花粉症など意外なことが関係する『大人の食物アレルギー』

花粉症など意外なことが関係する『大人の食物アレルギー』

 食品などを摂取することで起こる食物アレルギーは、子どもの病気だというイメージがあります。しかし近年、大人になってから突然発症する食物アレルギーが増加しており、重症化すると命にかかわることや、花粉症や職業が関係していることなどはあまり知られていません。大人が発症する食物アレルギーについて正しく知り、リスクに備えましょう。

監修

国立病院機構 相模原病院 臨床研究センターアレルゲン研究室 室長

福冨 友馬 先生 (ふくとみ・ゆうま)

2004 年、広島大学医学部卒業。国立病院機構相模原病院アレルギー科、国立病院機構相模原病院臨床研究センター研究員を経て、2012 年より現職。2014 年より、順天堂大学連携大学院客員准教授、2022 年より国立病院機構相模原病院臨床研究センター臨床研究推進部長を兼任。著書に『大人の食物アレルギー』(集英社新書)など。

原因食物で多いのは 果物・野菜、小麦、甲殻類

 食物アレルギーとは、本来は体に害のない食べ物に対して体の免疫機能が過剰に反応し、さまざまな症状を引き起こすことです。日本では、大人が罹患する食物アレルギーの正確な有病率は明らかになっていませんが、およそ2〜3%といわれており、年々増加傾向です。
 食物アレルギーの原因は、0歳児までは鶏卵、牛乳、小麦が上位を占めますが、年齢が上がるにつれて魚卵類、木の実類、果物類、甲殻類などが多くなってきます。
 相模原病院アレルギー科を受診した成人食物アレルギーの患者さんの原因食物の約半数は果物・野菜類(豆乳、大豆を含む)で、以下、小麦、甲殻類の順になっています。(下グラフ)  

アレルゲンの侵入経路は口以外に肌、目、鼻、喉

 子どものときには起こらなかった食物アレルギーが、なぜ大人になってから発症するのでしょうか?
 発症には2つのメカニズムが関係しています。
 1つ目は、それまで毎日食べていても問題がなかった特定の食物に対してアレルギーを起こす腸管感作で、アレルギーの原因物質(アレルゲン)が口から入り、消化管で吸収されることで発症します。腸管感作を起こしやすい食べ物としては、小麦や甲殻類などが挙げられます。
 2つ目は、皮膚や目、鼻、気管支の粘膜などのアレルギーが関係する腸管外感作です。近年、大人の食物アレルギーの発症に密接な関係があることがわかってきました。仕事などで特定の食物を頻繁に扱っていると、その食物に対するアレルギーが経皮的に起こり、手のかゆみ、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、喉の痛み、咳、息苦しさといった症状が現れます。悪化すると、その食物を食べることでもアレルギーを起こすようになります。肌のバリア機能が低下して湿疹などがあると皮膚から吸収されやすいため、食物アレルギーを発症する可能性が高くなります。

半数以上の人は 食物以外の要因で発症

 食物以外にも、花粉やダニなど、生活の中にある環境アレルゲンが食物アレルギーと関係することがあります。これは、花粉などの環境アレルゲンと食物アレルゲンの構造が似ているために起こるもので、交差反応といいます。本来のアレルゲンと構造の似ている食物アレルゲンを勘違いして、免疫細胞が攻撃するため、過剰な免疫反応が食物アレルギーとなって現れます。主な交差反応を紹介します。

●花粉アレルギー
 成人してから果物や野菜アレルギーを発症した人のほとんどが花粉アレルギーを持っており、花粉アレルギーの人が果物や野菜を食べたことで起こる食物アレルギーのことを、花粉- 食物アレルギー症候群といいます。
 果物や野菜には花粉アレルゲンと構造が似たアレルゲンが存在するため、花粉が多く飛散する時期になるとアレルゲンに対してより過敏になり、食物アレルギーの症状が出やすくなります。花粉の種類により交差反応を起こしやすい果物や野菜は異なります(下表)

●ラテックス(天然ゴム)アレルギー
 ゴム手袋などの日用品も食物アレルギーの発症原因になります。代表的な例は、天然ゴムの原料であるラテックスによりアレルギーを発症した人が、果物を食べて食物アレルギーを起こすラテックス- フルーツ症候群です。ラテックスでつくられたゴム手袋を使用する医療従事者、主婦(夫)、ラテックス製の尿道カテーテルを使用する患者さんなどに多く、バナナ、アボカド、クリ、キウイ、イチジクなどを食べると、交差反応によって30〜50%の人に食物アレルギーが起こります。
 また、小麦や甲殻類の食物アレルギーを持つ人の中には、原因食物を食べるだけでは症状が出ず、何かの引き金によってアレルギーを発症するケースがあります。その代表的なものは「運動」で、食物依存性運動誘発アナフィラキシーと呼ばれます。運動以外に引き金となるものには、解熱鎮痛剤のNSAIDs 、アルコール、過労などが 挙げられます。
 これらは食物アレルギーの直接の原因ではないので、運動や服薬を禁止するものではありません。しかし、アレルギーの原因となるものを口にする前後は、避けたほうがいいでしょう。

大人のアレルギー、多いのはFDEIAとOAS

 大人の食物アレルギーには大きく分けて、①即時型症状、②食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)、③口腔アレルギー症候群(OAS)の3タイプがあります(下表)。
 子どもの場合は即時型が圧倒的に多いのですが、大人になるとFDEIAとOASが多くなります。
 即時型は、原因食物を食べたあと2時間以内にじんましん、かゆみなどの皮膚症状が現れます。
 FDEIAは小麦などの原因となる食物を食べて2時間以内(最大4時間)にランニングなどの運動をすることでアナフィラキシーを引き起こすものです。腸からのアレルゲンの吸収が運動によって促進されるために起こると考えられており、全身のじんましんや呼吸困難などが現れ、ショック状態に陥るなど重症化することも少なくありません。
 OASは、原因となる食物を食べたあと、口腔内、唇、喉などにかゆみ、ヒリヒリする痛み、イガイガ、腫れなどの症状が起こります。
 カバノキ科花粉症の人が、リンゴやサクランボ、モモなどのバラ科の果物を生で食べたときに起こるケースが、特に多くみられます。

アナフィラキシーには自己注射薬、常時携帯を

 大人の食物アレルギーは原因も症状も複雑なうえに専門医が限られており、アレルゲンの特定が難しいのが実情です。受診する場合は、アレルギー専門医を探すか、かかりつけ医や都道府県アレルギー疾患医療拠点病院などに相談するか、あるいは厚生労働省・日本アレルギー学会の『アレルギーポータル』※ というホームページを参考にするのがよいでしょう。
 診断は問診と、血液検査や皮膚テストを組み合わせて行うのが望ましいため、医療機関に確認してみましょう。
 大人の食物アレルギーには個別の事情があり、1人ひとり対処法が違います。しかし、原因とされるアレルゲンの侵入を防げば、長期的には改善するケースもあります。手に湿疹のある人は、手袋で保護したり、軟膏治療を積極的に行ってください。
 アナフィラキシーの経験がある患者さんはリスクが高いため、特に注意が必要です。アドレナリン自己注射薬(エピペン)を処方してもらい、常に携帯することをおすすめします。エピペンはアレルギー症状の進行を防ぎ、医療機関を受診するまで一時的に症状を緩和する治療薬です。
 犬が吠えるような咳、のどや胸の締めつけ、意識障害、失禁などのような症状が出たらすぐに打ちましょう。本人が打てない場合は、現場に居合わせた教員などが打っても医師法違反にはなりません。エピペンを打ったあとには速やかに医療機関で受診することが必要です(下図)。
 また、アレルゲンを誤食してしまったなど、緊急時の対処方法について日ごろから医師とよく相談し、どのような症状が出たらどこの医療機関を受診すればいいかなど、決めておくことも重要です。
 大人の食物アレルギーは厄介な病気ですが、必要以上に怖れて生活の質を落とす必要はありません。しかし一方で命にかかわる場合があることも事実です。この病気を正しく怖れるために、大人の食物アレルギーとはどういうものか正しく知り、生活に役立てましょう。


ライター 高須 生恵


厚生労働省・日本アレルギー学会WEB サイト『アレルギーポータル』

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