特許切れ先発薬の自己負担額引き上げその仕組みと影響は?
開発した医薬品の特許が切れ、ほかの製薬企業が後発で製造し、安価に販売する薬がジェネリック医薬品(後発薬)です。今年10月から、この後発薬を使用せず、先発薬を使用する患者さんの自己負担額が引き上げられました。その背景には、少子高齢化で膨らむ国民医療費の公費負担を抑える狙いがあります。具体的にはどんな仕組みで、どのくらい負担が増えるのでしょうか。また医療現場や患者さんにはどのような影響が出てくるのでしょうか。
後発薬への移行促す差額4分の1を上乗せ
紹介状なしに大きな病院を受診すると「特別の料金」がかかりますが、先発薬の自己負担額引き上げは同じ考え方に基づいています。制度的には「選定療養」(社会保険に加入している患者さんが追加費用を負担することで、保険診療との併用が認められた医療)という扱いです。今回、厚生労働省が導入したのは、患者さんが特許切れの先発薬を希望した場合、最も高価格である後発薬との差額の4分の1相当を保険適用から外し、特別の料金として窓口負担に上乗せする仕組みです。たとえば先発薬が1錠100円、後発薬が1錠60円の場合、差額40円の4分の1である10円を「特別の料金」として、処方された錠数をかけ、さらにそのぶんの消費税を徴収します(下図)。対象となるのは、後発薬が発売されてから5年以上経過、あるいは後発薬の市場シェアがすでに50%を超えている先発薬で、1096品目にのぼります。高血圧や糖尿病など生活習慣病関連の薬のほか、インフルエンザ治療薬「タミフル」、解熱鎮痛剤「アセトアミノフェン坐剤」、保湿剤「ヒルドイド」、胃腸薬「ガスター」、認知症治療薬「アリセプト」といった身近な薬、話題の製品も含まれます。後発薬とは、先発薬の特許期間が過ぎたあとで、「先発医薬品と同じ有効成分を同じ量含んでおり、同等の効能や効果が得られる」と認められた医薬品です。研究開発コストがかからないぶん価格が抑えられるため、患者さんの負担が軽減され、国の医療費削減にもつながります。有効成分は同じなので、効き目や安全性は先発薬と同等とされ、医薬品副作用被害救済制度(医薬品を適正に使ったにもかかわらず生じた副作用により重篤な健康被害を受けた人に対し、医療費などを給付する仕組み)も、先発薬と同じく適用されます。とはいえ、品質への不安や、使い慣れたものがいいなどの理由から、先発薬を望む患者さんも少なくありません。また、ここ数年、製造過程での不正が発覚し、業務停止となる後発医薬品メーカーが相次ぎました。後発薬への信頼を揺るがすとともに、その影響で大規模な医薬品不足まで起こっています。
先発薬を使う「医療上の必要性がある」と認められるケース(いずれも医師または歯科医師が判断する)
①先発薬と後発薬で、国に承認された効能・効果に差異があって、その患者の病気治療のために先発薬が必要な場合
②その患者が後発薬を使った際に、副作用があったり、先発薬とのあいだで治療効果に差異があったりして、安全性の観点などから先発薬が必要な場合
③学会が作成しているガイドラインにおいて、先発薬を使っている患者について「後発薬へ切り替えないこと」が推奨されている場合
④後発薬の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化できないなどの場合(ただし、単に剤形の好みという理由では認められない。この場合の判断は薬剤師が行うこともできる)
※流通の問題などで医療機関や薬局に後発薬の在庫がない場合にも、「特別の料金」を払わずに先発薬が使える先発薬を使う「医療上の必要性がある」と認められるケース(いずれも医師または歯科医師が判断する)厚生労働省ホームページ内の「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」を参考に作成
必要性あれば例外も納得して選択を
新たな仕組みでは、対象となる先発薬であっても「医療上の必要性がある場合」には全額が保険適用対象となり、自己負担額は以前と変わりません。そこで気になるのが、「医療上の必要性がある」のは、どんなときかということです。厚労省は4つのケースを示しています(上表)。これらに該当するか否かを最終的に判断するのは医師(一部は薬剤師)です。先に「効き目や安全性は先発薬と同等」と記しましたが、後発薬は何から何まで先発薬と同じというわけではなく、添加物や薬の剤形(錠剤、カプセル剤、顆粒剤など)が異なることは珍しくありません。患者さんの体質によっては、アレルギー反応などを起こすことがありますし、治療効果に差異が生じる場合もあり得ます。また、上表にもあるように、一部の疾患は、先発薬から後発薬への切り替えに伴う発作再発の報告などを踏まえ、リスクを避けるために「後発薬へ切り替えないこと」を学会ガイドラインで推奨しているケースもあります。患者さんにとって、薬の効果や副作用、飲みやすさなどは繊細な問題で、「(先発薬と後発薬で)大差ない」とは一概に言い切れません。実際の医療現場では「医療上の必要性」についての判断に混乱が生じることも予想されます。なお、流通上の問題が生じて医療機関や薬局に後発薬の在庫がなくなり、やむなく先発薬が処方される場合には、「特別の料金」を支払う必要はありません。国民皆保険制度を守るためにも医療費の抑制は急務ですが、患者さんが不安なく服薬できることこそが重要であり、改革の大前提です。今回の新しい仕組みの趣旨や後発薬の安全性を患者さん自身が理解し、わからないことがあったら、医師や薬剤師に相談してください。