下澤達雄先生の臨床検査かわら版 『なぜ、何本も採血するのですか?』
患者さんの疑問に答えます
慢性疾患などで定期的に受診している患者さんのなかには、
毎回行っている血液検査を負担に感じている人もいるのではないでしょうか。
なぜ、採血管が何本も必要なのか、お答えしましょう。

国際医療福祉大学医学部 臨床検査医学 教授
下澤 達雄 先生(しもさわ・たつお)
2017 年より現職。専門は高血圧学、臨床検査医学、内分泌学、腎臓病学。日本高血圧学会理事、日本心血管内分泌代謝学会理事、日本臨床検査医学会理事、日本クラリネット協会副理事長などを務める。「年々地球温暖化の影響で桜の開花予測が難しくなっています。満開の桜をゆっくり楽しみたいと思っています」
採血管には検査項目に合わせた試薬が入っている
血液検査はみなさんがもっともよく経験する検査です。
急病で受診したときも、慢性疾患の定期的受診でも、血液検査の結果により体の状態がある程度わかります。
検査時には、検査技師から「今日は〇本の採血です」という説明を受けます。
採血管はだいたい3 ~ 4 本、多いときには8 ~ 9 本ということもあります。
「なんでそんなに!」「大きめの1 本の採血管ではダメなの?」と思う人もいるでしょう。
そして、「そんなにいっぱい採血されて大丈夫だろうか」とも。
それぞれの採血管にはそれぞれの検査項目に合わせた薬品が入っています。
たとえば貧血の検査では、血液が固まってしまうと検査ができません。そのためEDTA
2Na あるいはEDTA2Kなどの抗凝固剤が入っています。これらは血液中のカルシウムを
取り除くことで血液が固まらないようにする薬です。この薬には、ナトリウムやカリウムが含まれているため、
この採血管で採取した血液を使ってカルシウムやナトリウム、カリウムの値を正確に測定することはできません。
カルシウムやナトリウム、カリウムの値を測るためには別の採血管が必要になります。
また、糖尿病の検査では血糖値を測定しますが、赤血球は糖分を栄養としているため、室温で放置すると、採
血して検査までの間に赤血球が糖を使ってしまい、血糖値が見る間に減少してしまいます。これを防ぐために血
糖値測定用の採血管にはフッ化ナトリウムが加えられています。同じく糖尿病の検査項目であるHbA1c 測定用
の採血管には、上述のEDTA が加えられています。
また、血糖値の測定に使われるのは、血液から血球を取り除いた「血漿」(けっしょう)といわれる成分です。
抗凝固剤を加えた採血管で採った血液を遠心分離して得られる上澄み部分です。
これに対して、コレステロールや肝機能、腎機能の検査では、「血清成分」を使います。血清は抗凝固剤のない
採血管で採血し放置すると得られますが、検査結果を早く出すために、血液を固まりやすくする薬が使われます。
貧血や血糖の検査とは逆の作用を持つ薬を使います。
このほか、血液の止血機能を調べる凝固検査や血液型検査、ホルモンの検査などでも、それぞれの検査を正確
に行うためにそれぞれ専用の採血管を用います。
1本の採血管の容量は2~10mL 程度
採血管が8 本も9 本も並ぶと、こんなに大量の血液を採って大丈夫なのかと、心配になるかもしれません。しかし、それぞれの採血管の容量は2~10mL です。通常、1回に採血するのは、大匙1杯分(15mL)の程度。人間の血液量は体重の13 分の1といわれますから、60㎏の人で4.6L あり、通常の採血で貧血になることはありません。健康な人が全血献血する場合、400mL か200mL を採血しますが、1 か月もすれば体は回復します。それに比べれば採血量はごくわずか。安心して血液検査を受けましょう。