下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『健康診断で高血圧といわれたら』
健康診断の結果が悪かったとき、みなさんはどうしていますか?
数値が悪くても体調の変化がなければ、
あるいは、ネットなどの根拠のない情報を信じて、安心してしまっていませんか。
国際医療福祉大学医学部 臨床検査医学 教授
下澤 達雄 先生(しもさわ・たつお)
2017 年より現職。専門は高血圧学、臨床検査医学、内分泌学、腎臓病学。日本高血圧学会理事、日本心血管内分泌代謝学会理事、日本臨床検査医学会理事、日本クラリネット協会副理事長などを務める。「出張の際、マヤ文明を見学する機会がありました。大河沿いにはない古代文明の特徴、独自の天文学、数学の発展に感動しました。なぜあの文明が滅びてしまったのかはまだ謎だそうです」。
ネット情報に惑わされないで
少し前の話ですが、高血圧の定義が変わったという誤った情報がネット上を賑わせたことがあります。拡張期血圧160mmHg/収縮期血圧100mmHg 以上が高血圧というものです。これは、厚生労働省などがすぐに受診するように推奨している数値ですが、血圧の新しい基準値と誤解されたようです。日本における高血圧の定義は140 / 90mmHg 以上で、従来から変わっていません。この数値を超えた人は、食事、運動などの生活習慣の改善を行い、6 か月経っても効果がなければ、受診することがすすめられています。生活習慣の改善では、次の5項目を目指します。それでも血圧が下がらない場合は薬による治療も行います。
さまざまな疾患にかかわる高血圧
では、160 mmHg / 140 mmHg 以上という基準はどのように決められたのでしょうか?
第二次世界大戦後の米国で、心臓病、腎臓病、脳卒中などの発症率と健康診断などによる血圧の数値との関連を調べたところ、収縮期血圧140 mmHg を超えるとリスクが高くなること、160 mmHg を超えると、さらに高リスクになることが明らかにされました。その後、日本でも同様の研究が進み、現在の基準値になっています。また、2019 年のガイドラインからは家庭血圧の基準値も盛り込まれました。
ちなみに米国ではさらに厳しく、130 mmHg / 80 mmHg を超えると高血圧症と診断されます。
わが国では、健康診断は結核や赤痢などの感染症の蔓延防止、栄養不良の改善など、当時問題となっていた病気の早期発見を目的として始まりました。現在では、高血圧、糖尿病、脂質異常症など、生活習慣が大きくかかわる疾患をはじめとした、さまざまな病気の早期発見や予防を大きな目的として行われています。
高血圧の予防や改善には、家庭で血圧を測定する習慣がとても大切です。血液を採取するような特別な検査をしなくても自分の状態を把握できるからです。最近では、手首に装着して常時血圧測定できるウエアラブル血圧計もあります。自分のライフスタイルに合った血圧計で毎日血圧を測定しましょう。そして、受診の際に数値を医師に見てもらい、治療法を一緒に考えることも大切とされています。