有毒植物からくすり?

有毒植物からくすり?

 私たちがいつも使用しているくすりはどのように誕生したのでしょうか。また、どうやって実用化が進んだのでしょうか。このコーナーでは、くすりにまつわるさまざまなエピソードをご紹介します。

監修

明治薬科大学 名誉教授

小山 清隆 先生 (こやま・きよたか)

1979 年、明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。湧永製薬中央研究所、明治薬科大学 助教授、同教授を経て、2015年より副学長。専門は生薬学、天然物化学。

保険金殺人のトリカブト 頻尿対策の漢方薬にも

 くすりは極量きょくりょう(くすりの使用に関して安全な最大限の量)を超えて服用すると体に悪影響を及ぼす可能性があります。
 薬剤師の重要な仕事の1つは、処方箋に書かれている各薬剤の量が極量をオーバーしていないのか、チェックすることです。極量を超えている場合は、処方箋を書いた医師に連絡して、その意図を確認し、場合によっては量を変更してもらいます。くすりも使い方によっては毒になるからです。
 今回はその逆、つまり毒といわれていたものからくすりが誕生した例を紹介します。
有毒植物のトリカブトをご存じですか。名前の由来は、その美しい花の形が祭礼に用いる鳥兜という冠に似ているからとも、鶏のトサカに似ているからともいわれています。保険金殺人に使用されたことで知られているトリカブトはキンポウゲ科の多年草で、その根を乾燥させたブシ(附子)には強い毒性があり、かつてはアイヌの狩猟用の矢毒として使われていました。
 その一方でブシは、生薬として漢方薬に用いられています。夜間の頻尿対策として高齢者に処方されることが多い八味地黄丸はちみじおうがんにも含まれています。ただし、毒性が強いので、漢方では加工して毒性を減じたうえで用いています。

吹き矢の毒の一部が 筋弛緩剤に

 南米の先住民は、吹き矢に毒を塗って狩猟をしていました。その毒はツヅラフジ科の植物の樹液のエキスで、クラーレ(鳥を殺すという意味)と呼ばれ、獲物の神経を麻痺させる(筋弛緩作用)ものでした。
 その後の研究でこの筋弛緩作用の本体が解明され、ツボクラリンと名づけられました。
 しかし、これをくすりとして用いるには構造が複雑で、化学的な合成に向いていないことがわかりました。また、天然物のため供給量も安定的ではありませんでした。
 そこで筋弛緩作用に関して重要と考えられるツボクラリンの構造の一部分に着目し、新薬の研究が行われました。
 その結果、デカメトニウム、スキサメトニウム、パンクロニウムなどの筋弛緩剤が開発されました。

認知症治療薬も 有毒植物から

 アルツハイマー型認知症治療薬ガランタミン(薬剤名レミニール)も、有毒植物から生まれました。ガランタミンは、スノードロップ、ヒガンバナ、スイセンなど多くのヒガンバナ科の植物に含まれています。
 私も学生のころ(約45年前)は、ヒガンバナは、リコリンやガランタミンなどの有毒アルカロイド数種を含む有毒植物として習いました。それから数十年後に、これらアルカロイドのうち、ガランタミンがアルツハイマー型認知症治療薬として承認されたわけです。
 これからも有毒植物から新たなくすりが誕生するかもしれません。

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