知ってトクするくすりの話『植物から花粉症を抑える目薬を開発』

知ってトクするくすりの話『植物から花粉症を抑える目薬を開発』

私たちがいつも使用しているくすりはどのような由来があるのでしょうか。また、実用化にあたってどのような問題があったのでしょう。このコーナーでは、くすりにまつわるさまざまなエピソードをご紹介します。

監修

明治薬科大学 名誉教授

小山 清隆 先生 (こやま・きよたか)

1979 年、明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。湧永製薬中央研究所、明治薬科大学助教授、同教授を経て、2015年より副学長、2020 年に定年退職。専門は生薬学、天然物化学。

アレルギーを抑える植物成分を使用

春先になると、美しい花々や木々の緑が目立つようになり、閉鎖的な冬から脱け出て、開放的な季節の訪れを感じます。しかし、この季節に私を悩ませるものがあります。「花粉症」です。目のかゆみや、くしゃみ、鼻水は困りものです。特に目のかゆさには耐え難いものがあり、目を取り出して洗いたくなるほどです。
私の場合、混雑した眼科を避け、薬局やドラッグストアで購入した市販の目薬で、この苦境を脱しています。目薬には植物由来の成分、あるいはその成分をヒントにして開発した薬剤が配合されています。今回はそのような薬剤を4種類紹介します。

• グリチルリチン酸二カリウム

この薬剤は花粉症の目薬に広く用いられています。グリチルリチン酸はマメ科植物のウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)やスペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)の根や走茎(ストロン)に含有されている成分で、生薬のカンゾウ(甘草)と同じものです(『こまど』75号)。このグリチルリチン酸をカリウム塩にすることで、水溶性を高めた薬剤です。

• クロモグリク酸ナトリウム

この薬剤も花粉症に使われる目薬によく配合されています。地中海沿岸に産するセリ科植物のケラ(Ammi visnaga)中に含まれるケリン(冠状血管拡張作用、平滑筋弛緩作用を有する)という成分から誘導体を合成・開発したもので、抗アレルギー作用を有します。医療用医薬品としても、アレルギー性結膜炎治療薬(点眼薬)として用いられます。

目薬だけでなく、咳止めなどにも

• トラニラスト

グリチルリチン酸二カリウムやクロモグリク酸ナトリウムほど多くはありませんが、数種類の目薬に配合されています。医療用医薬品としてはアレルギー性結膜炎治療剤(点眼薬)として用いられています。このトラニラストは、メギ科ナンテン(Nandina domestica)の葉や実に含まれるナンジノシド(nandinoside)という成分をヒントに新たに合成された薬剤で、抗アレルギー作用があります。ナンテンの実を乾燥させた「南天実」は、古くから伝統医薬の咳止めとして用いられており、現在でものど飴に配合されています。

• アズレンスルホン酸ナトリウム水和物

この薬剤を含有している目薬はごく少数で、うがい薬や、のどスプレーによく使われています。キク科のカミツレ(Matricaria chamomilla L.) 中に含まれるカマズレン(chamazulene)という、抗炎症作用をもつ物質がヒントになって開発された抗炎症薬です。医療用医薬品としても、点眼薬に用いられています。花粉症がつらいと外出などを控えがちですが、さまざまな春の花々を感じるためにも、自分に合った目薬を使用してはいかがでしょうか。

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