜は活動するためのエネルギーはさほど必要でないため貯蔵に回るというわけです。
1日に必要なエネルギーや栄養素を考慮することに加え、時間栄養学の考え方を取り入れ、「いつ食べるのか」、食べるタイミングを考えて食事をすることが大切です。まずはバランスのよい朝食を起床後2時間以内を目途にとってください。脳のエネルギー源はグルコースですが、糖質だけとればよいわけではありません。たんぱく質や脂質、ビタミン、ミネラルなどを一緒にとることが重要です。下欄にバランスのよい朝食の例をあげますので、試してみてください。
※食事誘導性熱産生(DIT)とは、食後は安静にしていても消化などのためにエネルギーが消費され代謝量が増えることをいう

(不定期連載)

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