知ってトクするくすりの話『漢方薬の原料生薬』
私たちがいつも使用しているくすりはどのような由来があるのでしょうか。また、実用化にあたってどのような問題が あったのでしょう。このコーナーでは、くすりにまつわるさまざまなエピソードをご紹介します。
明治薬科大学 名誉教授
小山 清隆 先生 (こやま・きよたか)
1979 年、明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。湧永製薬中央研究所、明治薬科大学助教授、同教授を経て、2015 年より副学長、2020 年に定年退職。専門は生薬学、天然物化学。
競技者がクリーンか ドーピング検査で証明
以前、生薬カンゾウが漢方薬として大量に使用されているにもかかわらず、原材料のほとんどを中国からの輸入に頼っているという問題を指摘しました(75号)。今回はカンゾウ以外で、使用頻度の高い漢方薬の原料生薬の使用量と生産地について考えてみましょう。
漢方薬原料生薬においてカンゾウに次いで2番目に使用量が多いのがブクリョウです。ブクリョウはアカマツやクロマツの根に寄生するキノコ、マツホド(菌類)の外層をほとんど除いた菌核※1 で、以下のような漢方薬に含まれています。
このように重要な生薬ブクリョウの使用量は約1949・4tですが、日本での生産量はわずか139・2㎏、中国からの輸入量が1949・0tで、中国に99・98%頼っている状況です(使用量は2 0 2 0 年4月から2 0 21年3月:以下同)。
ブクリョウに次いで3番目に使用量が多い生薬がボタン科シャクヤクの根、シャクヤクです。シャクヤクは次のような漢方薬に含まれています。
シャクヤクはこのほか、加味逍遙散、当帰芍薬散などの構成生薬です。
シャクヤクの使用量は1712・4tで、日本での生産量39・7t、中国からの輸入量が1672・7tで、97・68%を中国からの輸入に頼っています。
4番目に使用量が多いのがケイヒです。ケイヒはクスノキ科Cinnamomumcassia の樹皮または周皮の一部を除いたものです。葛根湯や牛車腎気丸などの構成生薬で、使用量は約1166・5t。日本での生産はなく、中国からの輸入量が915・4tです。
ケイヒも78・47 %を中国からの輸入に頼っている状況です。
大半が中国からの輸入 ストックや栽培の試みも
このように、生薬のほとんどが中国からの輸入に依存しているのが現状です。将来、安定的に生薬が確保できる保証はありません。もちろん、生薬を使用している企業の一部は、ある程度のストックを保管しています。
また、特定生薬の契約栽培を農家に依頼している企業もあります。先日、こんにゃく栽培をやめ、ヤマトトウキ※2の栽培を行っている群馬の農家がテレビ番組で紹介されました(6月20日放映『おはよう日本』NHK)。
しかしながら、漢方の原料生薬の量的確保はまだまだ不十分です。この問題については企業だけでなく、国も含めて解決策を見出さなければならないと考えます。
※ 1菌核…菌類が寄生した植物の組織(根、果実など)や土壌中に菌糸が密集してできる硬い塊。
※ 2ヤマトトウキ…セリ科の多年草。根は生薬「当帰」として使用されている。
参考文献:日本漢方生薬製剤協会生薬委員会「日本における原料生薬の使用量に関する調査報告(3)」(『生薬学雑誌』77巻1号、p.24~41)