下澤達雄先生の臨床検査かわら版 「動脈硬化予防の検査値」

下澤達雄先生の臨床検査かわら版 「動脈硬化予防の検査値」

 心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化の予防に関して、日本動脈硬化学会から新しいガイドラインが発表されました。今回はその内容を紹介します。

監修

国際医療福祉大学医学部 臨床検査医学 主任教授

下澤 達雄 先生(しもさわ・たつお)

2017 年より現職。専門は高血圧学、臨床検査医学、内分泌学、腎臓病学。日本高血圧学会理事、日本心血管内分泌代謝学会理事、日本クラリネット協会副理事長などを務める。芸術の秋に向け、どの演奏会へ行くか、目下、日程調整中です。

 20 世紀初頭、カナダの内科医ウイリアム・オスラー(William Osler) は「人は血管とともに老いる」と指摘しました。当時はもちろん、生きている人間の血管の状態を知るすべはなく、血管が老いる原因もわかりませんでした。しかし現代では、血液検査、エコー検査などの発展により、動脈硬化の評価、治療法はおろか、将来の動脈硬化発症リスクまでわかるようになり、脳梗塞や、心筋梗塞の予防ができるようになっています。
 2022 年夏、日本動脈硬化学会が発表した新しいガイドラインでは、エコー検査脈波伝搬速度検査などが将来の心筋梗塞や脳梗塞を予測するうえで重要であることが記載されています。
 また、今までは空腹時採血のみで判断していた中性脂肪について、食後の採血でも175mg/dL 以上は脂質異常症として取り扱うようになりました。コレステロール値などは食後でも大きく変動しませんが、中性脂肪値は食後すぐに上昇するため、食後の中性脂肪値が新たに判断基準になったのです。
 また、今までは治療目標とするLDLコレステロールの値がおおざっぱであった点を改善し、すでに動脈硬化を起こしている、あるいは喫煙者で動脈硬化を起こしやすい場合には100 mg/dL 未満、動脈硬化がない非喫煙者の場合は120 mg/dL 未満と設定されました。さらに心筋梗塞や脳梗塞を起こしたことのある患者さんで、糖尿病など動脈硬化が進みやすい条件がある場合には、二度目の発作を予防するために70mg/dL 未満に下げることが推奨されています。

 

 動脈硬化は自覚症状が少ないため、血液検査やエコー検査などが治療方針を左右する大切な指標になります。
 エコー検査や脈波伝搬速度検査はベッドに横になっているだけで行えます。検査の前は、飲酒や喫煙は控えましょう。血液検査は若干の痛みを伴います。血液をサラサラにする薬を飲んでいる場合には、採血後は針を刺した部分をしっかり圧迫して止血しましょう。上述のように、中性脂肪は食事の影響を受けますが、ほかの項目は食事の影響は軽微です。検査の前に慌てて食事療法を行ってもよい値にはなりません。日頃から食事に気を配り、運動療法をしっかり行いましょう。

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